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・中学校。中庭。広さに関してはその気になればここで全生徒が昼食を取れるほどには広い。実際のところ、校庭と大差ない。隣町の聖黒咲学園のような一貫校は例外だが、市立の中学校にしては中々広い面積を持っている方だ。
その中庭で大きな姿が2つあった。
片方はUMXと呼ばれた全長50メートル程の怪物。人のそれと同じ2本ずつの手足の他に先日歩乃歌が戦ったものと同じ触手のような尻尾を4本生やして水中を漂うクラゲのように空中を泳がせている。
もう片方は、
「せぇぇぇりゃあああああああああああ!!」
花京院繁が雄叫びをあげた。
全長20メートルほどのティラノサウルスを模した赤と黒の機体が2つの足で地を蹴って運動エネルギーを作り出し、半ば倒れ込む形で突進を繰り出した。
この二つの巨体の激突は中庭というリングの中で行われている怪獣同士のプロレスのようなものだった。
尤も観客はほとんどいない。多くの生徒は地下体育館へと緊急避難を続けている。歩乃歌もまた例外ではない。
「……花京院くん……」
廊下の窓から巨体同士の戦闘を見やる。攻めているのは赤の機体だ。
「どうしたデカ物!! ガードだけで勝負になっかよ!!」
繁、インフェルノは背を向けた。その流れで大木とほぼ同じ長さと太さの尻尾が敵の左足に叩き込まれる。大きさからして足払いにはちょうどいい。しかし、敵の巨体は微動だにしなかった。
「……ちっ、どういうことだ……!? 昨夜のは一撃で倒せたのに今日のはえらく硬てぇ!!」
繁はモニタを見た。敵の推定ダメージはほぼ0に近い。対してただ突っ立っているだけの敵に攻め入っているこちらの方がダメージを負っていた。
大木ほどの硬さを持つ尻尾でも鋼の高層ビルに真っ向から叩きつけられれば内側から軋む。
尻尾撃を2度繰り返しただけで尻尾のダメージは3割を超えた。これ以上続けるのは可能だがそれだけで可能性は終わってしまうだろう。
「たぁ言え、こう狭いと俺的には不利だな」
敵の巨体を見上げる。表情のない怪物の顔はこちらを見てすらいなかった。では、何を見ているのかといえば校舎全体を見ていた。そして時折その唇が動く。
喋っているのか、或いは。
「……何を数えてやがるんだ……!?」
言葉を捨て、ボタンを押す繁。コマンドを受けたインフェルノは敵の右手に噛み付いた。どれだけ敵が頑強であろうと指や関節といった部分まで同じ強度とは限らない。いや、絶対にそれより劣るだろう。
本体にダメージを与えられないのならせめて敵の武器を削って見せよう。
その粋で攻撃を続け、数秒後にインフェルノが顎を離すと、敵の右手はズタズタになっていた。5本の指はそれぞれ枯れ木のようにボロボロとなっていて怪物が少し腕を動かすだけでちぎれ落ちるだろう。
そして、実際に怪物が腕を動かすとそれだけで5本の指は本体から離れ地面に落ちた。
ここまでは繁の想定内だ。しかし、そこから先の光景は実際に見た今でも理解が遅れていた。
「な……!?」
地面に落ちた5本の指は、地面に激突した瞬間にスライム状の液体になり、次の瞬間には2メートルサイズの同タイプのUMXへと変貌を遂げた。さらに巨体の方のUMXの右手も気付けば元通りに修復されていた。
「……増殖する上再生機能付きって……どう倒すんだよコイツ!!」
・音が響く。
僕達が階段を転がるように降りる音と、他の生徒達が悲鳴を上げている情けない音と、中庭で花京院くんとあの怪物が戦う音だ。
「先生……!!」
「今は逃げろ!」
「……先生はあの怪物が何なのか知っているんですか!? PAMTが何なのか知っているんですか!?」
「……そうか、お前も……」
「先生!」
「いいか、今から話す事を聞いてしまえばもう後戻りできない。それでもいいのか?」
「……僕がまだ戻れるというんですか!?」
僕は立ち止まる。先生も一瞬遅れて立ち止まった。そのせいで前を走っていたみんなと離れてしまう。
僕の背後にはもう先生しかいない。そのさらに後ろでは中庭の景色がかすかに見えるだけ。
「ああ、そうだ。俺が持っている専用のアンインストールプログラムを使えばPortble Asultism Mechanical Truperをアンインストール出来る。そして二度とインストール出来ないだろうし、UMXに襲われることもないだろう。……今回のように巻き込まれることはあるだろうがな」
確かに。昨日どれだけ試してもPAMTをアンインストール出来なかった。アンインストールしてもしてないように僕のパラフォの中にプログラムは居座っていた。スパムやウィルスよりタチが悪いなって思った。
僕に不可能があるってことも腹が立った。それが今ここで消せる……?
そりゃ、覚悟完了とか言ったけど絶対面倒な未来が待ってて、それをここで打ち切りに出来るって言うならそりゃ手放しで受け入れたいけど……でも、何となく嫌だ。
先生が信用できないわけじゃない。未だゲーム感覚でいるわけでもない。拍子抜けを食らいたくないわけでもない。
ただ、ただこのまま中途半端で、スタートラインに立ったばかりの今、投げてしまっていいの……!?
出来るから、やるがスタンスの僕が、出来るのに逃げてしまっていいの……!?
昨日、眞姫に言われ言った事をこんなところで覆していいものなのか……!?
「どうした紫? どうして迷う? お前は軍人ではないし関係者でもない。事故に巻き込まれた被害者のようなものだ。もしくはそれ以上に被害と迷惑を被った存在だといってもいいだろう。いや、本来ならこうして俺が質問しているのもおかしいな……」
先生が懐からUSBメモリを出した。きっとあの中にアンインストールプログラムが入ってるんだろう。
「パラフォを貸せ。今ここで……」
「先生、実行してください」
「は?」
「最初に言いかけたこと。PAMTの事、あの怪物の事、教えてくれるんですよね? だから教えてください」
「……お前、自分で何を言っているのか分かっているのか……!?」
「分かってます。確かに僕は被害者ですし、被害者で居続けるほどお人好しでもなければ馬鹿でもありません。一歩間違えてしまえば死ぬかもしれません。怖くて外に出たくなくなるかもしれません。この選択を一生後悔するかもしれません。でも、そんな事どうでもいい」
「はぁ……!?」
「僕には戦う力がある。1回目はともかく2回目は自分の意志でPAMTで戦った。早まったわけでもない。覚悟を決めて僕は昨日戦う事を決めた。だのに逃げ道が見つかったくらいでそれに甘えて逃げてしまうなんて僕にはとても出来ない!」
「お前はまだ子供だろうが!!」
「知ったこっちゃないよ!! 年齢なんて関係ない! 性別も、僕は、僕が出来る事は何だってやりたい! 目の前に現れたのが壁だったらどんな壁でも乗り越えていきたいし、打ち破っていきたい! たとえその壁に当たって砕けたとしても、その最後の瞬間まで立ち止まりたくない!!」
「その戯言を聞かせたところで俺が素直に言うことを聞くと思っているのか!?」
「だったらこうしてやる!!」
僕はパラフォを出してスタートボタンを押した。
・紫の光が一瞬、景色を遮る。次の瞬間には元通りの景色がそこにはあった。左右に壁、正面に筧先生。でも、その景色と僕の目の間には半透明なモニターがある。そのモニターのすぐ下にはコントローラ。
……うん、最初から人型形態になる事も出来るみたいだね。サイズ的に天井スレスレだけど。
それを確認すると同時に僕は左手を伸ばす。
「あ……!!」
人間の何倍もの速度だ。それで先生が右手に持っていたUSBメモリを掠め取る。
「紫ぃぃぃ!!」
両手を上げて向かってくる先生。それが届く前に僕は右の掌底を放った。
「ぐっ!!」
先生の体はラケットに叩かれたテニスボールのように吹っ飛び、でも壁にぶつかる前に僕が回りこんで受け止める。同時に左のズボンのポケットにUSBメモリを入れる。……気付かれていない。
「紫……!!」
「話は後です。まずはあの怪物を倒します」
「……奴はUMX1号だ」
「え?」
「お前が……お前達が今まで戦っていた怪物は全て奴が作り出した複製物に過ぎない。奴は自分が作り出したコピーが全て倒された事を知って自らこうして現れたんだ。PAMTを持つ人間が多く存在するこの学校にな」
「……」
「奴を倒せばもうコピーは作られない。だが奴はとんでもない再生能力を持っている。倒すにはコアを探して破壊するか、全体をそっくりそのまま一撃で消し飛ばすかだな。花京院のインフェルノなら状況次第でそれが可能だが、場所が悪い。ここじゃインフェルノの切り札は出せない。あれは本来接近戦タイプじゃないんだ」
「……だったら僕が移動させます」
「このサイズじゃ無理だ……。このタイプは巨体を相手にするのはほぼ不可能。と言うより奴は天敵と言っていいほど相性が悪い……」
「でも……!!」
「じゃあ私も付き合ってあげる」
「え?」
声がした。階段の方を見ると、そこには眞姫がいた。しかもパラフォを右手に持っていた。しかもしかもその画面はPortble Asultism Mechanical Truperの起動メニューだった!
「ま、まっま、まままま、眞姫!?」
「牧島、お前まで……!?」
「歩乃歌、このままだと花京院が危ない。まずは外に出ようよ。私のPAMTはここじゃ出せない」
「……事情は後でよぉく聞くよ? いい!?」
「好きになさい」
言いたいことは山ほどあるけど、それは筧先生も一緒のようだし。何この三角関係。嬉しくない。
でもとりあえず先生をその場に捨てて代わりに眞姫を抱えて窓から飛び出した。
「踵ぉ!!」
「ぶわっ!?」
何か巻き込んだような気がするけど多分先生だからいっか。
窓から出てとりあえず屋上に着地。
「で、眞姫。どうするの?」
「要撃する」
眞姫を下ろすと、眞姫はいきなりキメ顔でパラフォを出してスタートボタンを押した。
次の瞬間。
「は?」
僕が最初に得た情報は屋上が陥没する光景だった。次に屋上の床があった場所にダークブルーのロボットが立っていた。人型だ。それも結構大きい。僕(百連)の3倍くらいある。背中に戦闘機みたいな翼があるから変形するのかな? それと目立つのは本体よりも大きいライフル……もはやキャノンだけど。
「これが私のPAMT・アボラスよ。因縁の深い赤いタツノオトシゴなら簡単に溶かしちゃうんだから」
「……どうして屋上に……って下ろしたの僕か」
「でもいいポジションよ。敵がゴミのよう……とは流石に言えないわね」
「そりゃね」
怪物……UMX1号はぶっちゃけ校舎よりはるかに大きい。倍くらい大きい。花京院くんのインフェルノもこの校舎よりちょっと大きい。
「で、どうするの?」
「移動するわよ」
「は?」
僕が疑問の声を上げると、眞姫のPAMT……アボラスは右手に持ったライフルを敵に向ける。
「バルーンショット!!」
銃口からなにか出た。弾丸にしてはちょっと遅い。形状が肉眼で分かる。それは名前のとおり風船みたいだった。その風船が1秒もしないでUMX1号の腰のあたりに命中すると、一瞬で消える。
「……で?」
「見てなさい」
眞姫に言われてずっと観察してる。でも、何も起きない。
……ん?
よく見るとUMX1号が少しずつ上に上がっているのが分かった。
「浮いてる?」
「だけじゃないわ」
眞姫が指を空に向けたから僕も視線を上げる。見ると、UMX1号の頭の上にたくさんの風船がついててどんどんその巨体を空に持ち上げていた。しかも上昇速度は加速してる。10秒すぎれば踵が完全に校舎よりも上に行き、15秒でスペースシャトルみたいに空に突っ込んでいった。
「……このまま放っとけばいいんじゃないの?」
「それは無理。水素で出来てるから宇宙までは上がらない。放っておいたら落ちてきてここが吹っ飛ぶわよ」
「じゃあどうするの」
「動かす」
「へ?」
眞姫が、アボラスがジャンプすると一瞬で大型の戦闘機に変形してUMXが消えた空に飛んでいく。
何だかよく分からないけどとりあえず僕も変形して追いかける。
10秒ほど、高度3000メートルくらいで追いついた。
「まさかこれを横に押して移動しようっていうの?」
「押すんじゃ攻撃されちゃうから引っ張っていくのよ」
アボラスからワイヤーが発射されてUMX1号の上半身をグルグル巻きにした。牧島眞姫だけに。
ワイヤーの端の片方をアボラスが、もう片方を僕が百連にハードポイントで掴んで、
「いっせーの、」
「せい!!」
同時にアクセルを押して二人でガンガン先に進んで、UMXを空輸する。
「ちょっと、眞姫! 速い! 速いって!!」
「まだマッハ3しか出してないじゃない」
「百連はそこまで出せないの!」
「あ、そっか」
眞姫が減速してくれた。でも、マッハで進んでるのにワイヤーは全然切れる様子はない。丈夫すぎない?
「どこまで運ぶの?」
「ちょっと待って。今通信してるから」
「通信? 誰と?」
「花京院」
「ふぇ!?」
「……うん、うん、分かった。で、何だって?」
「いや、それ僕もすごく聞きたいんだけど。……どこまで運ぶの?」
「無人島。今座標送るけどそこに落とす。それで無事だった場合を考えて花京院と合流して一気に勝負を決める」
「……花京院くん。そこまで来れるの?」
「何とかなるそうよ。ああ見えてすごい速いんじゃないの?」
「……」
「……よし、降下に入るよ」
「わ、分かった!」
うう、あれだけ啖呵切ったのに完全に眞姫にペース握られてるよぅ……。
泣く泣く眞姫の指示に従って、スティックを動かして降下に入る。Gも風も感じないから全然実感ないけど百連もアボラスも機首を斜め下に向けて少しずつ……と言っても音速だけど地上に向かっている。一度だけ後ろを確認すると既にバルーンはなかった。まあ、ワイヤーよりは間違いなく脆いよね。
やがて、20秒程度で地上に到着して僕達は合図なしでワイヤーをカット。UMX1号を思い切り地面に叩きつけた。
「紫、牧島。聞こえるか!?」
「か、かかかか……!」
「お前は最強なくせに一途な相手には名前を噛みまくる性器丸出しな魔人か。そんな事より、俺もそろそろ持ち場に到着するぞ。状況は?」
「え、えっと……!」
落下地点から離れている最中の僕はスティックを切って眞姫と同時に地上を向き直り、モニタをタッチして落下地点を望遠して覗く。当然といえば当然だけどすごいクレーターが出現しちゃってるよ。と言うか眞姫に言われるがままに叩き落としちゃったけど本当に無人島だったのかな? 町とかあったら大変なことになってたよあれ。
「……煙が……」
しばらく上がっていた土煙が消えると、茶色い塊があった。多分UMX1号だろう。生死はともかくとして残骸でも残っているからすごいよ。
……でも残念ながらすぐに生死ははっきりした。
「動いた……生きてる!!」
だけじゃなかった。立ち上がったUMX1号は姿が変わっていた。激突の衝撃で図体がひしゃげたとかそういうんじゃない。きっと最初にあれがさっきのと同じ個体だと分かったのは状況証拠と僕が天才だったからだろう。
だってそれほど姿は大きく変わっていた。
今までのミノタウロスみたいな姿から色は変わっていないけれど、上半身がまるで腕と顔のついた城のようになっていた。そして下半身はと言うと人の下半身とは違って馬とか牛とかの胴体みたいに4つ足になっていた。
「……今の落下の衝撃を吸収して強くなったとでも言うの……!?」
「いや、多分違うよ眞姫。見て。あの城壁みたいな両腕。少しだけだけど罅が入ってる。つまり落下の前にあの姿になって落下ダメージを軽減させたんだよ。そして、あいつには再生能力があった。なのに防いだってどういう事か分かる?」
「……?」
「あいつの弱点と言うかコアは上半身にあるって事だよ。そしてそれは再生できないんだ……!」
そうと分かれば道は明るい。上半身に攻撃を集中させればいいんだ。でも、まだそこに届いてはいない。何故なら、マッハ2で数百キロを航行して速度を殺さないまま地面に叩き落としたのに少し亀裂が走るだけで済んだ意味不明な防御力があるのだから。
「おいおい、姿変わってねえか!?」
声。見ると、海を渡ってインフェルノが走ってきた。
……飛べないからって海を走ってきたんだ……。
「で、どうするよ? 一応会話は聞いていたが」
「上半身に攻撃を集中させる。でも、生半可な火力じゃ倒せない。残念だけど百連は無理だね」
「花京院は?」
「切り札を使えばもしかしたらな。けど出力が強すぎて逆に倒しきれないかもしれない」
「……範囲が広くなりすぎるってことか。私のはそれとは逆だね。範囲が狭すぎてあれを落とすのは厳しそう」
……あれ? ゴールが見えたのに手詰まり? 最悪あれをここに置き去りにするって手もあるけど最後の手段にしたいし。……あ!
「!」
「ウyゴアアアアアアアアアア!!」
とか何とか言ってる内に敵が動いた。今まで海藻みたいにうねっていた尻尾を自ら引きちぎってそれを手槍に変質させる。それでいて尻尾が再生する。……嫌な相手だ。
「まあいい、なんとかやって見せるか……!!」
花京院くんが言って、インフェルノが走り出した。そして自分の倍以上の大きさのUMX1号と真っ向から激突する。
「歩乃歌、とりあえず武器を落とすよ!」
「了解!」
眞姫は右、僕は左を狙って飛行。弧を描くような軌道で空を貫いてUMX1号の左手の手槍に向かってミサイルを発射。ミサイルどころか百連よりかも大きい手槍だったけどミサイルが命中すると粉微塵に吹っ飛ぶ。同じように反対側の手槍も眞姫の攻撃を受けて破壊された。
そこで気付いた。爆発と言うか、破壊の仕方が今までと違う。今までの小さなUMXは倒した際、液体が弾け飛ぶみたいになってたけど今のは普通に、個体が粉々になるのと同じ感じだ。
それに、よく見たら落下の衝撃を防いだあの両腕の亀裂がまだ修復されていなかった。
……もしかしてあいつ、再生出来るのは本体部分だけで、そこから変質させたらそこはもう治せないんじゃないかな……? だとしたら方法はあるかも知れない。でも、それでもあの上半身を守る城みたいなパーツ。尋常じゃないほど頑丈。あれを破壊する手段は今の僕達にあるのかな……?
……いや、ちょっと待って……。
「花京院くん!」
「何だ!? 今忙しい!!」
「さっき、昨日のは一撃で倒したって言ったよね!? それってそいつと同じ? どうやって倒したの!?」
「ん!? ああ、こいつと同じだ。流石にここまで姿変わっちゃいなかったが普通に火ぃ吐いて倒したぞ」
「じゃあ今やって!」
「応!」
1秒もしない内にインフェルノの口から炎が吐かれる。一瞬で敵の上半身を包み込む。でも、
「ぐっ!!」
炎を突き破って放たれた敵の右ストレートがインフェルノを弾く。
「花京院くん!!」
「大丈夫だ! けど全然効いていないな……!! やっぱり強くなってるのか……!」
「もっと他に情報ない!? 状況とか詳しく!」
「こんな状況で出来っかよ! ……えっと、昨日の夕方過ぎくらいで、筧先生から電話があって……ぐふっ!!」
無防備だったインフェルノにUMX1号がタックルを食らわせた。助けに行きたいけど僕達に出来る事は相手の足場を狙って動きを妨げる事だけ。それもあまり意味がないみたいだし……。
「いてて……。で、えっと、それから海から出てきたばかりのこいつらの内1体を火炎弾で倒したんだ」
「……海……もしかして……」
僕はスティックを動かして百連を海の方へ移動させる。
「歩乃歌!?」
「眞姫、試してみる! もしかしたら海水が弱点なのかもしれない!」
「……そううまくいくとは思えないけど……」
眞姫の嘆息を無視しながら僕はUMX1号の背後にある海。その海面に向かってミサイルを2発発射する。
1秒もしない内にミサイルが海の中にダイブして水中で爆発。噴火みたいに水が吹き上がって、今度は雨のように周囲に降り注ぐ。
「ウyゴアアアアアアアアアア!!」
その吹き上がった海水がUMX1号の全身を濡らしていく。でも、気にする様子はなくUMX1号のパンチがinfernoに命中。
「くっ!!」
「無理だった……!?」
「待って歩乃歌! ……やっぱり、今インフェルノを殴った奴の右手!」
「え?」
眞姫に言われて右手を見てみる。そこにはさっきまでなかった亀裂があった。
……もしかして海水そのものが弱点じゃなくて海水を浴びることで急激に脆くなるとか……!?
「歩乃歌!! 奴が海に逃げようとしているよ!!」
「こ、攻撃!! 攻撃を集中して!! 今なら倒せる!!」
僕も機銃やミサイルを撃ちまくる。眞姫はアボラスを空中で変形させてライフルを発射。
「くらいやがれぇぇぇぇぇ!!」
花京院くんも、火炎弾を発射。
正面の空からは僕が、背後斜め上の空からは眞姫が、背後からは花京院くんが攻撃を加える事であれだけの巨体だったUMX1号は波にさらわれた砂のお城のように崩れていく。
そして、本物の波が押し寄せてはUMX1号の下半身を粉々にして、倒れた上半身もまた水中で粉々のドロドロになって跡形もなくなってしまった。
「……やった……!?」
「……レーダーに反応はないみたいね」
「……ふう、何とかなったか」
僕としてはもう少し観測を続けたいんだけど眞姫も花京院くんも完全に状況終了ムードだった。と言うか、眞姫の声からはいつもの力強さが全然感じられない。そう言えば今のが初陣のはず。
「眞姫? 大丈夫?」
「……え? あ、うん。でも思った以上にきついね、これ。無理やり集中させられるんだもの」
「……じゃあ帰ろうか」
筧先生や花京院くんに、そして眞姫にも聞きたいことは山ほどあるんだから。
「……俺はまた海を超えなきゃいけないのか」
花京院くんのつぶやきが聞こえた。でも、送られてきたインフェルノのデータにあるこの重量は百連とアボラスが二人で力を合わせても空輸は難しそう。まさかここまでUMX1号を運んできた時みたいにするわけにもいかないし。ここは観念して海を走って超えてもらおう。日本まで300キロくらいあるけど。
「ふう、」
でも、この三日間。PAMTで戦い続きだったけど今日は今までと違って気が楽だった気がする。きっと一緒に戦う仲間がいてくれたからなんだろうなぁ。なんて、照れくさくて言えないけどね。
・歩乃歌達がUMX1号の本体と戦っている間の事だ。
学校の敷地内を野良犬のように動き回っていた5体の小型UMX。しかし、それらは既に影も形もなくなっていた。
「お姉さま~。これで全部片付いたと思いますよ~?」
その声は少女のものだった。しかしそれを放っていたのはとても少女には見えない無機物の姿だった。
「……そう」
その言葉に返事を作ったのも少女の声だがやはり生物にも見えない無機物の姿だった。
「まさかUMXがここまで表沙汰な事するなんて思いませんでしたね~。ここ10年くらいで初めてなんじゃないですか?」
「……そうね」
会話をしながら2体の無機物は中庭に集まると、光を放った。
「きっとこれから騒がしくなるでしょうね。面倒になったらいいな~」
「……」
光が消えたそこには二人の少女がいた。その手にはパラフォが握られていてその画面にはPAMTのメニュー画面が表示されていた。