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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第3話「開闢の霹靂」
8/28

・電離層。地上50~100キロの上空に存在する領域。

そこでは地球内の物質である窒素や酸素も、地球外の現象である紫外線も全ては同じイオンと電子の二つに分解される。

しかし、一度分解されたイオンと電子が今、1つに集まった。そして1つの形を伴う。

それは全長200メートルほどの巨大なハエだった。



・学校へ続く道すがら。

「変な夢を見た?」

珍しく朝練がない事で僕は眞姫と一緒に登校する。

「うん……。でもどんな夢だったか覚えてないんだよね。誰かを呼んでいたと思ったら実は僕の方が呼んでて、でもそしたら別の誰かが僕を呼ぶの」

「なにそれ三角関係? あんたレズに狙われてるとか?」

「や、やめてよ眞姫! 僕は至ってノーマルなの! それに全然そんな空気じゃなかった気がする。どちらかといえば怖い夢だった」

「それであんた朝起きるなりいきなり私にダイビングかましてきたわけね。人がせっかく今日はいつもより遅く起きれるなと思ったら1時間も早く起こされるとは」

「ご、ごめん。でも結構長い間見ていたような気がするんだよね。それにあの感覚はまるでPAMTに乗ってる時みたいで……」

「何か悪い影響出てるんじゃないの? あんた最近食欲がさらに爆発してるし」

「成長期ですから」

「胸は成長しないけどね」

「い、言っとくけどね! 僕の年頃でBあれば普通だったらいいほうだと思うんだよね!? 眞姫とか行谷さんあたりが意味が分からないんだよ! 本当は5歳くらいサバ読んでるんじゃないの!?」

「失礼すぎるわ!」

「あう!」

ビンタだ。ひどい同居人だ。

「でも、昨日はほとんど僕が話しちゃってたけど眞姫はいいの? 今ならもれなく記憶消去のサービスまで付いてくるんだよ?」

「それのどこがいい文句なのか。……昨日も言ったけど同居人がある日帰ってこないとかそんなの嫌だからね。あんたの言う真実がどういうものかは分からないけど少なくともUMXとの戦いならどこまでもついて行くわよ。そうじゃなかったらそのために生まれたアボラスが不遇なことこの上ないもの」

「あぁ……やっぱりあのPAMT、僕に合わせて設定してくれたんだね」

「そりゃそうよ。どうしてUMXを知っていながらあんな対人に特化したような小回りタイプの百連を設定したのよ

「いや、僕百連作ったのUMX目撃する前だったし。知ってたらもう少し何とかしたと思うよ? 今でもカスタマイズモードで火力のサポートはしているし。まあそれでも昨日の50メートルクラスが相手だときついよね。いっそのこと先生に言って一度百連を削除して新しいPAMTを作り直せないかなぁ?」

「……私のアボラス以上に可哀想な事を平然と言うわねあんた」

「だってPAMTってスーパーロボットじゃなくてリアルロボットだし。言ってみれば使い捨ての道具だし。でも眞姫や花京院くんのPAMTは明らかにスーパー系の造りしてるんだよね。色々選択まずったかもね僕」

「……あんたまたそんな男の子みたいなこと言って……」

歩く事25分。そろそろ他の生徒達の姿が目立ってきた。無意味に僕は話題を変えて、

「そう言えば今度の週末でもいいからまた眞姫のおごりでどっか食べに行きたいな」

「流石に2度の食事だけで4万飛ぶとかやめてよね。……割り勘ならいいけど」

「よし、今度は僕だけで3万超えてみせる」

「そん時はあんた置いて私だけ帰るから」

「うわ、この女最低だよ。誘っておいて相手を置いてひとりだけ金も払わず帰るとか悪魔の所業だね。きっとエレベーターに乗ったら上に行かずに下に落ちるね」

「今日は誘ってないし、人の奢りや割り勘にさせておいて自分はその人の10倍以上食おうと企んでいるあんたはエレベーターとやらに乗る前に地獄にダンクで落ちるわよ。まさに餓鬼の行いじゃない」

「これでも14歳。眞姫より少しだけ誕生日早いんだよ? あ、ごめん殴らないで!」

「全く。……あ! そうだ、どうせなら私じゃなくてもっと他に奢ってもらうべき人がいるんじゃないかな?」

「え?」

およ? 眞姫が珍しく小悪魔じみたいたずらっぽい笑顔を浮かべているぞ?



・昼休み。

「あぁ!? どうして俺がお前達に飯を奢らなきゃいけないんだ」

職員室でカップ麺をすする筧先生。

「見ての通り俺自身の飯すらこんなもんなんだぞ?」

「先生、せめてテストの採点中くらいは汁物やめましょうよ」

「第一セントラルって給料安いんですか?」

「いや、月給100万は行く。だけど昨日のあれの費用でだいぶ飛んだんだ」

「先生持ちなんですか?」

「あの場を管理していたのは俺だからな。ともかく他をあたってくれ。もしくは来月にでもしてくれ。それまで生き延びるための努力を惜しまないようにな」

「先生、死亡フラグ?」

「うっせ。とにかくあまりこういう話を職員室でするもんじゃない。PAMTやUMXに関する情報が知りたいんなら放課後にでも生徒指導室で……」

その時だ。先生の胸ポケットから不協和音が聞こえた。それを聴くと同時に先生の顔色も変わる。

「……お前達がフラグがどうのこうの言うからこうなるんだぞ」

「じゃあまさか……」

「ああ。UMX2号が発見された。花京院にもすぐ知らせるからお前達は先に行ってくれ。詳しい情報は出次第追って伝える」

「分かりました」

「……あ、でもまだお昼食べてないや……」

「後で公休にしてやるから早くいけ!」

背中に怒鳴られながら僕は眞姫と一緒に職員室を出る。あまり意味はないと思うけど一応人気のない場所を探してそこでPAMTを起動させよう。……そうだな、体育館裏がいいかな? DQN達が居座ってなきゃいいけど。まあ居座ってても百連で軽くねじ伏せればいいか。

そう思って僕達が体育館裏に来た時には予想外の光景がそこにはあった。

「……白百合さん……?」

「……っ!!」

一際大きな大木に白百合さんがいた。でもひとりでもなければただ突っ立っていたわけでもない。

「あらら。見つかっちゃいましたか。野暮な人達ですねぇお姉さま」

声。白百合さんの前……と言うか下にはもうひとりの姿。確か、前に白百合さんと一緒にいた下級生だ。

ただ、この二人がいただけならまだよかった。でも、違う。その下級生ちゃんは白百合さんのスカートの中からしゃがみながら顔を出した。一瞬だけ見えた白百合さんのスカートの中に下着は見えなかった。

「あ、え、いや、その……」

「風紀委員先輩に見つかっちゃったら逃げるが吉ですよね。行きましょうお姉さま」

「……そうね」

そう言って白百合さんは顔を伏せたまま一度も僕達の方を向かずに立ち去ってしまった。

「……今のってアレだよね……?」

「……人には色んな趣味嗜好があるんだからこれ以上詮索はしないでおきましょう。それよりも筧先生から位置情報がメールで送られてきてるわ」

「あ、うん、そうだったね」

危ない危ない。ついつい、白百合さんと下級生ちゃんの……を目撃してUMXの事を忘れてた。……そういう人が居るってのは当然知ってたけどまさかクラスメイトでいるとは思わなかった。そしてその最中の現場を見てしまうことになるとは。白百合さん、そういう人だったんだね。やっぱり。




・上空。高度は2000メートルほど。僕と眞姫はPAMTを使ってその高度を飛んでいた。

なんでも、今度のUMXは空を飛ぶタイプらしい。だったら花京院くんは不利かも知れない。そもそもこの高度で戦う事になったら出番もないと思うし。

「歩乃歌、2時の方向600メートルに超常生命体反応確認したわ」

「UMXだね」

「ええ。でも速度が凄まじいわね。反応から少なくとも100メートル以上の大きさはあるのに音速で飛行している。あれが地上に降りたらそれだけで街は壊滅状態になるかもよ」

「きっとそうはならないと思うけどね。……そろそろ戦闘準備、行くよ」

「了解」

隣を飛んでいた眞姫のアボラスが変形を行う。戦闘機形態から人型に。どうやら眞姫は人型の方が扱いやすいらしい。まあ、アボラスのスペックからも人型の方が有利に戦えるのは明らかなんだけど。ドッグファイトを好むよりかは後方支援の方が得意だろうしね。そして実際そう動いてくれた方が僕としては都合がいい。

後ろ……7時の方向、距離60メートルを眞姫のアボラスがライフルを構えながら飛ぶのを確認してから僕はスピードを上げる。純粋な速度ではアボラスの方が上だから多少は飛ばしても問題ないはず。

そう考えるとちょっと癪だな。空の上とは言え僕が眞姫にスピードで負けるなんて。

「……ん、見えた」

12時の方向のみの望遠システムで見る前方には少しずつ大きくなっていく一点があった。確かに速いけど百連の半分位だ。けど、だんだん大きくなっていくに連れて大きさが分かる。推定200メートル。それがマッハで飛ぶなんて中々理不尽な……しかもこれが一応生物なんだから困るよね。

「攻撃開始するよ」

「了解」

Bボタンを押す。同時に左右のボタンから1発ずつミサイルを飛ばす。普通だったら煙を巻いたり轟音を響かせるものだけどPAMTのそれは理屈が違うのか、どちらもがない。後者はともかく前者はスモーク代わりにはなるから出来ればあった方がいいと思うんだけどなぁ……。

ともあれ発射された2発のミサイルはまっすぐに敵に向かっていき、10秒後に命中して爆発。UMX1号分身体なら1発で消し飛ばせたけど今回はさすがに大きさが違うからか2発とも命中しても大したダメージは見られなかった。代わりに見えたのは敵の姿。まるでハエかイナゴのようだった。

「うわ、」

後ろの方で眞姫の小さな声がした。まあ、女子からしたらグロイよね、あれ。

ともあれ感想はここまでにしよう。百連の、飛行形態での最大火力たるミサイルの直撃を受けてアレはビクともしていない。さらにどんどんこちらとの距離を縮めて行っている。どうしようか。

「くっ!」

って言ってる間にUMX2号は手を伸ばせば届きそうな距離まで来た。このままだと衝突するから左下に回避。遅れて眞姫もライフルを撃ちながら回避したのが見えた。中距離から遠距離がメインのアボラスだったら眞姫は射撃と回避に余裕があるから百連よりかは操縦が楽そうだ。

さて、どうしようかな。UMX2号は今、僕と眞姫の300メートル後方にいる。どうやらただ突進するだけの敵らしい。200メートルの物体がマッハで突進してきたら厄介だけど、百連なら余裕だね。でも攻撃が通用しない。しかも、今高度を計算してるけどあいつ少しずつ下に降り始めている。このままだといつかは地上スレスレをマッハで飛び回るような状況になるかもしれない。もしそうなったら僕は無事でも街は大変なことになる。

「眞姫、そっちの攻撃は通じた?」

「いや……。でも昨日使わなかった奥の手の重機関砲マキシマムファイアなら計算上あいつの皮膚を打ち破れるわ」

「マキシマムって今朝見せてもらったアレ? 空の上でどうやって使うのさ?」

「あんたに任せるわ、天才でしょ? 出来ないことはないんでしょ?」

「……そう言われて引き下がれないの知ってるくせに。……さて、」

PAMTには演算やシミュレーション機能付き高性能のスーパーCPUがついてるから眞姫が計算したと言うのなら確かに眞姫の最大火力は通用するのだろうけど、アボラス本体の倍近い重さの武器をこの空戦でどうやって使うかが問題だよね。百連ではもちろんアボラスでもあれを空中で保持するのは不可能。……だったら。

「眞姫、シミュレーションデータ送信するからそのとおりに動いて」

「え? ……え!? これやるの!?」

「僕がサポートに回るから」

「……簡単に言ってくれちゃって……!」

ブツブツ言いながらも眞姫は一度戦闘機形態になって機首を上に向けてさらに高度を上げた。その間に僕はUMX2号を追いかける。マッハ2の百連で十分追いかけられるからだいたいマッハ1~1,2くらいかな?

一応機銃やミサイルを発射してみる。……効果なし。こちらを振り向くことすらしない。ムカつくな。巨大戦艦だってコアむき出しで戦闘機に倒されてくれるって言うのに。

「……ここだ!」

UMX2号に追いつく。追い越す勢いで頭上ならぬ背中の上を飛び、接敵。ちょっとだけ先行してから人型形態に変形。

「闇椿!」

変形完了と同時に僕は転送武器を取り出す。そうすることで一瞬にも満たない僅かな時間で百連の右手に日本刀が出現してUMX2号の背中に逆手で突き刺す。やっぱり皮膚は硬くて、薄皮数枚に突き刺さる程度だけどそれでも何とかしがみつく事は出来た。でもこのままだと数十秒程度で引き剥がされる。

だから僕は右手で刺した刀に百連の体を支えながら左手でフレアを正面上に向けて発射する。それが目印だ。

「……来た!」

僕よりも100メートル上空で待機していた眞姫が僕からのフレアを確認すると、そのフレア向けて急降下する。降下中に人型形態へと変形して重機関砲マキシマムファイアを転送。アボラスの3分の2位の大きさで、百連の倍近い大きさのそれを落下方向である正面に伸ばした両腕に向けて顕現。その重量がアボラスの降下を加速させる。

そして、

「歩乃歌!!」

「眞姫!!」

僕が闇椿を抜いて離れるのと同時にアボラスが同じ場所に落下して刺さっていた場所にマキシマムが叩きつけられる。そして、6つの銃口から秒速2000発の斉射が開始された。

「イmガアアアアアアアアアアアア!!!」

UMX2号がアルファベット付きの悲鳴をあげながら突進を止めて大きく振動する。その質量が少しずつだけどどんどん大きくなっていくのがメーターで分かる。体内にじゃんじゃん銃弾が流し込まれてるんだろうなぁ。……あ!

「くっ……!!」

眞姫が振り払われてしまった。マキシマムファイアはUMX2号の体から離れ空中で消滅。UMX2号は悲鳴を上げたままその場で痙攣していると、やがてそれを止め次の瞬間に。

「分裂した!?」

バケツからこぼされた水のように無数に分裂をしてしまった! 1体1体が全く同じ姿形をしていて、汚物に集ったハエのように群集してやがて、散り散りになっていく。

「眞姫!!」

「あれを全部!?」

コンピュータが瞬時に数えた敵の分裂体の数は2600。それぞれがマッハ1で飛び回っているから面倒な事この上ないけれど、でもこいつらがみんな地上に降りたらもっと面倒な事になりかねないよ!

幸いサイズは百連と同じくらいになった。これなら百連の攻撃も十分通用するはず。よし、リアルでは初めてだけどドッグファイトと行こうか!




・大空埋め尽くすほどに広がるは2600体ものUMX2号。1体1体の大きさは3メートル程度。

1体でも撃ち漏らしがあって地上に下ろしてしまったら大変な事になる。

その大空の中で一気に火が咲いた。

「くううううう!! これは今までで一番楽しいかも!」

ちょっと不謹慎かもしれないけど、僕は今楽しんでいた。

空はどこを見ても敵だらけ。いずれもが突進で僕を襲って来る。スピードもタイミングもバラバラだ。

でも、それを全て掻い潜りながらミサイルとか機銃ばら撒いて敵を撃破していくのは快感! なるほど。無双ゲーとかやった事ないけどこんな感じなのかな。そりゃ楽しいわ。

「撃墜スコア現在……36!」

いいよね~! 数ばかりで1体1体が脆いからミサイルどころか機銃でも蜂の巣に出来る。うんうん、シューティングってこういうものだよ。HPとか防御とかそんな意味分からないの必要ないんだよね!

「よぉし!!」

ミサイルを左右にばら撒き、機銃を発射しながら前進。前方の群集に穴を開けるとそこを通り抜けてバレルロールしながらUターン。敵群集をドーナツ状にして、そのドーナツの穴から全方位に向けて攻撃フルバーストして一気に外側の敵を殲滅殲滅! 見てよ! 面白いくらいにスコアが伸びていくんだから!

「イmガアアアアアアアアアアアア!!!」

「っと!」

4時と6時の方向から2体ずつ突進してくる。対して僕は振り向いてから後退した。普通戦闘機なら出来ないけど重力で動いているこの百連なら正面向いたまま後ろに下がる事が出来る。

そうして迫り来る2体ずつが、ちょうど1時と11時の位置に到達したのを見計らってミサイルを1発ずつ発射。

そうすることで先行していた1体ずつの上半身を消し飛ばして後続が残った下半身にぶつかって一時停止。そこへもう1発ずつミサイルを発射して残った下半身もろともに爆砕!

「さて、」

そうしている間に百連を囲むように群集が集まる。今、百連ぼくの周囲200メートルには100体以上の敵がいる。そしてそれぞれがまるで吸い込まれるように僕に向かって突進を始めた。直撃予想時間は5秒後。

「回避は出来ないね。だったら!」

Cボタンを押して百連を人型に変形。そして両手をめいっぱい広げてから、

「ビーム指!!」

10本の指からビームを発射する。最初はまっすぐ伸ばして1時、2時、10時、11時に直線上にいた敵を貫通。続いて手首から先全体にビームを纏って、まるで手で掬った水を撒き散らすようにビームの波をなるべく広範囲に広がるように発射。しかも回転付き。

まっすぐ発射するよりも射程は短くなっちゃうけどその分範囲は広くて、回転も合わせて全方位の敵を少しずつ撃破していく。イメージは悪いけど、お風呂場に次々とやってきたハエをお湯をかけて追い払うみたいに。

シミュレーションした時はちょっと威力が心配だったけど、相手のサイズがサイズだったから意外といい感じ。

ミサイルで撃破するのと違って残骸が結構残るけど、今ちょうど下に花京院くんがいるそうだから残骸の火葬は花京院くんに任せよう。これくらいは仕事をさせてあげないと可愛そうだしね。

「眞姫、生きてる?」

「死んでたらそもそも回線自体繋がらないでしょ? 全く、私のは数を相手にするタイプじゃないってのに」

「そう言いながらも今、チャージショットで20体くらい消し飛ばさなかった? 間違って僕を巻き込まないでよ?」

「流れ弾でもあんたは当たってくれないでしょうに」

「当然」

通信をしながら僕は闇椿の脇差版を2本逆手に持って敵の群集に突進。迫り来るUMX2号の喉元に突き刺して、死体となった敵を僕を中心に180度回転させて、闇椿を引き抜いて踵ブースターで死体を焼却しつつ正面に。突進する敵が僕に命中する寸前に喉元を回転剣無みたいに次々とカッ捌いて行く。

うんうん。これはシミュレートしていなかったけど流石僕。

倒した敵を足場にしてまた、次の敵へと斬りかかる。

でも、これだけやってまだ撃墜スコアは300くらいか。眞姫はもっと少ないだろうからまだ2000以上もいるんだよね。面倒だなぁ。百連のエネルギーも無限じゃないし。と言うかもう分裂してから20分くらい経ってるから分裂体も結構バラバラになってて、本当に死体以外がこの周囲の空にいるのかも分からない。ひょっとしたらもう地上に降りているのもいるかも……。

「眞姫がでかい内に止めをさせないから」

「わざわざ聞こえるように回線繋げて言う事か」

「けど、さすがにこれはジリ貧だよ。数の暴力って言うよりかは量の暴力だね。どうする? いっそのことわざと地上に下ろして花京院くんの援護を頼りにする?」

「って言う事だけどあんたはどう?」

「ああ。俺は別にかまわないぜ。紫が落としてきた敵のほとんどが海に落ちちまっててはっきり言って暇だし」

「じゃあそうしよう」

とりあえず前方にいたおよそ30の敵に向かってビーム指のチャージショットを撃ち込んでから変形して地上へと降下を始める。眞姫の方もチャージショットで数を減らしてから変形して降下を始めたようだ。

僕達の降下に合わせてまだ2000前後いるUMX2号分裂体も降下を始めてきた。……ってあれ?

「降りてはいるけど、追っては来ない……?」

「……! 歩乃歌、あいつまた1つに戻り始めてるわ!!」

「……!」

そうか! 対空だとあのでかい図体じゃ不利だから分裂して群集で攻めていたけど、対地の場合はソニックブームで潰せるから集合体の方が有利なんだ……!

空戦戦力だとあのでかい図体を叩くのは厳しくて、でも陸戦戦力だと捕捉して砲撃をする前にソニックブームで殲滅される。よく見れば、もう高度は300メートルほどにまで下がってる。この状態なら、あの200メートルの巨体がただ急降下してくるだけで街1つは壊滅するし、そこにいる花京院くんも危ないかもしれない……!

でも、逆にこれはチャンスかも知れない。だって捕捉さえ出来れば、敵の襲来より先に奴を倒せるだけの砲撃を浴びせられたならそれでこの勝負を終わらせられるんだから。

「花京院くん!! インフェルノの最大火力って対空で放てる!?」

「ん? ああ、問題ないぜ。ただちょっと時間は掛かるがな。その間俺もここから動く事が出来ない」

「花京院くんの……インフェルノのポイントはここだから……このままだとギリギリ届かないかもしれない」

「歩乃歌! どこだったら届くの!? 何だったらワイヤースリングで引っ張っていけば……!」

「いや、あの重量はきついかも知れない……いやでも、羽があって空を飛べるって事はそれなりに空力はあるわけだから……もしかしたらいけるかもしれない……。分かった、花京院くんは準備を始めてて、発射地点は君の直上!」

「分かった!」

「眞姫はワイヤーを発射して!」

「いいけど、もし分裂しちゃったら……!」

「敵はきっともう分裂しないよ。だって今のあいつは最初の時より半分位質量を減らしてる。4分の1削られただけで質量が半分減ってるって事は分裂体と集合体は質量保存の法則の外にあるんだよ! 一度分裂してその数を減らされたらもう無理をしないと元には戻れない。だからこれ以上分裂体を減らされたら再集合は出来ない。分裂体じゃ、数では勝てて一時優勢に立てても時間を掛ければ殲滅させられる事が今証明されたんだ。だったら成功するかはともかくとしてもまだ成功する可能性がある方法を取るのが道理だよ……!! そしてそれが今! 早く!!」

「わ、分かったわよ!」

アボラスから射出されたワイヤーが急降下をしているUMX2号の4つの足に絡まり、ワイヤーを僕達二人で引率する。前回と違って今度は向こうが自力で飛んでくれるから感覚としては凧揚げに近いかも。

もちろん今は凧揚げ感覚を楽しんでいるだけの余裕はない。だからこのまままっすぐ、

「あなたの名前はね、歩きながら歌う女の子って意味だよ? だから何事も楽しまなきゃ」

「……!!」

突然に頭の中に蘇った言葉。

どこかで見たような気がするアスレチックで、どこかで見たような気がする女の子と一緒で……。

何、今のは……? デジャヴともまた違ったよく分からない違和感……。

「歩乃歌?」

「……ううん、何でもない。……凧揚げでいいじゃんか。揚げるのが凧じゃなくて不気味なハエの化物だけどね……!」

気付けば鼻歌を歌っていた。いつかどこかで聞いた歌の。

「紫、準備完了したぞ!」

「了解! じゃあUMXを切り離すよ!」

「分かったわ!」

「同時に発射を!」

「あいよ!!」

僕と眞姫がワイヤーを切り離し、UMX2号が空力を取り戻してベクトルを横から縦に戻す。その直後に地上からものすごい熱量が迫った。推定温度は1000度以上。火力発電所が一ヶ月に作り出せるのと同じくらいの熱量が柱のように放たれて、UMX2号を包み込んだ。灼熱は30秒以上続いた。炎が空に消えると、そこにはもうUMX2号の姿は欠片ほども残っていなかった。レーダーで確認してみてもやっぱりUMXの反応はもうどこにもなかった。

「……任務完了、かな?」

「そうね……」

「っし!!」

ふう、今度は一回で勝てたけどもう百連のエネルギーがあまり残ってないよ。群集体相手にエネルギー使いすぎたかな。

「……でも、さっきのは一体……?」

思い出す。……思い出せない。なら、仕方ないかな。

とりあえず筧先生に報告して、お昼食べようっと。

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