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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第9話「最後の日常」
23/28

・夜が来て、意識が闇に消えれば次に目を覚ました時は大抵朝になっている。

「……んん、」

一日の始まりはやっぱり見慣れた天井だ。やっぱりシミが増えてる。どっかの誰かさんが夜な夜な恨み節で僕の寝顔を見下ろしていたりするのかな?

「あ、起きた?」

隣。ベッドの向こう、タンスの前には眞姫がいた。相変わらず色気のないグレーの下着姿だ。それでいて無駄にグラマラスなんだからきっと騙される男子は騙されるよね。……はっ! 眞姫はそれを狙って……!? だから、部活の時とかはほぼ下着に近い状態にまで着装を薄くして体のラインを見せつけるようにして性欲に飢えた男子達に見せつけてるんだ。きっと僕が見ていない間に体育館裏で……。

「不遜な気配がするのでチョーップ」

「いだっ!! それゲンコツだよ!? 僕のプリチーでジーニアスな頭に何してくれるのさ!」

「朝から人の下着姿をじっと見しながら何かブツブツ言ってたから。どうせまた意味不明に人の尊厳削ってたんでしょうに」

「僕そんなことしないよ? ただ眞姫がそのボディライン使って男子部員達に体を売るために陸上部にこんな朝から向かってるんじゃないかって……いだっ!! ぎゃん!!」

に、2回も殴ったぞこいつ! 僕の身長がなかなか150センチに達しないのは絶対この眞姫パンチのせいだよ!

「そんなわけで、いや、そんなわけじゃないけどとにかく私部活の朝練あるから先に出るわよ」

「もう、眞姫は生真面目だなぁ。こんな時にまで部活に行かなくたっていいだろうに」

「私だってあんたと同じように自分のペースってのを守りたいだけよ」

制服を着込んだ眞姫が冷蔵庫からそばめしを出してレンジでチン。その間に飲み物やスプーンの準備をする。この時一応僕の分まで用意してくれるのが眞姫の性分だ。まあ、毎日のように僕が料理担当やってるからそれくらいはやってもらわないと困るんだけど。

で、僕はその間に顔を洗いに行く。

「じー」

鏡の前にいる自分の姿を見る。

麗しの銀髪を下ろした寝起き姿の美少女がいる。うん。今日も可愛いぞ僕。でも、胸も背ももう少し欲しいかな。

この姿だと小学生に間違われてもおかしくない。まあ、間違えた不遜は僕の飛び蹴りを食らうことになるけどね。え? 喰らいたいからわざと間違える? そんな変態さんは千代煌で踏み潰します。これでもエクスタシー感じるならきっと文字通り天にも昇る気持ちなんだろうけどね。それくらいの快感っていうのがあれば僕も味わってみたいものだけど、(物理)になってしまうなら喜んで遠慮かな。まあ、僕にその気がないのは今までのUMXとの戦い、特にあの偽物との戦いでよく分かってるんだけど。何せこの誰より速く走れる足が全く動かないどころか風船とかゴムみたいな意味分からない材質になったんだから。はっきり言ってあの時は絶望したね。

まあ、戦闘民族ではないけどこうやって元の足に戻ってからは何だか以前よりも速く走れるようになった気がするよ。もしそう言う効能があるなら今度蛍に頼んでみようかな?

「歩乃歌? そばめし温め終わったわよ?」

「あ、うん。今行く」

急いで顔を洗い、口をゆすいでからリビングに戻る。既に眞姫は椅子に座ってそばめしを食べていた。

……呼んでくれるのはいいけどどうせなら食べるのを待つことが出来ないのかなぁ? 別にいいけどさ。

僕は寝間着のまま眞姫の隣に座り、山ほど盛られたそばめしをスプーンで貪り始める。

「あんた最近よく食べるようになってない?」

「う~ん、自分でもなんかそんなような気がしてるんだよね。なんか視力も上がってきてる気がするし、知らない間にレベルアップでもしたのかな?」

「コンタクトもメガネも必要ないくらいに見えるようになったんだっけ?」

「うん。まるでPAMTの中にいるみたいだよ。ひょっとして結構回数重ねたからそう言う体質になったのかな? PAMTって結構燃費悪いし」

「え!? 2号の時とか結構長い時間戦ってた気がするんだけどあれでも燃費悪い方なの!?」

「そうだよ? とある冷戦が終わらなかった世界のラノベの機動兵器なんて150時間くらい戦えるんだよ? でもPAMTは内蔵武器、しかもエネルギー消費系武器が多いせいで最大でたったの2時間しか戦えないんだから。しかもまだ誰も使ってないから実際どうなのか分からないけど、リミッターを解除した状態なら大幅に出力が上がる代わりにたった15分でバッテリー切れになっちゃうし。まあ、PAMTはパラフォがあればどこでも使用出来るし、転送武器に登録してあればどんな武器でも使用出来るって言うメリットもあるから一概にどっちが上かなんて言えないけどね」

それでも、

「千代煌は僕の知る限りのあらゆるロボットの中でも最強クラスだけどね」

「……自慢はいいとして、これからどうするんだろう0号とか」

「そうだね」

偽物やUMX6号7号との戦いから2週間。あれから一切出撃はない。ナンバリングされたUMXも、0号も一切動きは見せていない様子。0号は僕に勝利して別の世界へ行くのが目的だった。だからセントラルに協力していた。ゲーム版Portble Asultism Mechanical TruperでUMX戦のシミュレーションが出来るのも0号から与えられた情報のお陰だって事がつい最近判明したし。

「次元転送を行おうとした時に襲って来るとかないわよね?」

「う~ん、場合によっては有り得るんじゃないかな? 先に協力関係を壊しちゃったのはセントラル側の方だし。向こうから奇襲を仕掛けてくる可能性はなくもないと思う」

「……あんたで倒せそう?」

「実際0号がどれだけ強いのか分からないけど1号や2号を参考にするなら、PAMTを使っていたとは言え分身体を簡単に倒せたから本体も充分倒せると思う。でも、きっと0号もそれは分かっているはずだよ。破れかぶれで襲ってくるとは思えないし、襲撃をするなら僕に勝てる自信があるか、あるいは僕と戦わないようにするか」

「あんたを戦わせないようにする?」

「そ。例えば眞姫達じゃどうしようもないくらい強い、もしくは多いUMXを向かわせてそれに仕方なく僕が出撃してガードが空いたところで本体がセントラルを襲うとか。まあ、それでもよほど遠くまで行かせない限り僕は間に合うと思うけどね。それに、0号がいつから生きてるか分からないけど少なくとも0号には次元を隔てるだけの技術はないわけだから、それを持ってるセントラルを完全に壊滅させるなんてことはしないと思うな」

「じゃあどうするのよ」

時間を気にしながらも眞姫の興味は消えていないようだ。

「一番平和的な解決法としては僕が次元を超える際に0号も一緒に連れていくことだね。でもきっとそれはかなわない」

「……反対側が6号7号を直前になって向かわせてきたわけだしね」

「そう。……眞姫、聞きたいことはまだまだあるかもしれないけどそろそろ行ったほうがいいんじゃない?」

「……そうね。分かったわ」

名残惜しそうにしながらも眞姫は慌ててカバンを持って部屋を飛び出した。食器とかの片付けをしていないから僕にやれって事なのかな? まあいいけど。

「7時15分か」

まだ時間はある。走れば20分くらいで着く。そう言えばUMXと初めて戦った次の日は色々混乱してて、一人でいたくないからってものすごい速さで学校まで行っちゃったっけ。7時半には着いてた様な気がするから自己ベスト更新してたんだよね。いま再挑戦したらもっと早く到着するのかな?

「……ううん、やめよっと」

多分今から行けば眞姫すら追い抜いていっちばぁーん!! になっちゃう。興味はあるけどそんなことをしても意味がない。いつもどおりゆっくり、でも早く行こう。

「っと、」

カレンダーをめくり忘れていた。何度も4月後半が繰り返されていたから忘れていたけど今日から5月だ。



・食器を片付け終わって、もはや日課となった毎朝のシミュレーションを終えて僕は通学路に出ていた。

今朝のシミュレーションは今現在開発中の百連Mk-Ⅱのものだ。

どうやら千代煌は最果ての扉の先で待つ者からもらった異常データで、パラフォの中にインストールされたPortble Asultism Mechanical Truperとは全く無関係のシステムみたいだった。だから百連を作って管理していたPortble Asultism Mechanical Truperは全く起動していない状態だった。でも、機能していないわけではない。

あの時、地下病棟で百連を起動できなかったのは単なるパラフォの故障で、まとめて蛍に直された千代煌での初陣の時はやろうと思えば百連でまた戦う事も出来たみたい。まあ、悔しいけど百連じゃ頂A雷には勝てなかったから結果的には気付いてなくてよかったというか気付いてても意味がなかったんだけど。

あれから僕本来のPortble Asultism Mechanical Truperを起動して百連の再設定を行なった。

今までどおり対人戦も考慮しておきながらせめて大型UMXを一人で倒せるくらいには火力とか性能とかを増強したモデル。それが百連Mk-Ⅱ。弐百連にひゃくれんとかって名前でもいいかもしれない。名前はきっと重要だ。弐百連のデータを作って、一度完成させるとそれが登録されちゃって変更は面倒らしいし。

まあ、でも正直何が来たって千代煌で十分対応可能だと思うけどね。この前はシミュレーションで頂A雷100万機を同時に相手して余裕で勝利出来たし。

「……あ」

信号の向こう。そこには見覚えのある後ろ姿があった。

「あら歩乃歌さん。おはようございます」

「和佐さん。おはようございます」

信号を渡って合流する。思えば、この人とも随分自然になったと思う。最初は信号跨いだ対岸を走り合う赤の他人みたいな感じだったのに。

「今日は走らないんですか?」

「はい。今日は私の学園は創立記念日なので休みなんです。ちょっと散歩していたら歩乃歌さんを見かけたもので」

「今日って、5月1日ですよね? ゴールデンウィークに囲まれた明日が憎くないですか?」

「そういう子もいるらしいですよ。まあ私は明日も休ませてもらいますが」

「って事はそろそろって事ですか?」

「はい。24時間以内には次元転送システムを再起動できます。もちろん彼女にはなるべく負担が掛からないようになっています。何か事情がない限りは明日か明後日に作戦開始となります。なので今日はどうかご自由になさってください」

「……」

そう。この2週間でセントラルは最後の作戦に踏み出した。前回ので義手の蛍じゃシステムを制御できない事が判明したため急いで補助システムを付けることにしたんだけど、あのシステムは列強宣言がされるよりもさらに前の、少なくとも100年以上前にはあったらしいから使い方は分かっても補助システムや似たようなシステムを作るのは難しかったみたい。

「あのシステムってセントラルが作ったものじゃないんですか?」

「元からこの世界にあった装置らしいですね。それを100年前にこの世界にやってきたセントラルの先人が何とか操作方法を調べて、生体ユニットとして蛍さんを使ったそうです」

「……それっておかしくないですか? 蛍はまだ僕と同じ中学生ですよ? あの姿になったのもここ数年らしいですし。それに蛍のPAMTが他の全てのPAMTのモデルになったんですよね? だったらセントラルの計画が動き出したのってここ10年くらいじゃないですか。それまでの90年以上はどうしていたんですか?」

「はい。それは私も疑問でした。ですが先日調べてみたところ、実はもっと前からセントラルの計画は始まっていたんです。あのPAMT、アズライトも蛍さんが初めて扱うというわけではないんです。今から60年前、蛍さんのお婆様が中学生だった時に初めて開発され、アズライトの試験運用をしていたそうです。ですがその頃はまだほとんどUMXも、列強宣言側の刺客も現れずにアズライトの実験は芳しくなかったようです。

ここ10年で急激に動き出したのはきっと私がこの世界に来たからでしょう。私の方法で世界線を超えると一時的に世界線が柔らかくなって、正規の方法でなくとも世界線を超えて別の世界に行く事が出来やすくなるそうです。最上さんのように事故で世界を渡ってしまうことも可能性としてはあります」

「……って事はあなた元凶ですか?」

「そんな事はありませんよ? ただ毎朝世界線を超えて別の世界にいる兄へお弁当を届けに行くだけです」

「それはそれはお兄さんが羨ましい気もしますが、しかしそんな可愛らしい些細に巻き込まれた火核さんはどうなんでしょうかね」

恨み節ではない。でも流石に同情はする。まあ、彼女はこの世界に落ちたことを悪くは思っていないみたいだけど。

「罪悪感がないわけではありませんよ。だからこうして解決に乗り出しているんです。本当なら他にやりたいこともありましたし」

「やりたい事? と言うか和佐さんはどうして自分の世界からここへ来てるんですか?」

「……それは、私にはもうあの人達に合わせる顔がないからです。だからこうして避暑地のように別の世界へやってきては一人で生活しているんです。普通の中学生をやり直したかったと言うのもありますしね」

「……」

今までと雰囲気が違う。何やら事情がありそうだ。興味がないといえば嘘になるが知っても仕方ないことだろうね。

「火核さんはあなたのいた元の世界に帰るつもりなんでしょうか?」

「それは私には分かりません。いいえ、きっと最上さん自身にも決めかねている事でしょう。しかし、どの道を選ぼうとも少なくとも作戦が終わるまでは一緒にいてくれるそうです。彼女のPAMT、クリムゾンもスピローグの残骸や技術を取り入れて大幅にパワーアップされていますから頼もしいですよ」

「ま、僕には勝てないだろうけどね。で、火核さんのだけ? 蛍のアズライトはいいんですか?」

「彼女のPAMTは実験型。1号や2号の分身体などはともかくとして大型なUMXを相手するのは厳しいでしょう。それに彼女は今回戦いには参加できません」

「……あ、そっか」

蛍がシステムやって、次元転送するんだから当然か。アズライトじゃこのインフレ化した戦場に追いつけないだろうしちょうどいいのかな。

「さて、詳しいお話は後にしましょう。そろそろ行かなくては遅刻するのでは?」

「ちっちっち、甘いですよ和佐さん。僕の瞬足を舐めたらいけません。ここからなら10分あれば間に合います。なので僕は一度これで失礼します。放課後にセントラルに行けばいいですか?」

「はい。お待ちしております」

一礼の彼女を背に僕は走り出した。




・学校。動乱過ぎた先月から嘘のように続き続いているこの学校。何度もこの街が戦場になって廃墟になったり、大勢の人が死んだりしている中、何事もないように続いているんだからたまにUMXより恐怖を感じたりするよ。

「歩乃歌。珍しく遅いじゃない」

「あ、麗矢」

教室。廊下側の席に座っていたのは麗矢だ。あのスピローグのパイロットみたいに死体も残らず消滅したら戻せないみたいだけど麗矢達には死体があった。だから蛍によって再生出来たらしい。ただ彼女の左足、星矢にとっての右足は完全に消え去っていたからいま、二人は繋がっていない。

「義足の調子はどう?」

「そうだね。まだちょっとバランスがおかしいけど悪くはないかな」

麗矢が立ち上がり、スカートの下から伸びる義足を見せる。蛍の義手と同じでセントラルが作ったものだ。蛍が言うには感度抜群とのことだからバランスがおかしいって言うのはきっと義足のせいじゃないだろう。

「星矢は?」

「あっち」

指差す。その先を見ると、

「行谷さん。これ如何? 飲めばたちまち胸が縮んでちょうどいいバランスになるお薬」

「う~ん、もうちょっとこのサイズがいいかな」

相変わらず女子に妙な薬を配っていた。

「歩乃歌にはこれあげようか?」

「……何の薬さ?」

「どこぞのミルクポットみたいにバケツいっぱい分くらいの射精が出来るようになる薬」

「僕は女だぁぁぁぁぁっ!!」

いや、そのミルクポットの人も女だけど。残念ながら僕には生えていない。……生えてるといえば。

「星矢って生えてるの?」

「歩乃歌? いきなり人の弟にセクハラ?」

「……弟って言った! いま弟って!! じゃあどうして女子の制服してるのさ!」

「今までの僕との生活でスカートに慣れてるからね。それに一応女子として学籍入ってるし」

「……GID?」

「人の話聞いてたのかなぁ? それとも髪が真っ白だと頭の中も無色透明で何も入ってないのかなぁ!?」

「分からないからって急にキレないでよ!」

麗矢と再会したのはあの戦いの二日後。蛍によって失われたものが全てリセットされた次の日の朝だ。

今みたいに教室入ったらこの調子で出迎えられた時は思わず千代煌を出しそうになるくらい驚いた。

普通だったら元UMXだから復活させられないはずなんだけど、蛍がそれを知らなかったから蘇らせちゃったらしい。僕にとっては嬉しい誤算だ。にしても、

「れーや、かえった」

「おかえりギネス。どうだった?」

「たいしぼーりつが5パーセントからあがらなくなるくすりが20こうれた」

「よしよし。じゃあ歩乃歌にもあげよう。カロリーには困ってるだろうからね」

「心配されなくても僕はスリムだよ!!」

麗矢ってこんなにウザかったっけ? 悪夢に出てくるほど焦がれていたのは感情論過ぎたかな?

「あ、歩乃歌ちゃん。おはよう」

「おはよう星矢。で、僕のカバンに何を入れようとしているのかな?」

「胸がAカップで固定されるお薬」

「……お姉さんに上げたらどうかな? それとももう投与済みなのかな? その悲しいバストは」

「歩乃歌ぁ!! あんた喧嘩売ってるなら買うよ!?」

「いいよ。じゃあ何で勝負する?」

「今日の英語のテスト!」

「OK。吠え面掻かせてあげるよ」

「こっちのセリフ!!」

「……相変わらず仲がいいわねあんた達は」

声。眞姫が来た。制服姿だからきっと朝練を終えて来たのだろう。ただ一人ではなかった。

「……」

「ほ、蛍!?」

げっそりした蛍が眞姫に支えられていた。

「ど、どうしたの?」

「咲が……寝かせてくれなくて……」

「えっと、それはご愁傷様?」

「あらあら歩乃歌ってば。あなたはよっぽど変わった女に囲まれる運命にあるみたいだね」

「その筆頭はお前だけどね!」

僕と麗矢が相変わらずな言い争いしている間に蛍は眞姫によって席まで運ばれた。

「ねえ星矢。女の子の体力回復させられる薬とかないの?」

「あるよ?」

「じゃあそれ蛍に渡してあげて。お金ならいくらでも払えると思うから」

「うん。分かった」

ナチュラルに行動を済ませる星矢。しかし彼……彼女? から渡された薬を飲んだ蛍はそれから放課後になるまで超野菜人みたいに髪が逆立って、体の周囲に稲妻みたいなオーラがバチバチ発生するようになってしまった。

「……怒」

「ひゃああああああん!!! ご、ご、ごめんなさーい!!」

マッハ6で飛行を始めた蛍から逃げる星矢。でも彼女も義足だからバランスを崩してあっさり捕まってしまった。

「……待って」

「どうしたの歩乃歌」

「星矢って生えてるんでしょ? だったらそっちの気がある蛍に捕まったらもしかしたら……」

「! や、やばいって!! すぐに星矢に白濁液の量を50倍にする薬渡してこないと!!」

「……眞姫」

「はいはい」

とりあえずトチ狂った麗矢を止めてる間に眞姫に二人を追わせた。

おかしいな、こんな日常だったっけ? 僕の学校生活。

「いやぁ、相変わらず楽しそうじゃねえかここは」

「あ、花京院くん!」

いつの間にか隣に立っていた花京院くん。なんだか久しぶりに会う気がする。実際3週間は顔を合わせていない。蛍は非常に残念がっていたけど全員一括で生き返らせる際に花京院くんも一緒に生き返ったらしい。

思わず最初の日は抱きついてしまった。これでは眞姫をビッチだなんて言えないかもね。でも花京院くんはこの一ヶ月の記憶を失っていたから僕達と一緒にUMXと戦った事は知らなかったらしい。最初僕がPAMTの話題をした時すごく驚いていた。まあ無理もないかも知れない。花京院くんはだいぶ前から一人でUMXと戦っていたらしいし、その目的もなるだけ関係者を増やさないようにするためだったし。

「今日放課後集まるんだろ? なんでも最終決戦だとか」

「うん。多分その最終決戦に行くのは僕だけだと思うけどね。花京院くんにはサポートをお願いするよ」

「ああ。本当なら俺が行きたかったが仕方がない。シミュレーションで連敗したからな。紫は強い。それは認めるよ。だが、無理はすんなよ?」

「うん。ありがとう」

「あ、歩乃歌が男に色目を使ってる。くぅぅぅ……!! 歩乃歌は僕だけのものなのに……!」

「いや、麗矢? 色々聞き逃せられない単語が聞こえてるんだけど……」

「うわあああああああああああん!!! 星矢ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、まって。れーや!」

「……本当にいろいろおかしいのが増えたよな」

「……まあね」

ちょっとだけこれがせっかく取り戻した日常だとは思いたくないくらいには。

そして放課後。

眞姫や花京院くんは部活があるらしく、緊急でない限りは部活が終わってから行くらしい。最終決戦前日だというのに本当に無駄に真面目な連中だよ。まあ、この最終決戦が終わった後も日常生活は続いていくわけだし、かなぐり捨ててしまう訳にもいかないのは分かるけどね。

「僕達も行っていいの?」

言ったのは麗矢だ。もちろん彼女だけでなく、でっかいたんこぶを生やした星矢やギネスもいる。

「まあ、こういっちゃなんだけど何が起こるか分からないからね。麗矢達はもう関連性がなくなったとは言え元々UMXだったんだよ?」

「UMXだった時の記憶はもうないけどね」

「まあ、せめて作戦中はおとなしくセントラルの中にいてよ。あそこなら大抵何が起きても大丈夫だと思うからさ」

そうして昇降口へ行く途中の廊下だ。

「あ」

「……」

1年生の教室から彼女が出てきた。火核咲……最上火咲さんだ。自分の記憶を取り戻したそうだけど何故か1年生のまま、元の生活のままいるらしい。あれから会うのは初めてだけど。

「何か言いたそうね、紫歩乃歌」

「蛍が死にそうになってたよ。お年頃なのは分かるけどもう少し手加減したらどうかな?」

「お姉様を呼び捨てにしないで」

「……同い年でしょうに」

「ねえ歩乃歌。何故だかあの子を見ていると全身震えてくるんだけど」

「あら? 4号じゃない。お姉様はこんな連中まで生き返らせちゃったんだ」

「もう4号じゃないよ。完全にただの人間だってセントラルで証明されてるしね」

「……まあいいわよ。何かあったらまた殺すだけだし。それよりセントラルに行くんでしょ? 連れ立って歩くとみっともないから先に行きなさいよ。私はお姉様を迎えに行くから」

「教室にはいないよ」

「……じゃあどこにいるのよ。パラフォも通じないし」

「保健室。火核さんがやりすぎたからだよ」

……本当は星矢の薬の影響で超ハッスルしちゃってるのを抑えるためなんだけどね。それ言っちゃうと星矢が危ないから言わないでおこう。相変わらず生身だと僕達に勝ち目ないし。でも、火核さんも言葉遣いは変わらないけど以前みたいな殺気はなくなってる。好きとまではいかないだろうけど敵としては見てないみたいだ。

「そうだ。火核さん」

「なによ」

「火核さんは和佐さんと一緒に元の世界に帰るの?」

「……は?」

「だって記憶も戻ったんでしょ?」

「……分からないわよ。戻ったって言っても私の記憶は意味が分からない事になってるんだから」

「混濁してるの?」

「結果的には同じかも知れないわね。ただ、あるはずがないのに何度も中学3年生までの歴史を繰り返しているような気がするのよ。ある時は両手に力が入らなくなったり、思ってもよらない人と再会していたり、あいつと普通通りの会話をするようになったり……。そしてその行き着く先はこの手であいつを殺した記憶だけ」

「?」

「……自分でも何を言ってるのかよく分からないんだから仕方ないじゃない。もういいわ。行きなさいよ。あんたにはもう興味ないから殺したりはしないわよ。でも、お姉様を奪おうと言うのなら容赦はしないわ」

「PAMTでの対決ならいつでも受けて立つよ。だから僕以外は巻き込まないで」

「……言われなくても。あんなやり方は私らしくなかったからもうやらないわ。でも、殺す時は勿体無いくらいあっさり殺してやるんだから」

「……火核さんは、人を殺した事があるの?」

「そう珍しいことでもないでしょ? あんただって孝宏を殺してるじゃない」

「孝宏?」

「お姉様のお兄さんよ。あの時、私の前に戦ったPAMTの中身。死体が残らなかったからお姉様でも生き返らせることは出来なかった。左腕と言い、あんたはお姉様に一生消えない傷をいくつも与えている事を肝に銘じるといいわ。……お姉様は別の意味で気にしているみたいだけどね」

と、マシンガンのように言葉を浴びせると火核さんは保険室に向かって踵をを返していった。

……そっか。あのスピローグのパイロットは蛍のお兄さんだったんだ。確かに、白百合の家から出てきたから可能性はあったんだ。でも存在自体は一度しか聞いたことがなかったから完全に忘れていた。

それに、死体も残らずに消えた人はその人だけじゃない。

「……? どうしたのさ歩乃歌」

麗矢達が本来ありえない形で蘇ったからつい忘れがちだけど、死んだら消えてなくなるのは当たり前なんだよね。これから平和が戻るのなら尚更に。

「何でもないよ。早く行こ」

まあ、だからと言って立ち止まるのはらしくない。鼻歌交じりで先へ進むのが僕だからね。そうするだけだよ。

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