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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第3話「開闢の霹靂」
7/28

・僕達が学校にたどり着いた時、最初それが学校だとは気付かなかった。

いや、正確に言えばちょっと違う。

「……あれ?」

あまりにもいつもどおり過ぎて、さっきまで怪物……UMXと戦っていた事実を忘れてしまいそうになっちゃった。

だって眞姫が踏み潰した屋上が元に戻っていたり、当然のように中庭や校庭で生徒がお弁当を食べているし……。一体どういうこと? まるでさっきまでの騒ぎが嘘だったように……。

「来たか」

「筧先生!」

「まあ、まずは生徒指導室に行こうか。そこでお互い話し合おう」

「……」

筧先生の後に僕達は黙ってついて行くことにした。……けど、ただではなく、

「ねえ先生。もう昼休みですよね? だったらさ、お弁当取ってきてもいいですか?」

 「……相変わらず自信と食欲だけは曲げない奴だな。まあ、PAMTで戦ったんだから体力の消耗もあるだろう。よし、お前達弁当とってきていいぞ。あと、午後の授業はお前達公休状態になっているから時間を気にする必要はない」

「え? じゃあちょっとサッカーでもしてこようかな」

「よし、相手になってやるぜ紫!」

「いや、あんた達流石に空気を読もうよ」

「……ったく」

流石に冗談だよ?

ともあれ一度お弁当を取りに教室に戻る。教室のみんなはやっぱりいつもどおりでさっきまでの事が本当に何もなかったかのよう。……絶対これ嫌な事考えちゃうよね。先生がこれから何言うか想像できちゃう。

「……さて、まあ落ち着いて聞け。飯でも食いながらな」

で、生徒指導室。普段ここなんて使う事ないからちょっとだけ緊張する。

……まあ、いつもどおり重箱で食べる僕だけど。

「まず、最初に何を聞きたい? それを最初に説明してからそれを中心に話を進めようと思うんだが」

「じゃあ、聞きますけど。ぶっちゃけこれセントラルの仕業ですか?」

「……単刀直入と言うか出会い頭にヘッドショットと言うか、容赦ないな紫は」

「で?」

「……まあ、そうだ。Portble Asultism Mechanical Truperは政府議会軍セントラルが生み出した最新鋭の対外戦力たる機動兵器だ。そしてお前達が戦っているUMX、Unknown Monster X と呼ばれる存在はセントラルが生み出してしまった超常生命体だ」

「じゃあセントラルのマッチポンプ……と言うか実験ってわけなんですね。……と言いますか突っ込まないでいましたけど先生は何者なんですか? セントラルの事をそこまで知ってるなんて。副業は禁止ですよ?」

「細かい奴だな。……筧の家もこの学校もセントラルの管轄にあるんだ。言ってみればここの教師の大半はセントラルに所属している。校長なんてセントラルの幹部だしな。で、確かに紫の言う通りにPAMTの性能実験のためにお前達中学生に、正確に言えばセントラルの管轄下にある中学生にPAMTをばら撒いてUMXと戦わせていた。だが、これはセントラルにとっても苦渋の策ではあるんだ」

「どういう事ですか?」

「PAMTを作ったのもそれを中学生達にばら撒いたのも全てセントラルが意図して行ったものだ。だが、UMXに関しては違う。詳しくは言えないがUMXは、セントラルとは違う敵対した組織が作り上げたものだ。それも偶発的にな。正確に言えばセントラルに敵対している組織が偶発的に生み出してしまった怪物でセントラルを攻撃していて、セントラルが撃ち漏らした怪物を迎撃するためにお前達にPAMTを配った。その性能実験も兼ねてな」

「撃ち漏らしたって言いましたね? じゃあセントラルは今、その敵と戦っているってことですか? でもそんな事聞いたことありませんよ? セントラルは特別部隊じゃなく正規の国政軍。だったらその活動は機密にする必要はないはずでは?」

「本来はな。だが、今回に関しては例外だ。そしてそれについては俺の口から明かす事は出来ない」

「……じゃあ次です。さっきUMXを1号と言いましたがつまりは他の種類や個体も存在するわけですね?」

「ああ、そうだ。とは言えあの1号だけでも1億体以上いる。分裂体が、じゃない。お前達がさっき戦ったあの本体が、だ。撃ち漏らしてここまで寄せてしまったのは今のところ倒された2体だけだからもうあの1号が現れる事はない」

「セントラルは撃ち漏らして僕達の前に現れてくる全てのUMXを把握しているということですか? だったらどうしてわざわざ中学生にやらせるんですか? 敵の数とか場所を把握していないというのでしたら不特定多数の中学生達にやらせて炙り出させる方法もありかもしれませんけど。でも実際には先生みたいにセントラルの所属でありながらこうして暇をしている人もいる」

「……本当に痛いところばかり突いてくるなお前は。それに関しては俺も納得は行っていない。セントラルのとある幹部の指示らしい。そして俺達セントラルの所属は現状PAMTを持つ事も使用することも許可されていない。何故ならPAMTはパラフォでしか起動できず、そして現行法ではパラフォを複数所持する事は禁じられている上、物理的にもそれは不可能だ。だから今はお前達にやらせるしか方法がないんだ。前線に出ている奴は違うのかもしれないがな。で、どうしてそういうことになっているかは俺にも説明がされていないから分からない。説明されていないのは俺にだけじゃない。多くのセントラル職員はただ上からの命令で黙殺されている。ただ、戦うつもりがないのに興味本位でPAMTを手に入れてしまった 者に関してはこのUSBメモリに入っているアンインストールプログラムを使う事でPAMTを削除する事が可能となる」

「……記憶を消して、ですか?」

「……」

「きっと今回UMXが学校を襲ったのはイレギュラーな事態なんですよね? 多くの無関係者にその存在を知られてしまった。少数であれば記憶を消すなり最悪口封じをすればいいけど流石にあの人数は無理だった。だから、何かしたんですよね? そしてさっき眞姫が潰した屋上がもう直っている。これもおかしい事です。そしてPAMTもだ。パラフォから物体を出現させる技術があったとしても、それはきっと一種の転送装置でクリア出来るかもしれません。でも、僕はPAMTの中で戦っている。搭乗とかそういうのではなくもはや一体化してPAMTを動かしているんだ。

……そしてこれはきっと言わない方がいいと思うんですけどそれでも敢えて言わせてもらえれば……」

「やめろ。それ以上言えばただでは済まなくなる」

「……」

「きっとお前が考えている事は正解だ。ならばそこからUMXやセントラルがどういうものかも想像が出来るはずだ。だが、その事は誰にも言うな。決して口外してはいけない。もしすれば俺でも止められない」

「……分かりました」

「紫からの質問はきっとそれで全部済むはずだ。牧島、花京院。お前達は何かあるか?」

「……いや、そのとりあえずまだ何がなんだか……。そうだ、どうして花京院はUMXの事を知っていたんですか?」

「そりゃ前に先生から直接聞いたんだよ。俺がPAMTを手に入れたのは今から2ヶ月以上前。先生がばら撒いたPAMTのデータを最初に、そして先生の前で受け取ったからな」

「え!? 先生が実行してたんですか!?」

「……俺だけじゃないと言っても意味はない事だがな。他にも何人かいるはずだ」

「まあ、ともあれそういうわけだから俺はそれからずっと先生の指示で、積極的にUMXと戦い続けていたんだ。誰か一人が積極的にUMXを倒し続けていればその分だけ無関係者が関係者になっていくのを防ぐことになるからな。

……まあ、その甲斐もなくこうして無関係者が二人、関係者になっちまったがな」

「花京院くんはセントラルじゃないんだよね?」

「ああ。親父は板前だし、母さんは小説家だし。セントラルとは無関係の家だろうよ」

「セントラルに属している家はそう多くはない。その分1つ1つが甚大な権力を持っているがな」

「じゃあ先生。どうしてその権力持ちながら未だに独身なんですか? 30代にもなって」

「……俺に権力を振るって嫁を掬えと? いいんだよ、独身で」

「へえ?」

「だいたいお前達はどうなんだ。部活に明け暮れているのはいいが恋愛事情は学生時代が一番……ててっ!! こら牧島! いきなり脛を蹴り出してどうしたんだ!?」

「もう少し空気読みましょうね、先生」

「……はぁ!?」

「……」

「……?」

もう、眞姫ってばいきなりそんな事。意識しちゃうじゃない。意識しすぎてさっきからホットドッグが止まらないよぅ。

でも、まあ、とりあえず話はひと段落したかな。

話をとりあえずまとめると、PAMT対UMXの構図はやっぱりセントラル……この現代においてあらゆる国家を挟んで連携して存在している政府議会組織セントラルが仕組んだこと。

PAMTを中学生達にばら撒いたのはその性能テストと、セントラルに敵対する組織が偶発的に生み出して送り込んできた怪物UMXを迎撃するためにセントラル本軍が足止めを食らっているからその代役を誰かさん達の思惑で任されている。……そして。

「じゃあ先生。いくらでもやり直しがきくって考えてOKですか?」

「……いや、それは無理だ。大事になってしまうのを防ぐためにしただけであって、通常は不可能だと思ってくれ。……物理的には出来てもな」

「……ふぅん」

「……歩乃歌、何の話?」

「なんでも~。それより先生。質問を再開してもいいですか?」

「ああ、いいぞ。……プライベート以外はな」

「そんなの興味ないです。そんな事より、PAMTの総数を知りたいです」

「ああ、それか。俺が賄ったのは全部で26体だ。しかし、俺があのプログラムでアンインストールしたのが3人、そして残念ながら他の20体は全て撃破されてしまったようだ」

「……」

「え? 撃破ってことはまさか……」

「最低な言葉だが、俺の管轄外だ。知る由はないが十中八九死んでしまっただろうな。そのほとんどがゲーム感覚でUMXに挑んでしかし初陣を乗り切れずに……」

「……そんな、」

「じゃあ先生。今PAMTを持っているのは僕達3人だけですか?」

「俺が配ったのはな。他にも何人か担当がいるはずだからそいつらが仕事をサボっていたり、配られた奴らが全員死んで死ぬかアンインストールしていない限りは絶対にもっといる。だが、そいつらの居場所を教えることは出来ない」

「え、何で……」

「眞姫? どうして僕達にPAMTが配られたのか思い出してみてよ」

「え?」

「わざわざ筧先生みたいな人がいるにも関わらず僕達を使ってるのは先生達よりも自由な行動が出来る上、数がいる学生だからだよ。それなのに僕達みたいにこうして集まっちゃったら意味がないでしょ?」

「じゃあ、私達は離れた方がいいの?」

「いや、3人くらいなら問題ないだろう。一人ではほぼ勝ち目がない大型UMXでも3人でなら勝てた。この先、恐らくまだまだUMXが次々と迫るだろうが、3人いれば生き残り続ける事は可能なはずだ。それにお前達がこうして集まったように他のPAMT所有者も他者に気付かれない程度の少数の集団を成していてもおかしくはない。むしろ、ここまで勝ち残れているならば十中八九チームを組んでいるだろう」

「やっぱりまだUMXは出現する可能性があるんですね」

「ああ。UMX1号だけで1億体以上いるんだ。俺が知る限り2~4号までは存在する。そしてそいつらもまた1億体以上ずつはいるだろう。セントラル軍がいくら強くてもその総数は多く見積もっても5000万程度。そして使っているのはPAMTより旧式の機動兵器だ。全滅や敗退などしない程度には有利ではあるが数の暴力の前には撃ち漏らしはない方がおかしい」

「……」

そんな数億体規模での戦いがあるだなんて、一体どこで戦っているんだろう? 少なくとも陸地ではないよね。となると水中? それとも宇宙? 或いは……。

いや、それよりもそれほど圧倒的な数の差があるのに撃ち漏らしが1体や2体程度で収まるくらいの戦力があるんだ。ならやっぱり撃ち漏らした敵を僕達だけで倒させるのはおかしい。筧先生はきっとほぼ全てを話している。少なくとも嘘は付いていない。だとしたら先生でも知らない事実があるのかな? もしその可能性が現実のものだとしたら先生の言葉を信用し切るのは少し甘いかも知れない。

それに、PAMTは今セントラルが使っている戦力の次世代機になるはず。確かにPAMTの性能はすごいけどあの大型UMXを相手に一騎当千が出来るほどじゃない。でも、今セントラルが主力として使っている兵器にはそれが可能。テレビとかでやっていた模擬戦とかだとそこまでの性能があるとは思えない。

……一体どう言うことだ? 僕達に配られたのはデチューンモデル? それとも僕達はPAMTのその全ての性能を引き出していないもしくは引き出せないようになっている? もしそうだとしたら本当に実験しているのはPAMTじゃなくて……。

「歩乃歌、そろそろ昼休み終わっちゃうわよ」

「え? あ、ほんとだ」

「おいおい、午後の授業は休みにしてあるって言ったのに受ける気か?」

「先生? 僕達これでも優等生ですので」

「優等生ねえ。まあいい、そんなにつまらない授業を受けたいなら受けてこい。俺は事後処理と言う名目で花京院と将棋を指す」

「いいっすねぇ。でも飛車抜きでお願いしやすよ」

「いいだろう。何なら角も抜きでいいぞ? その代わり負けたら今夜お前の家で食べるからサービスしろよ?」

「うっす! やってやるぜ!!」

「歩乃歌、馬鹿が移るから私達は行きましょ」

「そうだね」

僕達は生徒指導室を後にした。

「そうだ。思い出したけどどうして眞姫がPAMTを?」

「だってあんたに関係者にされちゃったからね。どうせ関係者になるんだったらただ見てるだけよりあんたと一緒に戦った方がいいわよ。嫌なんだからね? 家に帰っても誰もいないなんて未来を待つのは」

「……それは、うん。落とされないように気をつけるよ」

「……でも正直理解の範疇を超えていたというか理解したくなかったというか色々な事実が明かされたわね」

「そうだね」

「……やけにスッキリしてるじゃない。覚悟完了してたから?」

「ううん。それもなくはないんだけれどもっととんでもない事実に気付いたからね。で、それを知ったらもうほぼ全ての謎が解けたから、慌てて見せる必要もないかなって」

「全ての謎?」

「そう。話を聞く前から学校のこの状態を見てまさかと思ったけど先生の話を聞いて確信したよ。……とても信じたくないけどね」

「……その割には嬉しそうだけど?」

「……かもね。どこかの神父も言っていた言葉だよ。喜べ少年、望みは叶うって。僕は女の子だけど」

「?」

「この事実、知りたい?」

「先生が口外するなって言ってたじゃない」

「でも僕は、眞姫が僕と最期まで相乗りしたいって言うなら喜んで教えるよ?」

「……不吉ね。考えさせてよ。あんたはどれだけ私に相乗りをさせようとしてるのよ」

「いいよ。正直僕もまだきっと全然冷静じゃない。今晩くらいに発狂してるかもしれないしね」

「……あの話のどこにそこまでの情報があったのか分からないけど」

眞姫の表情が変わるのが見えた。でもきっと僕の表情も凄いことになってる。……自分の顔が見れないのが幸か不幸なのか。もしかしたら、そういうのを知るためのシステムかもしれないけどね……」




・ここはどこでもないどこか。

手足の感覚はないし、見えるものは暗闇と混沌。為ればきっとこれは夢の中なのだろう。

「エレベーター?」

目の前には暗闇を破って、覆して、踏み潰して、至って普通のエレベーターが現れた。

しかし自分の声は聞こえない。否、口を開いているかも分からない。しかしそれは当然だろう。なにせ、これはなんの変哲もない夢なのだから。

エレベーターに乗ってとりあえず慣習的に8階を押す。やがて、自分の体が重力に逆らって上がっていく感覚が分かる。どうしてだろうか、ただの夢だというのに。

「……クスクス。ただの夢なんかじゃないよ?」

「誰!?」

声だ。しかしその色に覚えはない。夢とは自分の脳が作り出す合成映像のようなもの。MADとかあんな感じのものに過ぎないはずだ。だから、自分の既知範囲=合成素材にないものは作れないはずだ。とは言え素材を適当に滅茶苦茶にごちゃまぜにしたならば、

「そう逃げなくてもいいんだよ。逃げたら止まるだけだしね」

声だ。声に思考が覆られた。おとなしくなった。忘却の静寂がこの自然現象に逆らう限定空間を支配する。

「あ……」

エレベータの表示が8を超えた。でも、外の景色は変わらない。朝焼け前の町並みだ。人の影は当然ながらない。いや、地面も見えない。建物達の下に見えるのは泥のような沼のような渦が巻いたゲル状の何かだ。よく見れば少しずつ建物達がそれに巻き込まれて小さくなっていく。

「違うね。今の君が地面なんて見る必要ないと思っているんだ。そしてその資格が君にはある。その資格を持った君からすれば窓から見える全ての景色なんて見る価値もない程見下げ果てたモノのはずだからね」

声が響けば、それがこのどこまでも広がっていく閉鎖空間の正義に、常識に、結論になる。

心が恐怖している。億劫になる。しかし高揚もまたしている。

「うん。それがいいよ。それでこそ最果ての扉を叩くにふさわしい存在だ」

声。それはどんどんはっきりしたものになっていた。まるですぐ背後に、もしくはこのエレベーターのドアの向こうにいるかのように。

やがて、エレベーターは止まった。数字の表示は消えていた。エレベーターが故障或いは点検の際によく見る状態。かと思えばいつの間にかこの体はエレベーターの外に出ていた。まるで最初からエレベーターなんかなかったかのように自分の足は己の重力を認めていた。

足が動く。勝手に動く。でも、自分はそれを望んでいた。

背後を振り返るようなことはない。文字通り正面にしか道がないように。

「そう。それでいいんだ」

声に引き寄せられた。気が付けば正面に無機質な扉があった。マンションなどにあるような何の変哲もない鉄製のドアだ。表札はない。ドアしかない。そのドアのノブに手を伸ばす。自分の手は見えない。

「やあ、やっと来たね」

少女だ。少女がドアの向こうにいた。ドアの向こうには少女しか見えない。

「その少女と言うのも少し間違ってるね。確かに君の認識ではそれが一番近いかもしれないけど僕は違う。僕に性別なんてないよ。そもそも生物じゃないしね」

「あなたは……何?」

「その疑問をするためならば僕は君の前から去ることになる。そんなつまらない事を気にするなら君に用はないからね」

「……僕に何の用? 僕をどこまで……僕はどこまで進めるの?」

「どこまでも。この最果ての扉にたどり着けたんだ。君に限界はない」

「最果てなのに?」

「世界は球体だよ。地球のような一層式ではなく多層式だけどね。果てにたどり着いたのならまた別のスタートラインが見える。無限に続くライン。長さ無限のテープみたいなものだよ。君はその一歩にたどり着いた」

「……無限の一歩……」

「落ち込むことはない。むしろ喜ぶといいよ。これまでの歴史の中でここにたどり着けたのはほんの数名しかいない。人間の女の子と言う縛りならば君が二人目だ。何の因果かどっちもボクっ娘だけど。……尤もそんな縛りなんて意味がないんだけどね」

「……」

「踏みしめなよ。一歩を。進みなよ、それが君の意味だ」

「……僕の、意味……」

膝に力を込める。先へ進もうとして、しかし、耳に聞こえた。否、

「あなたの名前はね、歩きながら歌う女の子って意味だよ? だから何事も楽しまなきゃ」

自分の脳裏からその言葉は蘇った。それが足の一歩を止めてしまった。

「……へえ、面白いね。僕より前に君にGEARを与えていた言葉を受けていたとは。なるほど。やっぱり君は珍しいよ」

「待って。あなたはどこから来たの!?」

「僕はここから来たんだよ。……この最果ての扉の向こうからね」

「……最果ての扉……」

「そう。僕には名前なんてないから好きに呼ぶといいよ。あ、でもこの前来た人は僕を、最果ての扉の先に待つ者って呼んでたかな。クスクス、そんな名前に意味なんてないのにね」

「……最果ての扉の先に待つ者……」

「まあいいや、今君を僕と同じ最果ての先に案内するのはやめておこう。自分のGEARを持っていながらそれをたった今思い出したような状態で臨まれても失敗作が出来てしまうだけだからね。でも、覚えておくといいよ。僕は全てを知り、全てを試し、それでも誰かを導くようなことはしない。今日だって僕が君を呼んだんじゃない。君が僕を呼んだんだ。だからもしまた僕に用があるなら、そうするといいよ。今の君にはまだ、その資格がある」

音と光はそこで消えた。

次に目に入れた光は見慣れた部屋の天井だった。

「……夢……?」

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