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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第8話「千代の煌き」
21/28

・目を覚ました時、そこにあったのは見慣れた天井ではなかった。

「……ここは……?」

体を起こして左右を見る。

「歩乃歌……!!」

正面に眞姫がいた。ん? ここどこだ? どうしてベッドの足側に眞姫がいるんだろう。

「大丈夫? どこも痛くない?」

「平気だけど……ここは?」

「セントラルの地下病院だよ。あんたここに運ばれてきて丸一日ずっと寝てたんだよ……?」

「……セントラルの?」

ん、そう言えば薄々と、でも加速的に思い出す光景があった。

そう言えば僕、あの偽物であるUMX0号に負けたんだった。百連も目の前で破壊されて……。

「へえ、僕生きてるんだ。流石偽物。詰めが甘いね。で、もう世界救われちゃった?」

「……あんたって子は」

咳払い。

「それが分からないのよ。今朝私がお見舞いに来たんだけどそれ以来外に出られなくなっちゃったのよ」

「どうして?」

「分からないわ。次元転送の準備かと思ったんだけど、それにしては何か作業をしているとも思えなかったし。何よりここに拘束している理由なんてないと思う」

「……」

話半分に聞きながら僕は髪をまとめる。あ、髪留め壊れちゃったんだっけ?

「……はい」

「あ、うん。ありがとう」

察してくれた眞姫が予備の髪留めを渡してくれた。これ、僕のだ。そう言えば丸一日って言ってたっけ。じゃあもう夕方くらいにはなってるのかな。

「……」

パラフォを見る。画面や外装がところどころ壊れてる。一応起動はするみたいだけど。ただ、Portble Asultism Mechanical Truperを起動させようとしてもエラー画面が出るだけだった。

確かPAMTは破壊されてもデータに戻って修復されるはず。白百合さんのPAMTが完全に戻っていた事からその情報は間違いない。それなのにエラーが出るっていうのはおかしい。まるで百連のシステムが完全に破壊されてしまったみたいだ。そう言えば、あの時勝手に百連が起動して、僕を庇って破壊されたような気がする。

「歩乃歌、話聞いてる?」

「え? な、なんだっけ? 僕に焼肉おごってくれるって話だっけ?」

「その話はなくなったわよ。あんた負けちゃったんだから。……それよりも今のこの状況よ。外へ繋がるドアがロックされてて出られないのよ」

「これじゃ病室じゃなくて独房だね」

冗談を言いながらドアに近寄ろうとベッドから立ち上がろうとした時だ。

「あれ?」

立てなかった。立てずに僕はベッドから落ちてしまった。

「え?」

「歩乃歌!?」

「ど、どうして僕の足動かないの……!?」

感覚が無いよ!? 全く力が入らない。麻痺しているわけでもない。まるで両足は既に切断されてて今見えているこれは幻みたいだ。でも、手で触ってみたらちゃんと足に触れてる感覚はある。ただ、足の方には手で触られてる感覚はない。つねっても同じだった。

そう言えばあの偽物との戦いで百連の両足がビームで溶かされたんだっけ。PAMTが受けたダメージの半分位は生身にも通じるみたいだから、その際に感覚を破壊されたのかもしれない。

眞姫の手を借りてベッドに戻り、両足を床の上に置いてみる。そしたら気持ち悪い事にまるで風船みたいに僕の両足は変形してしまった。

「……これ、骨まで溶けてるんじゃない?」

「足そのものは無事なのに?」

「多分ハサミとかでも余裕で切れると思うよこれ」

「自分に対して随分グロテスクね。少しはショックとかないの? これであんたもう私より速く走る事もサッカーをする事も出来なくなったわよ」

「そう言う眞姫も随分容赦なく突っ込んでくるよね。でも確かに僕のアイデンティティの1つがなくなっちゃったのは寂しいかも。この足じゃPAMTでの戦闘も厳しいだろうし」

「あんた、まだPAMTで戦うつもりなの?」

「もしもの時はだよ。偽物が別の世界に行って目的を果たせたとしても、それまでに新しいUMXが来ないとは限らない。と言うより間違いなく来るだろうね。だって今までUMXになってまでこの世界に来てセントラルの邪魔をしようとしてきた連中だよ? そのセントラルの計画が最終段階に達して後はもう行動するだけって状態になって攻めてこないわけがないじゃんか。きっと6号は間違いなく来るし、場合によっては7号8号とかもありえるよ」

「……そんな、花京院もあんたもいないのに。戦えるのもう私と白百合さんしかいないんだよ!?」

「流石にセントラルも備えているとは思うけど、でもこの状況を見る限り嫌な状況にしか進んでなさそうだね」

「嫌な状況?」

「そ。ハプニングにハプニングが重なって今僕達に構っている状況じゃないとかさ。とりあえず眞姫、白百合さん宛に電話してよ。筧先生でもいいからさ」

「……前者は番号知らないから先生にかけるわよ」

まあ、無駄だと思うけどね。

「……繋がらなかったわ」

「だろうね。電波妨害されていないわけないもの」

「じゃあなしてかけさせた?」

「僕としては本命は白百合さんだったんだけどね。本人の番号は分からなくても白百合さんのPAMTに直接通信を入れる事は出来るかもしれなかったからさ」

「でも、私彼女のPAMT見たことないわよ?」

「そこなんだよね。でも彼女もこのどこかにいるはずだから反応くらいあるかと思ったんだけど」

ん、足音が聞こえる。数人のものだ。見張りの兵士とか? いや、それにしては少し数が多い。

「あ、気が付きましたか?」

ドアを開けて入ってきたのは和佐さんだった。しかも彼女だけではない。その後ろには見覚えのある忘れたい顔もあった。

「……」

「げ、下級生ちゃん……」

「紫歩乃歌、よくまた私の前に顔を見せられたわね。殺してあげようか? 素手で十分なんだけど」

「最上さん、そこまでにしてください。今私達が争っている場合ではありませんよ」

とか言いながら二人はさらに後ろに居た兵士に背中を押されて中に入れられ、そしてまた扉が閉ざされた。

「え? 和佐さんも閉じ込められてるじゃないですか!?」

「そうみたいですね」

「……そうみたいですねって、状況はどうなってるんですか!?」

「簡潔にまとめると、セントラルの皆さんはあなたが勝つと思っていてその前提で準備を進めていたのですがあなたが負けてしまったので誤算が起きて、反乱を起こしました」

「反乱!?」

「はい。私と最上さんも動かれては困ると言う事でこの有様です」

「……ほぼ全部あなたのせいなのにどうしてそんな余裕たっぷりなんですかあなたは」

「気にする必要はないわ紫歩乃歌。あの兄があの兄なんだからこの妹もこの妹と言う事だよ。いつも意味不明でなんでも自分の思い通りに事が進むと思ってるんだわ」

「もう最上さん、久々に会えたんですからそんな冷たいこと言わないでください。ってかあれと一緒にしないでください」

「……待ってください。火核さん、あなた記憶が……」

「ええ、戻ったわ。私14だから。中学2年生だから。もう下級生だなんて呼ばないでよ」

「じゃあもう白百合さんはお姉様じゃないね」

「……あの人は永遠のお姉様よ」

「おやおや何かな? その態度は。まるで元々そう言う趣味はなかったのにこっちに来て目覚めてしまったとかそんな感じだね。どう? 記憶を失ってる間に目覚めちゃった感覚は」

同時だった。彼女が足場のコンクリートを踏み砕いた。

「言わなかった? 素手で十分だって。私ムエタイの達人なんだけど」

「……暴力は反対だと思うな」

「私を達磨にしたのは誰だったかしら。もし生身で、しかも記憶が戻っていたならそれなりの評価を下したと言うのに」

ん? 今のセリフ、ちょっと意味が分かんないぞ? 僕を恨んでいるのに変わりはないはずなのに条件付きでそれなりの評価を下すってどういう事?

「それよりも歩乃歌さん。お体は大丈夫ですか?」

「あ、うん。足が大変なことになってる以外は」

「大変なこと?」

「調べたスタッフなら分かると思うんですけど、両足の骨が溶けちゃってるみたいで」

両足を、腕の入ってない袖のようにブンブン振り回す。

「なるほど。それはもう医療ではどうにもならないでしょうね。義足を使うか、或いは白百合さんに治してもらうかしないと」

「……そっか。白百合さんならこの足治せるんだ。でも、どうやってここから出るんです?」

「出るだけなら最上さんがいれば問題ないかと。色々えぐいこと出来ますし」

「呆れた。あんたの方がもっとえぐい事出来るでしょうに」

「……とにかくおふたりがいれば問題ないって事ですね。で、反乱されたって聞きましたけど0号はどうしてるんですか? セントラルと協力して僕と戦って、勝って、それなのに約束が守られないと分かっておとなしくしてる子でもないでしょ? 少なくとも僕だったらセントラルを適当に攻撃すると思うけど」

「はい。まさしくその最中です。頂A雷を使ってスピローグ部隊と交戦中のようです。尤も性能差が激しいので全く勝負になりませんけど。なので無理に脱出しなくても然程大差はないかと思います」

「ちょっと待ちなさいよ。このまま放っておいたらお姉様が大変なことになるじゃないのよ」

「白百合さんが?」

「そうよ。お姉様は0号に時間を稼がせて自分は次元転送システムを起動させようとしているの。でも、サポートもなしに、しかも片腕がないお姉様が次元転送システムを作動させると体が耐え切れずにお姉様は間違いなく死んでしまう。それでもお姉様は世界を、ううん。あんたを守るためにシステムを起動させようとしている。……私はそれを何とかするためにわざとあんたと一緒に拉致られたの忘れてないでしょうね? 勝てないとしてもあんたの兄貴以上の状態にする事は出来るかもしれないわよ?」

「まあまあ落ち着いてください。そんな事はありえませんし」

「む、」

「何か方法があるってことですか?」

「はい。歩乃歌さん。あなたにもう一度0号分身体と戦ってもらいます。今度はスペックを合わせる為に二人にはスピローグに乗って戦ってもらいます。それで勝利すればスタッフの方々も納得するでしょう。それでもダメなら私と最上さんで実力行使に出ます」

「……眞姫、僕の中で和佐さんのイメージが滅茶苦茶変わってきてるんだけど」

「……私もよ。まさかここまで脳筋だったとは」

そもそも初登場自体が、チートカード使ってセントラルの権力の大半奪っていきなり頂上決戦組んでくるとか色々ぶっ飛んでたっけ。和服姿でお淑やかな振る舞いからは想像もつかないほど派手派手だなぁ……。

「まあ、僕としては悪くないと思うよ。マシンスペックが同じなら負けなんてありえないし。でも、偽物が頂A雷を降りるとは思えないんだよね。だってこのまま頂A雷で暴れていれば白百合さんの犠牲で彼女の目的は果たされる。もうゴールが目の前にあるんだよ? 僕だったら乗らないかな」

「いい? 乗るか反るかじゃなくて私はお姉様を助けなさいって言ってるのよ。あんたがやらなければ私がやるわ。まだクリムゾンスカート残ってるわけだし」

「あの機体じゃ頂A雷には勝てないと思うなぁ」

「……」

火核さんが一歩を踏み出した。拳を握ってる。これはまずいか……!?

「そこまでですよ最上さん」

と思った時だ。まるで最初からそこにいたかのように和佐さんが僕と火核さんの間に立っていた。

「紫さんは大切なカードです。それをあなたが破壊してどうするんですか?」

「……だったら早く説得しなさいよ。次元転送システムは15分で起動するのよ? きっともう5分くらいしか時間はないわ」

「だったらとりあえず白百合さんのところへ行って紫さんの足を治してもらいましょう。そしてシステムの停止も」

「でも、5分でそこまで出来るんですか?」

「出来ますよ?」

直後だった。

景色が変わった。病室だったはずのそこはいつの間にか機械だらけの狭っ苦しい部屋になっていた。

「え……!?」

そして正面には白百合さんがいた。泣いていた。

「白百合さん……、今すぐシステムを止めて」

「……それは出来ないわ」

「物理的に? 精神的に?」

「……」

「白百合さん、いい? 僕を助けるつもりでこんな事をしているそうだけど、逆効果だよ。僕が喜ぶと思ってる? 君のエゴで僕が鼻歌を歌えるとでも思ってる?」

「でも、もうあなたは戦えない。0号を行かせた方がメリットは多い……!」

「いい!? 僕にとってはね、白百合さんにはまだまだやってもらいたい事がいっぱいあるの! 僕の足治して! 花京院くんを生き返らせて! 出来るなら麗矢達も! そうしたら、その時は僕が絶対に世界を救ってみせるから……!! だから自分で勝手に可能性を殺さないで! 目障りだよ!!」

「……」

「白百合さん、早くシステムを止めてください。これはあなたにしか出来ないようです」

「……」

和佐さんがシステムをいじってる。どうやって僕をここまで運んだのか知らないけど彼女にも不可能はあるみたいだ。でも、今彼女はどうでもいい。

「白百合さん、僕を信じて……!!」

「……勝手なことばかり言って……私が、どれだけ、どれだけ覚悟を決めてここに立っていると思っているの!? もう二度とあなたを戦わせたくないから……私が救った世界にはあなたがいてほしいから……だから!! だからこんなことをしてここに立っているんじゃない!!」

「誰がそんなことを頼んだのさ!! 僕が頼んだのは降りられなくなった時に助けてくれって言った時だけだよ!! それなのに白百合さんは……蛍は僕を見捨てて、一人だけどこかに行っちゃうっていうの!? そんな事したら僕はもう歌えないよ!! 一生歌えないまま、こんな足で、情けなく生きていくしかないんだよ!? 蛍は僕にそんな惨めな想いをさせてもいいって言うの!? それが蛍の満足だって言うの!? そんな安い女と僕はデュエットをしたわけじゃないんだよ!? お願いだよ!! 蛍!! 僕をまた歌わせてよ!! 走らせてよ!! 蛍とまた一緒に歌いたいんだよ!! 走りたいんだよ!! そしてその時初めて僕は……誰より速く、強い高みに臨めるんだ!! 蛍にしか出来ない事なんだよ!!」

「……歩乃歌ぁ……!!」

溶けた足で僕は歩く。四つん這いですらない醜い姿だけど、ナメクジみたいな情けない歩きだけど、でも僕は喉を震わせて蛍に歩み寄る。手を伸ばす。蛍もまた僕に向かって手を伸ばす。お互いに右手と右手だ。

彼女の左手が先に背後のシステムを止め、そして僕達の右手は今触れ合った。

「!」

途端に僕の体が紫色に輝いた。蛍もまた緑色の輝きに包まれる。

「……GEARの覚醒……!?」

声は和佐さんだ。でも、その言葉の意味を理解する事なく僕は立ち上がった。蘇った両足で立ち上がり、涙に濡れた蛍を抱きしめる。同時だった。ポケットに入ったパラフォが唸りを上げたのは。

「これは……!?」

PAMT起動画面が出ていた。いつでも出撃が出来る状態にある。でも、そこに映っていたのは百連ではない、見た事のないPAMTだった。

「これはボーナスだよ。受け取るといい」

声が蘇る。それは確か、最果ての扉の先で待つ者の声だった。

そうだ。僕は、あの時彼女から受け取っていたんだ。もっと、もっともっと高い空まで羽ばたくための翼を。

それが蛍によってパラフォを修復されたから今こうして起動出来るようになった……!!

「蛍、君は避難と再調整を。僕は全ての戦いを終わらせて来る」

「……うん」

最後に視線を交わし、僕は和佐さんに目配せをする。一瞬で病室からどこだか分からないここまで運んだのだから僕を外に運ぶ事だって出来るはずだ。

「……分かりました」

和佐さんが手を掴む。直後。再び僕の景色は変わった。そこはセントラルの外だった。でも一瞬で理解をするのは躊躇をした。何故なら町並みが炎に包まれていたからだ。

スピローグの残骸だろうが、それにしては少量すぎると言うか、1体ごとにごく小さなパーツしか残されていないのにそれがざっと見ても3桁は下らないほどある。

「爆発じゃないかな。それをこの数で出せると言ったらやっぱり頂A雷だよね。でも、」

空を見上げる。雲の上で時折火花と轟音が生まれていた。雷ではないだろう。

「歩乃歌さん。たった今入った情報です。UMX6号と7号が出現して、頂A雷と交戦中との事です。また、出撃した1万体ものスピローグは全機撃墜されたとの事」

「全く無駄遣いをするよね。蛍に生き返らせてもらえるからってさ」

「情報によれば頂A雷は苦戦しているようです。……本当に一人でどうにかするおつもりですか?」

「当然。和佐さんは蛍を眞姫達のところへ送ってください。あと、出来れば火核さんをからかいたいので蛍と再会した時の会話は録音してください」

「ご安心を。彼女の実家に送るために既にその準備は整っています」

「……じゃあお願いします」

「はい」

気配が消えた。振り向いたりはしないけどきっと和佐さんはもう行ってくれたんだろう。

「……さて、」

パラファのロック画面を解除してPortble Asultism Mechanical Truper画面を出す。

「歌って走って、いっちょヒーローになってきますか」

奏でる曲は歩乃歌交響曲1番、The lightning future for millennium。通称は、

千代煌ちよきらめき!!」

起動する。まだ一度もテストをしたことはないし、シミュレーションをした事はない。けど関係ない。

リズムが、紫色の光と共に僕を走る。そして、大地を踏んだ大きな鋼の足。

百連よりもやや大型の人型PAMT:千代煌。操作方法は百連と同じ。だけど、性能は段違い!

「はあっ!!」

気合一発、踵と背中のブースターを起動させると、勢いよく、しかし反動はなく機体が空に上がる。

速度計にはマッハ15と出ている。しかもまだどんどん加速できるようだ。しかしあまり加速しても戦場を通り過ぎてしまう。

「あれは……!?」

雲の上までは一瞬だった。申し合わせたかのように正面には見覚えのあるにっくきあんちくしょうな機体・頂A雷がいた。その左右にはものすごいスピードで動き回る2体の怪物。あれが6号と7号か。

「偽物、借りを返すために言っておくけど、死にたくなかったら全速力で逃げなさい!」

「え!? 紫歩乃歌!?」

「行くよ!!」

アクセルを入れ、千代煌が加速する。まるで爆発したかのように背中と踵に備えられた6つのブースターが推力を作り出し、僕の景色は音速を超える。

一瞬にも満たない刹那にドラゴンタイプのUMXの脇を通り抜ける。当然ただ通り抜けたわけじゃない。

「すtイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!?」

「え?」

偽物の声が聞こえると同時にUMXはアルファベット混じりの悲鳴を上げ、そして破裂した。

通り抜ける際に貫手で相手の皮膚をぶち抜いて直接体内にビームを打ち込んだんだよ。2000ギガワット程のビームをね。1秒撃つと、もっと大変なことになってただろうから加減して一瞬だけ。それでも十分すぎる火力だけど。

「こlアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「ん、」

残った方がすごい勢いで逃げ出した。速度はマッハ10ってところかな。頂A雷と同じくらいか。このままでも追いかけられるけどせっかくだから試してみるかな。

僕はCボタンを押す。と、刹那にも満たない僅かな時間で千代煌は変形を果たした。他のPAMTと同じで飽くまでも変形ではなくて別のPAMTに一瞬で交代しただけだけど。変形後の姿は当然戦闘機型。

でも、性能まで戦闘機と同じだと思ったら大間違い。

「行こうか」

アクセル。同時に再び僕の景色は音速を超えた。いや、亜光速にも達している。目に映るすべての景色が静止画に見える。よく見れば少しずつだけどUMXが動いているのが分かる。そこに向かって突き進み、機銃を連射する。1秒で60万発以上のビーム弾が発射された様はもはやビーム。いや、静止画の上からペイントで新しい絵を追加したようだ。だからその絵の中の存在にすぎなかった敵UMXは上書きされた一線によって塗りつぶされる。爆発も起きずに塗りつぶされた過去の景色になったんだ。

「まあ、こんなところかな」

アクセルを止めて頂A雷の正面に舞い戻る。

「……UMXがいなくなってる!? そんな、0号である僕でも何が起きたのか分からないなんて……!?」

「で、どうする? 偽物ちゃん。もう一度戦う? それとも諦める?」

「……くっ、たとえ僕が死んだって本体はまだ生きている! 僕が死んでも僕の夢は終わらない!!」

頂A雷がこちらに向かってくる。僕と戦うまでもなく既にその機体はあちこちから火花を上げている。

「……確かにチャンスはあげて借りは返したよ?」

そして僕はAボタンを押した。機銃を発射する。景色を上書きして塗りつぶす一撃は、

「うあああああああああああああああああああああああ!!!」

まっすぐ向かってきた頂A雷を跡形もなく過去の景色に変えて、どこまでも青い空を貫いていった。




・戦いという名の清掃を終えて僕はセントラルに戻ってきた。エントランスではライフルを持っていたスタッフがいたけど、何も言わずに、いや、何も言えずに何も出来ずに僕の素通りを見逃した。

「あ、そう言えば僕和佐さんの居場所分からなかったんだ。すみません、どこにいるか教えてくれませんか?」

「は、はい!!」

「その必要はありませんよ」

声。エレベータのドアが開くと、中から和佐さん、眞姫、蛍、火核さんが出てきた。

「頂A雷もUMXも反応が途絶えました。あなたがやったんですね、歩乃歌さん」

「うん、まあね。ま、僕がその気になればこんな物だよ。偽物がやったようにスペックの暴力で倒しちゃったのが残念だけどまあ、今回のはシミュレーションみたいなものだったし。千代煌性能高すぎだし」

「……歩乃歌さん。そのPAMTはどこで? 少なくともセントラルにはそんな異次元スペックのPAMTは用意していない……と言うか用意出来ないと思うのですが」

「え? ああ、そう言えば誰にも言ってなかったっけ? 彼女の事」

「彼女?」

「はい。僕が時々夢の中で会うんです。エレベータに乗ってどこまでも高い空まで行くと、その先にある扉で待つ存在。最果ての扉の先で待つ者」

「……最果ての扉の先で待つ者……?」

「はい。彼女は自分をそう言っています。最初はただの夢だと思ったんですけどね。でも、彼女が言う事がなんとなくですが夢ではない、真実なんだって徐々に思えてきたんです。そして彼女から千代煌を受け取った。

彼女が言うには世界って言うのはガムテープみたいに無限の螺旋状になっていて、それぞれの仕切りごとに成り立っている。彼女はその仕切りの万人みたいなものだそうです。火核さんがこの世界に来た事も知っていました。それは事故の一種だったらしいですけど」

「事故? まあ事故といえば事故かも知れないわね。どこかの変態変革白衣野郎の実験台にされて世界線を超えてしまったんだもの」

「それで歩乃歌さん。彼女の目的は何なんですか?」

「はい。火核さんのような事故を別として自力で世界線の扉を超えて行ける存在を探しているようです。とは言え本人は全てを知り、全てを試し、それでも何も導かないのがポリシーだそうですけど。まるでどこかの集合的無意識の集合体みたいですね」

「ああ、彼女ですか。そうですか。あれはこんな世界にも存在できるのですか」

「和佐さん知ってるんですか?」

「いえ、ただのネタです。兄が好きでして」

「? はぁ」

「まあ、ともかく自力で世界線を超えられる存在ならそんなに珍しいことでもないと思いますよ? 何を隠そう私だって自由に別の世界へ行けますし」

「え!? そうなんですか!?」

「はい。ですがその最果ての扉の先で待つ者と言う方には一度も会った事はありません。そんな話、聞いたこともないです」

「……そうですか」

「……話はそこまでにして今日はもうお開きにしない? そろそろお姉様を再調整しないといけないし」

「……私は大丈夫よ、咲」

「でも……」

「いや、いいよ火核さん。僕もそろそろお腹すいちゃったからね。眞姫、帰ろうか」

「……そうね。でも焼肉は奢らないわよ? 自分の分は自分で払うなら行ってもいいけど」

「割り勘じゃダメ?」

「なんで自分が食べた分の何倍もの値段を出さないといけないのよ」

「あの、何なら私が奢りましょうか?」

「え!? 和佐さんが!? 僕かなり食べますよ!?」

「はい。お金なら困っていませんので。高層マンション建てるお金くらいなら簡単に貸せるくらいには」

「……和佐さん、嫁に来ませんか?」

「待って歩乃歌。それは解せない。お金なら私もたくさんある」

「お、お姉様、こいつを名前で……!?」

腰を抜かす火核さん。談笑し、僕達はそれぞれの帰路に着いた。戦いは終わった。でも、まだ最後の作戦が残っている事を重々承知の上で。

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