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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第6話「紫歩乃歌の激動」
16/28

・セントラル。列強宣言と言う一触即発状態に陥った5カ国の激突を止めている組織であり、そことはまた別の既にあるこの世界を支配してPAMT含めた自分達の技術を証明しようとしている組織。

僕はその日本支部にやってきた。

「……来たか」

自動ドアを通って正面の受付。そこに筧先生がいた。

「先生……」

「……紫、お前に辛い事ばかり与えてしまって済まない。だが、悪いがもう1つ程辛い選択肢を与えなくちゃいけない。そんな俺を許すな」

「……」

「とにかくこっちへ来い」

「歩乃歌、」

「……うん」

先生の後を追い、僕達は会議室にやってきた。と言っても見た目や顔ぶれなどはいつもの生徒指導室となんら変わりはない。

「それで、筧先生。花京院くんが死んだってどういう事なんですか?」

「……ああ。昨日の帰りに見回りをしていたら校庭で倒れているあいつを発見した。その時にはもう出血多量で死んでいた。……UMXの反応はなかった。死因となる致命傷は刃傷だ。左肩から右腰にかけて深く切り裂かれていた。あれはナイフのような短い刃物じゃない。最低でも刃渡り1メートルの刀剣で斬られた傷だ。つまり、」

「……他のPAMTの攻撃で殺されたって事ですか……?」

「……その可能性が一番高い。そしてうちの学校で俺が知る限りPAMTを持っているのはお前達と花京院、そして白百合と火核の5人だけだ」

「……と言う事は……」

そこで僕はあの時の言葉を思い出した。

「紫歩乃歌。次に会ったら本当に殺す。お前の全てを壊してから……!!」

……もっと気をつけるべきだったんだ。火核咲の目的は僕を殺すことだけじゃない。その前に、全てを壊すって言うのがあったんだ。麗矢達を僕の手で殺させ、そしてその後に自らの手で花京院くんを……。

「紫、もう最有力容疑者が誰だか分かっているな?」

「……どうにかならないんですか?」

「白百合家に連絡を取ったが確認中だそうだ。しかし、火核咲もまた白百合にとっては捨て置けない存在。応じるかどうかは……」

その時だ。僕の胸でパラフォが唸りを上げた。同時に部屋のスピーカーから警告音が出る。

「……UMXか……!!」

「……UMX5号……眞姫、手伝って……」

「歩乃歌、今日は私一人でやってもいいんだよ?」

「……ううん、僕に考えがあるからその通りにやらせて」




・セントラルのすぐ横の虚空に突如亀裂が生じてそこから一つの巨体が姿を見せた。

その姿はメデューサの正逆と言ってもいいものだった。

人間の下半身と両腕が蛇の胴体から生えた全長16メートル程の怪物。それがUMX5号だった。

UMX5号が地面に着地を果たした瞬間だ。その右目に向かって亜音速で迫る物体があった。ミサイルだ。

「おpやあああああああああああああああ!!!」

アルファベット混じりの悲鳴と、潰れた目玉から黒をまき散らしながらUMX5号はのたうつ。

「……」

空を切り裂く紫色の光は、百連だ。百連が飛んできた方向の奥にはライフルを構えたアボラスもいる。

「……歩乃歌、本気なの……?」

疑問を口にしながらも眞姫はトリガーを引いた。銃口から放たれた60ミリの弾丸が宙を切り裂き、暴れまわるUMX5号の左目に命中し、粉砕する。

「おpやああああああああああああ!!」

UMX5号の暴走はさらに強まり、しかしそれ以上の攻撃をしなかった二人によって巨体はゆらゆら曲線を描きながらも白百合家の方に接近していた。

「……あいつらまさか……!!」

筧がモニターを見る。

「……」

地下病室で蛍もまたモニターで現状を観覧していた。

「……」

カメラ越しとは言え直接眺めていた歩乃歌は百連を白百合家の真上に移動させ、オープンチャンネルの設定をする。

「白百合家に告ぐ! 火核咲を出しなさい!! さもなくばUMXをこのまま放置します!!」

繰り返す。

「白百合家に告ぐ! 火核咲を出しなさい!! さもなくばUMXをこのまま放置します!!」

歩乃歌の声は白百合家にはもちろんセントラルにも響いた。

「……ふん、相変わらず厄介しか拾ってこない野良猫だぜ」

部屋の窓から半裸の孝宏が百連を見上げていた。

「おい、」

孝宏が振り向くことなく声を飛ばすと、天井裏からスーツ姿の男が彼の背後に着地した。

「俺が出る。スピローグの準備をしろ」

「しかし、お館様の許可を頂いておりません」

「今いないんだろうが。だったら今この場で一番権限あるのは誰だ? 俺だろうが。いいから出せ」

「……分かりました」

孝宏はパンツ一丁のまま言い放つと、

「景気づけだ。僅かな時間だけ俺を楽しまさせてやる」

床に倒れたままの、全身蒼白な咲に歩み寄った。

「……っ、」

「お前が勝手なことをしでかしたせいで面倒が来やがった。俺がつまらない奴の相手をしなくちゃいけなくなった。……1分でカタをつけてやるからそれまでに体力戻すんだな。全ては俺を満足させるために」

それからスーツの男が帰ってきた時には孝宏の足元には赤と白の液体にまみれた咲が転がっていた。

「……さて、どれだけ楽しませてくれるかな。PNー100の小娘は。……行くぜ、スピローグ!」

孝宏が渡された専用出力装置ヘッダーを起動させると、同時。

「!」

いくつもの光の束が窓や壁を貫いて百連の脇を通り抜けた。

同時、歩乃歌は衝撃を感じた。

「ぐっ……!!」

背中に鈍痛。落下とは違う色の降下は地面に続く。墜落寸前に踵のブースターを起動させて体勢を立て直す。

「ほら、楽しませてみろ」

飛ぶ声。見上げればさっきまで自分がいたその背後に迷彩柄のPAMTが宙に浮いていた。

セントラル製最新型量産PAMTのスピローグだ。

純粋な人型、背中には鳳凰を象った鋼の翼、両腕には刃と盾が合わさったような手甲。そして右手で握り、肩に置くは半透明な、しかし重量を感じる緑の鉄槌。

「……あれは……!! あれが火核咲のPAMT……いや、この感覚は違う……!」

「誰がお喋りしろっつったよ!!」

声を飛ばす。と、スピローグは背後の空気を蹴るようにして百連に対して迫りを始めた。

それはその機体を遥かに超えるだけの質量の鉄槌を担う者の動きではなかった。しかし、歩乃歌の敵でもなかった。

「遅い!」

百連は変形して人型になると、向かってきたスピローグの振り上げた右肘を左の手首で、スナップして半身を切りながらまっすぐ自身の背後に投げた。

「は……!?」

孝宏が認識した時にはスピローグは彼自身の部屋に突っ込んでいた。

窓を淵ごと完全に破壊して、ベッドなどの家具の全てを蹴散らして、スピローグの機体は廊下に転がる。

「ぐべっ!?」

転がり、左の肘が家の壁をぶち壊し、大黒柱にヒビを入れる。

「……ぐはっ!!」

壊れた壁の欠片が無数に黒服の背中に刺さっていた。それを見ようともせずスピローグは立ち上がった。

天井を簡単に突き破って屋根から上半身を出す。

「ぶっ殺す!!」

その状態で背中のブースターを起動させ、家を炎上させながらスピローグは飛翔した。が、飛び上がった瞬間に胸に何かが命中した。百連のビーム指だった。

「……な……!?」

「せっかくのPAMTもパイロットがこの程度じゃ報われないね。なるほど、UMXに勝てないわけだ」

「なんだとてめぇ……!!」

言葉は続かない。代わりに続いたのはビームの連打だった。

サイズの違いもあり、百連のビーム指ではスピローグを一発で破壊する事は不可能だったし、貫通も不可能だ。が、その射撃は打撃となって吸い込まれるようにスピローグのボディに次々と命中していき、面白いように空中でその巨体が転がり回る。

「どうしたの? 言葉を続けないの? それにしてもぶっさいくだよね。交尾中の赤とんぼだってもう少し優雅に飛ぶものだよ」

「て……めっ……がはっ!!」

ビームの連打が鋼の翼をついに融解して、スピローグは空中に留まる事が出来なくなり、落下を始める。

しかし、落下は完了しない。何故なら真下に移動した百連がビームを続けていて、リフティングのようにスピローグの機体を中空で維持していたからだ。既に背負っていた鉄槌は虚空に消えた。

「ほらほら。もっと楽しませてみたらどうなの? それとも助けを請うてみる? 咲ちゃーん、僕ちんを助けてくらさーいって」

「ぐふっ!!」

孝宏は言葉を出せずにいた。出そうとしたらそのちょうどのタイミングで攻撃が胸ぐらを打つのだ。

スピローグが受けたダメージをそのまま引き受けるわけではない。むしろ、他のPAMTと比べてパイロットに伝達するダメージは激減されている。孝宏本人にほとんどダメージは無く、しかし何も出来ずにこうして一方的に攻撃を受け続けては宙を舞っているのだ。

しかし、その苦痛も長くは続かなかった。

「おpやあああああああああああああ!!」

「っと、」

背後にUMX5号が迫ってきていた。大きく開いたその口は直径10メートルを超えるだろう。

だが、歩乃歌に恐怖はない。ビームを止めて、代わりにスピローグの背後に回り込むと、転送した闇椿で重なった両腕を刺し貫く。

「ぐうう、な、何を……!?」

「実験」

そのまま踵のブースターを使ってUMX5号の開いた口へと接近する。

「ま、まさか……!!」

「はい、おしまい」

闇椿を抜き、次の瞬間にその刀身を振り回して、スピローグの両腕を切断した。

「があああああああああああああ!!」

悲鳴を上げる孝宏。その身を包んだスピローグはUMX5号の開いた口の中に落ちていった。

ただ落ちただけじゃない。ちょうどいい大きさだったからかUMX5号はスピローグを喉に詰まらせてもがき始めた。その口から響く悲鳴は先程までのとは別の色に変わっていた。

それをただただ聴き果てるだけの歩乃歌ではない。

UMX5号の喉前に移動すると、次々と新しい闇椿を転送しては、喉に突き刺していく。

当然UMX5号は暴れ、両腕を振り回すが、それを回避した歩乃歌が無数の闇椿を転送、手で掴まず直接UMX5号の腕に射出してメッタ刺しにしていく。数秒でその両腕は朽ち果てて、削げ落ちては白百合の家に落下した。

「これで終わりかな」

両手に1本ずつ闇椿を転送し、同時に喉に突き刺す。これでちょうど100本目。

もはやその口からは悲鳴も生れず、ただその巨体は白百合の家に前のめりに倒れた。そして、喉のあたりから大爆発を果たす。

「……ほ、歩乃歌……?」

眞姫はその間何も出来なかった。どちらかと言えば激情家である歩乃歌が本気で怒るとここまで冷徹になるのだと初めて知ったからだ。

「眞姫、出番無かったね。でもだからってこれ以上の出番もないと思うから、何なら降りててもいいよ?」

「え?」

「……そろそろ来る頃だろうしね」

燃える白百合の家を見下ろす歩乃歌。やがて、視界の中で輝く一点を捉えた。

それは真紅の翼を持ったPAMTだった。

「よくもここまで好き勝手やってくれたね」

投げかけてくる声は慣れるにはまだ早く、しかし忘れるにはあまりに情け深かった。

「僕ね、君のそういう弱虫なくせに卑怯ばかりする態度には正直むかついてるんだ。さっきの奴のように勿体無いくらいあっさり殺してあげるからかかって来なよ」

「それは私のセリフだぁぁぁっ!!」

咲は吠え、PAMT:クリムゾンスカートはスカートを展開して百連へと加速した。

展開されたスカートはそれぞれ刃となり、クリムゾンスカートの両手に握られる。それを見た歩乃歌は転送して握った闇椿を真っ直ぐ投げつけた。

「!」

咲は迫り来る闇椿を左手による斬撃で切り払った。同時に、喪失感と激痛を得た。

「……ぐっ!!」

左足が、膝から上しかなかった。横を見ればショットガンを構える百連の姿があった。

「このっ!!」

激痛を激昂に変えて迫り来る咲。しかしその突進を歩乃歌は正面から受けずに素早く横移動。クリムゾンスカートを軸に弧の動きで百連を動かし、背後を奪う。同時に引き金を引く。

「っ!!」

寸前に高度を上げたクリムゾンスカート。その残された右足を榴弾が貫き、破砕する。

「卑怯はどっちだ!! 何があっさりだ!!」

声を上げる咲。今度はその左の手首をビームが貫いた。

「あああああああああああああああ!!!」

爆発も損失もされなかったが握っていた刃は落とされた。一瞬、視線が刃を吸い込む大地に注がれた。その一瞬に百連は加速した。

「!」

ショットガンを捨てた百連は全速力でクリムゾンスカートに迫り、転送した闇椿を握り、肉薄する。

そして、

「が……っ!!」

クリムゾンスカートの胸を闇椿の刀身が貫いた。それを抜かないまま百連はクリムゾンスカートの肩を足場にして空へと舞い上がる。跳躍を続けながら両足の機銃を斉射して、落下を始めたクリムゾンスカートに火力を集中させた。

「どうして……こんな……勝てな……うううあああああっ!!」

落下より前にクリムゾンスカートは空中で大爆発を果たした。

「……ぁ」

茂みの中。両足を失い、その断面と左手首から血を流す咲がうつろな瞳で倒れていた。

左手を庇おうと右手を伸ばした時だ。

「ぇ……」

自分の肩口から先には己の右腕ではなく紫色の物体があった。それは百連の足だった。

「が、がああああああああああああああああ!!!」

事実を認識するより先に咲は吠えた。それを無視しながら百連は足を踏みにじり、咲の右腕を粉々にする。

同時に左手小指からビームを一瞬発射、それが咲の暴れる左腕に命中すると一瞬で肩から先を灰燼へと化した。

「ぅ……ぁぁぁ……」

「……」

百連は咲の体を掴み、右腕を容赦なく引きちぎって胴体のみを己の胸まで掴み上げた。




・セントラル。裏庭に飛来した百連は着地と同時に光に消え、元の姿に戻った。

「ふう、」

息をつく。その背後にぐちゃっと言う音がした。さっきまで手で握っていた敵が落下した音だ。

「……気は済んだか?」

正面。筧先生と眞姫が歩いてきた。僕は背後を振り向くことなく二人に歩み寄る。

「正直まだ全然です。でも、百連のバッテリーも残り少なくなったんでこれで今日は勘弁してあげます」

声を飛ばし、もう一度息をつくと建物の中から何人かの白衣のスタッフが走ってきて、僕を通り過ぎていった。

「で、先生?」

「何だ?」

「僕ってこの後事情聴取とかされたりします?」

「それだけで済めばいいがな。とりあえずほぼ間違いなくお前が再びPAMTを使うことはないだろう」

「……そっか」

「……歩乃歌」

「眞姫、大丈夫だよ。悔いはない。とりあえず望みは叶ったんだし」

「……とりあえずお前達はもう一度会議室に来てくれ。さっき伝え損なった話がある」

先生はそう言って踵を返す。……さすがに怒ってるみたいだ。まあ、僕もカッとなりすぎたところは自覚している。あれだけ白百合はセントラルにとって特別だって言われたのにそこの人間を二人も倒したんだ。

おまけにUMXとの戦闘にわざと巻き込んで白百合家を壊滅させてるし。今でもまだ火の手が走ってて救急車のサイレン音が響いているし。

「歩乃歌……」

「いいよ。行こう」

眞姫の肩に手を置いてから僕は先生の後を追いかける。

それから1分もしないうちに再び戻ってきたこの会議室。さっきと違うのは、ライフルを持った警備員が5人も室内に居る事だ。

「……物騒ですね」

「お前、自分の立ち位置分かってないんじゃないのか?」

「分かってるに決まってるじゃないですか」

「……少年法は適用されないぞ?」

「少女ですから」

「……で、話を再開するぞ」

「再開ですか? 取り調べじゃなくて?」

「それをするのは俺じゃない。別の職員だがその到着を待っている間にさっき伝え損ねた俺の要件を伝えようと思ってな。……調べたところ、この街にいるPAMT持ちは6人だった。だが、花京院は火核に殺され、白百合の3人はお前に倒され、そしてお前は十中八九PAMTを取り上げられる。そうなれば、」

「PAMTを持ってUMXに対抗出来るのが眞姫だけになる……って事ですね」

「そうだ。さっきまでは欠員は一人だけだったんだがな。……そこで、だ。お前に選択肢をやろうと思う」

「……戦力として花京院くんを生き返らせるつもりですか?」

「そうだ。ただしそうは言っても昨日までの花京院ではない。……この世界の人間はリセットが効くように月に1度情報データを採取される。つまり、蘇った花京院は一か月前の花京院であり、現状をほとんど知ることはないだろう」

「……それで僕への選択肢は?」

「それでも花京院を蘇らせるか、それともお前もしくは牧島に新しいPAMTを与えるかを選んでもらう」

「新しいPAMT……?」

「そうだ。白百合の3人は特別製のPAMTを用意されていた。本来PAMTは一人一個しか持てないパラフォの中に1体しか設定できないが、あの3人はPAMTを使用するためだけの専用装置:ヘッダーを渡されていた。

それと同じように個人に特定しない新型PAMTを譲渡して戦力の増強を図ろうと言うのがセントラルの魂胆だ。一応紫にも与えられる予定だったが、どうやらその役目は牧島に与えられそうだ」

「……」

先生がどうして選択肢にしたのかが分かる。花京院くんを蘇らせても、眞姫に新しいPAMTを与えても僕の親しい人がより危険な目に遭うのは必然。だから敢えて選ばさせているんだ。でも、

「どうして両方じゃないんですか?」

「上の決定だ。具体的に言えば予算の関係だろう。人一人を蘇らせるのも、新型PAMTをロールアウトするのも安くはないって事だ。選ぶ選ばないに限らず両方ってのは無理だと思ってくれ」

「どうして僕に? 眞姫には選択肢はないんですか?」

「牧島の要望だ。お前に決めて欲しいと」

言われて軽く後ろの眞姫を見た。眞姫は何も言わずこちらを見ていた。任せるということだろうけど、どうしようか。

「花京院くんは一か月前って事はUMXやPAMTの知識はあるんですか?」

「ある。だが、お前達の事は知らないだろう。それでもたった一ヶ月程度だから情報の共有も難しくはないだろう」

「……」

なるほど。実際花京院くんの、インフェルノの火力は必要か不要かと言われたら間違いなく必要だ。百連やアボラスじゃ大型のUMXを相手にするのは難しい。

でも、僕がいなくなってしまうと僕のサポートに特化したアボラスを所有する眞姫はどうなのだろうか。

アボラスで戦えないことはないだろうけど小回りが利かないし、百連よりはマシとは言えインフェルノのような火力も持たない。

「新型の性能を聞いてもいいですか?」

「新型であるスピローグMk-Ⅱはさっきお前が倒したスピローグをベースにしておきながらもお前の百連や花京院のインフェルノと言った他PAMTが得た戦闘データなどを基に改良を加えたモデルだ。純粋な性能で比べるならば今までのどのPAMTよりも上だ」

「……インフェルノとの最大火力の差は?」

「インフェルノの7000キロワットに対してスピローグMk-Ⅱは4500キロワットだ。流石にサイズやコンセプトの差があるから出力や火力ではインフェルノには届かない」

だったら僕は花京院くんを蘇らせたほうがいいと思います」

「……分かった。上層部にはそう伝えよう」

筧先生がそういった時だ。

「いえ、その必要はありません」

急にドアが開かれて姿を見せたのは僕達と同い年くらいの巫女さんだった。……あれ? この子どこかで見たような……?

「誰だ君は? セントラルでは見ない顔だが?」

「今日……と言うよりついさっきブラックカードで一部権力を譲渡された者です。甲斐和佐と申します」

「ブラックカード……? あの、どんな企業でも営業権を手に入れられると言うあのカードか?」

「はい。既にセントラル上層部とは話がついています。……そして、この世界におけるセントラルの管理人は私となりましたので私の指示に従っていただきます」

「……」

筧先生は彼女の背後にいたスタッフを見る。黒服さん達は遠慮がちではあるけど頷きを見せた。

「……それで、管理人。一体俺に何をどうしろと?」

「はい。今まで観測された中で最凶クラスのUMXの始動確認を果たしました。そのUMXを倒すために可能な限り戦力を集中させる必要があります。なので、紫歩乃歌さんの処罰は保留とします。その上で花京院繁さんや火核咲さん、白百合蛍さんの復活を急ぎます。新型の発注も行います」

「……おいおい、一気にそんなことをしたらセントラルと言えど破産するぜ」

「理解しています。ですが世界の危機ですので」

「……そこまでする必要があるUMXなんて聞いたことがない。一体何が来たと言うんだ?」

「0号です」

「……0号だと……!?」

「筧先生、0号ってなんです?」

しかしその僕の質問には先生ではなく巫女さんが答えた。

「全てのUMXの源となった存在です。1号以降は列強宣言の世界線から来た侵入者ですが、0号と言うのは始めからこの世界にいた存在です。0号の存在があるからあの世界からこの世界へ来る者の多くはUnknown Monster X の姿になってしまうのです」

「……つまりUMXの王みたいなものですか?」

「女王の方が近いでしょう。0号がいる限りUMXは途絶えません。そして、セントラルの目的の1つはこの0号の封印もしくは撃破にあります。……それを利用している口はありますけどね」

「そりゃセントラルの目的はPAMTの価値証明にあるでしょうからその実験に必要で、しかもタカ派な敵の駆除まで出来るUMXの存在はなくてはならないでしょうね。でも、どうしてセントラルはそこまでPAMTの価値を証明しようとしているんですか? 列強宣言の5カ国を黙らせる兵器と考えるならそれを5カ国相手に見せるのは不都合なのでは?」

「私も当事者ではないので真実は語れませんが私の兄は、PAMTを操りUMXを倒せるだけの強い存在を見つけるのが目的ではないかと推測しています。その存在に5カ国を統制して新しい時代の王にでもするのではないかと」

「あなたのお兄さんは今?」

「この世界にはいません」

「……って事はあなたも列強宣言の世界から来たんですか? UMXにならずに?」

「いえ、列強宣言のあった世界とはまた別の世界から来ました。それに、GEARを持つ存在はUMXにはならないのでご安心を」

「……GEARってなんです?」

「それは役割であり、力でもある、世界の構成物質の1つである概念です。本来全ての存在にはGEARが与えられているはずなのですが調停者の管理下に置かれて以降は多くの人間はGEARを忘れ、封じられています。

私も、そしてあなたも何らかの要因でGEARには覚醒しているので世界線を超えてもUMXになる事はありません」

「……って事は火核咲もそうなるわけか」

「ああ、彼女ですか。はい、そうなります。彼女もこの世界に来ているとは意外でした」

「あの子を知っているんですか?」

「彼女は元々私がいた世界の人間です。もがm……いえ、火核さんと呼びましょうか。GEARを持つ彼女の力はきっと0号を倒すのに必要な存在です。だから一刻も早く彼女を蘇生させねば……」

「役割って事はつまりチェスの駒みたいな物ってことですか?」

「どちらかと言えば世界という機械を動かすための歯車のようなものです。私には私の、彼女には彼女の、そしてあなたにはあなたの役割があります。だから私はあなたにやり方を強制する事は出来ません。なのでお願いをしたいのです。……世界を救うためあなたの力をお借りできないでしょうか?」

巫女さんは頭を下げた。

……前に筧先生から話を聞いた時よりも情報量が多くて正直混乱している。

でも、分かる事はある。この子に協力してUMX0号を倒せばもうUMXが現れる事はない。

「0号を倒したらこの世界はどうなるんですか?」

「分かりません。でも、倒さなければ0号によって何が起こるか分かりません。0号の力はUMXを操る力。この世界すべての人間がUMXにされる可能性もあります。兄はそれを利用して0号は他の世界に戦いを挑もうとしている可能性があるとも言っていました。ですが、UMX自体がそもそもどんな存在なのか、一体何を考えているのかが全く分からないので私にも兄にも正確な事は言えません。申し訳ありません」

「……」

最果ての扉の先で待つ者に聞いてみるか? と言うか世界を跨いだって事はこの子は最果ての扉の先で待つ者と会ったことがあるのだろうか? でも確か最果ての扉の先で待つ者は僕の前に来た女の子はボクっ娘だと言っていた。でもこの子はボクっ娘じゃない。他に世界を跨ぐ方法があるって事かな?

「あ、とりあえず……」

「へ?」

考えていた時だ。僕はいきなり唇に感覚を覚えた。そして視界には彼女の目を瞑った表情があった。

「な、な、な……!?」

「あなたを拘束していた戒めを私のGEARで解除しました。これであなたは問題なくこの世界に居残ることが出来ますよ」

「……戒め?」

そう言えば最果ての扉の先で待つ者が言っていた。僕の体は世界を超えたがっていると。それを拒み続ければいずれ肉体が死んで、全身不随になるって。だったら彼女が今き、き、キスで解除したのはそれ?

「……僕ファーストキスだったんですけど」

「女の子同士なのでノーカンって言うのはどうでしょう?」

「……和佐さんそっち系の人?」

「いえ、私に恋愛感情はないのでご安心を」

「……安心していいのかなそれって」

「それで、答えは如何ですか?」

「……一晩考えさせてくれって言うのはダメですか?」

「……分かりました。どのみちあなたがYesを答えても今動けるのはあなた方二人だけ。それでは0号を倒すことは出来ませんから他の3人の復活を待たなくてはなりません。一晩と言わず一週間待ちますよ」

そう言って彼女は部屋を去っていった。

残されたのはちょっとらしくないけど、重い表情の僕と眞姫と、あっけにとられた表情の筧先生だけだった。

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