第3話 彼女との初邂逅
「あなたに、対するいじめについて先生方に直談判していたの」
「え…」
彼女のその言葉に対して、僕は言葉を失った。
彼女は今、僕のことを考えて話してくれたように聞こえたのだ。
そんなことは今までなかった。
甘い言葉を囁かれて裏切られたこともあった。
そのせいか、僕は悪意には敏感だ。
しかし、僕に甘い言葉を囁いた彼女は、そんな悪意を感じさせない柔らかな表情で僕に顔を向けていた。
僕はとてもとても混乱していた。
僕に優しくする人がいるはずがいない…。うん、いない。
絶対、彼女には何か目論見があるバズだ。
けど、なんだろう。
僕の従妹に近づきたいのか?
僕が思慮を張り巡らせていると
「ここで、話す話ではないから」
彼女は職員室から出ていこうとする。
ここで、彼女を逃してしまってはもう二度と彼女が僕のいじめをどうにかしようとしている理由を知ることができないような気がする。
「っちょっと。待ってよ!ど、どうして、僕のいじめをなくそうとしてくれているんだ」
「私にそれを聞く前にすることがあるのではないかしら」
その一言で、僕は遅刻届を職員室に出さないといけないことを思い出す。
「職員室の前で待っていてもらえますか」
「わかったわ」
彼女は職員室から出ていく。
「西岡先生、遅刻届、もらえますか」
職員室の割と真ん中あたりに座っている20台後半の女性が僕の前にやってくる。
体育科の教師のせいなのか黒のジャージを着ている。
身長は170センチと女性にしては高く、肩甲骨まで届く髪を後ろでポーニーテールしている。
しっかりとおめかしをすれば美人になるだろが、今は化粧も雑で変な濃淡があったり、雰囲気もどんよりとしている。
西岡先生は気だるそうに僕の前に遅刻届を置く。
僕は慣れた手つきで遅刻届の諸要項を埋めていく。
要項をすべて埋めた遅刻届を西岡先生に渡すと
「ん、大丈夫だ。お疲れ、かえっていいぞ」
「ありがとうございました」
形式上の感謝を述べた僕は職員室を出る。
そこには彼女が仏頂面で待っていた。
「遅い!」
「すみません」
「はやく、いくよ」
彼女は僕の制服の裾を引っ張て歩いていく。僕の歩くスピードに対して、彼女のスピードはすごく速い。人ってこんなに速く歩けるんだ。
なんて、思ってると躓いた。彼女が。彼女は歩を止めてこっちを見た。顔を赤くして、ジト目でなんかこっちをじっと見てくる。なにこのかわいい生き物。持って帰りたい。
僕がそんな思慮にふけっていると彼女はてくてくっとまた、歩き始めてしまった。
彼女に置いて行かれないように、駆け足で彼女のことを追う。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「あなた、今の状況に不満はないの?」
彼女は俯きながら話を聞いていた僕の顔を覗き込むようにして、そう僕に問う。
彼女に連れられて、屋上に来ていた。
この学校の屋上を使う人は少ない。
なぜか。それは、ほかにもいろいろなスポットがあるためである。
食堂、中庭、校庭などなど、県内いや全国でもこんなにいろいろな設備が整っているのは珍しい。
ましてや、それを目当てに県外から入学してくる人がいるほどである。
さらに、今は10月。
夏の鬱陶しい暑さが影をすっかり潜め、秋の訪れを感じる季節。
体感気温で約5度。
もう、半袖で外に出ることなんて出来ない。
そんな時期のためか、雨風に直接さらされるこの場所に来る人は少なかった。
そこで、僕は東大寺さんに愚痴を聞かされていた。
どうやら、彼女は話下手らしい。
彼女の話はとても眠たくなった。
それでも、彼女は初めて出会った僕に優しくしてくれた人。
そんな人の話を無下にできるはずなどなく睡魔と戦いつつ、彼女の話を一生懸命に聞く。
彼女の話をまとめると以下の通りだ。
彼女の家系は代々弓道をやっていて、何人もアーチェリーの選手を輩出している。
彼女の家訓は「清く、正しく」。
僕に対するいじめを彼女は正義ではないと判断。
いじめをどうにかしようと決意する。
しかし、中学のころも彼女は同じような境遇に立たされたことがあった。
その時は、堂々といじめっ子達に対して対抗したらしい。
が、そのせいで、彼女の見えないところでいじめが悪化。
それで、僕に対するいじめをどうにかしようと決めた時は先生など使って協力者を集め、いじめを段階的になくしていこうと決心した。
それを聞いた僕は、奈落に落とされたような気持ちになった。
そうか…彼女は僕だから、助けてくれたわけではないんだ…わかってたわかってたもん!
「あとね、君だったからっていうものあるかな」
「え…」
僕は、また彼女の言葉を疑ってしまった。
彼女は顔を赤らめながら
「ねぇ、国崎くん。私と君、初めて会ったのはいつだったか覚えてる?」
「初めてもなにも、入学式の時に初めて会いましたよね。僕たち。ていうか、僕たち今日始めて会話しましたよね」
僕がそう返すと彼女は何か言いたげに僕のことをじっと見ていたが、何か納得したような表情で
「まっ、仕方ないか」
と言う。
「え、どういうこと。」
「そのうち、わかるよ」
彼女はそう言ってその場から立ち去ろうとする。
僕はその意味深な彼女の言葉がどうしても気になっていた。
「待ってよ。さっきのどういうこと?」
僕がそういうと、彼女は少し考えた後、僕の耳元に近づき、何かを呟く。
彼女の呟いたそれは地球上に存在するどの言語にも似ても似つかないものだった。
彼女がそれを呟いた瞬間、
「っく、あああああああああああああああああああ」
なぜか、とてつもない頭痛に襲われて僕は意識を失ってしまった。
意識を失う前、僕が最後に見たのは闇よりも黒い翼を肩甲骨からはやした彼女の姿だった。
誤字・脱字等々連絡してくだされば嬉しいです。
やっぱり、小説を書くことって難しいですね。
先人たちのようにうまく心情描写することや状況をうまく表現することはなかなかうまくなりませんね。
何か、わからないところがあったり、「こういう表現の方がいいのでは」のような意見はいつでもウェルカムです。
まだまだ、拙い文章を書く、黒ずきんですが、この先もお付き合いのほどよろしくお願いします。
次話には転移するばす…(したい)




