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霹靂のPAMT  作者: 黒主零
第4話「セントラルと白百合」
10/28

・チョークが黒板を削る音が響き渡る授業中。今は歴史の時間だ。

数学や漢字、理科とかと違って覚えることしかないからはっきり言って僕は暇で仕方がない。

当然手抜かりはないし5段階評価でも5を取れるのがこの紫歩乃歌ちゃんですけどね。

「そんなわけで21世紀の平成の時代は文字通り平成を保つ時代だったがある出来事を境にそれは崩れたんだ。……そろそろテストも近い。誰かに当ててみるか。……よし、紫。それは何か説明してみろ」

「はい、先生」

電子ペンでモニターに文字を書くのが大半の時代で、未だ白墨チョークを使う古臭い趣味の先生に呼ばれる。心の中ではこんなふうにいつもどおりの僕だけれども一応外面は良く見えるようにスイッチは入ってる。だからいつもよりも落ち着いた声と、今の時代の成り立ちを喉から出す。

「西暦2042年に沖縄と呼ばれていた孤島の、さらに昔に琉球帝国と呼ばれていた時代があって、とっくの昔に死んだはずの王様の一人であるディベトロン・クルセイドが突然、自身の軍と共に復活を遂げて瞬く間に海を越えて当時中国と呼ばれていたこの大陸に攻め行きました。2030年代から経済的と環境的に他国から大幅に差を付けられ、ついには自給自足も不可能な貧国になった上に当時の技術よりもさらに300年以上も前の珍しい技術を用いて攻めてきた相手を前に中国ではまともに抗戦する事は出来ずにわずか3ヶ月で制圧。戦う意志のない民間人や残存兵まで含めて本土人は全員殺されてしまったとか」

「よろしい。次、牧島。そのディベトロン・クルセイド率いる琉球帝国軍が用いた技術を説明してみろ」

「はい。……えっと、」

流石眞姫。板書のノートとは別のノートを取ってテスト用に控えているみたいだ。僕ならそんな必要もないんだけどその努力は僕には出来ないかな。なんてイヤミを言ってる間に情報をまとめ終わったみたいで、

VICZERヴィクツァーと呼ばれる特殊能力で、背中から見えない何かを出して攻撃するものです」

「そう。このVICZERと言うのは教科書に載っていたりたまに学会でも話題にこそなるが、しかし未だに名前以外のほとんどが知られていない。ただ、事故死したある琉球帝国軍軍人のDNAには我々ともまた違ったDNAの成分が発見された。そのため一説には、ディベトロン・クルセイドや彼が率いる軍人は宇宙人ではないかと言われている。VICZERは地球人には存在しないDNAから生まれる特殊能力ではないかってな。ディベトロン・クルセイドの手回しによって琉球帝国に関する情報のほとんどが消失されたため、本当に琉球帝国人は宇宙人なのかもしれないし、たまたまそう言う特異体質が揃った連中を集められたのかもしれない。……連中も自身の武器だからってVICZERに関してはほとんど情報を漏らさない。

まあ、オンリーワンの物を持っていれば見せびらかして自慢をするか、誰にも見せずにこっそりとするかのどっちかだろうな。で、次だ。そのまま牧島、中国制圧から2年間の出来事を順に言って見せろ」

「は、はい」

ページをめくる眞姫。

「2042年9月に中国を制圧後に残された研究所や軍事施設から現代の技術を知ったとされるディベトロンが、現代の沖縄人達を徴兵して現代式の軍隊を作り上げます。何故か沖縄人達はディベトロンを心酔していて、戦争なんて100年近く経験していない民族だと言うのに小学校を卒業したばかりの子供から70歳を過ぎた老人までもが自ら志願して兵士になりました」

「ん、しかしただの兵士じゃあないな?」

「はい。当時日本以外の各国では人体にCPUを含む機械部品を手術で移植する事で思考能力の増強や体調管理を徹底するメカプラント技術が流行していて、沖縄軍はこのメカプラントのCPUにハッキングして各国で大規模な内乱を起こそうと画策していました。でも、翌年1月に朝鮮軍が待ったをかけました。朝鮮は2038年に南北問題を解決して統合されたばかりでまだメカプラント技術は日本同様手をつけていませんでした。しかし琉球軍にも沖縄軍にもまだない大規模な軍隊を持っている。核ミサイルもある。なので技術と戦力の共有をするために琉球帝国と同盟を結ぶことにします。これを、当時生まれたばかりのディベトロンの息子の名前から取って<ジキル同盟>となります」

「ん、それで?」

「はい。ジキル同盟は他国に取って恐怖でしかありませんでした。現時点で多くの国の多くの人が暴走させられているのにさらに大規模な軍隊まで持たれたら戦争すら起きないままに攻め込まれて中国のように軍人民間関わらずに根絶やしにされる可能性が高いからです。実際に2月にはいつでも他国に攻め込める状態になりました。そして3月にはタイ、4月にはイランとカザフスタン、5月にはオーストラリアを制圧します。これを<琉球西圧>といいます」

「そこで質問だ。では琉球や沖縄の大元である日本はどうして攻め込まれなかった?」

「はい。ディベトロンの妻が日本にいるからです」

「間違いではないな。ディベトロンはそれ以前からも日本は狙われなかった。それが何なのかは出題しておいてなんだが俺にも分からない。ただ一説によればディベトロンのかつての友だったマラッカ人が中国に殺されたからその復讐が最優先だったとも言われている。尤もディベトロン自体が一体いつごろの生まれでどうして今になって再び台東したのかも分かっていないんだがな」

「ひょっとして偽物とか同姓同名の可能性もあるってことですか?」

「否定は出来ない。さっきも言ったが琉球帝国の情報はほとんどないし、琉球王国だった頃の情報も数十年前に抹消された。歴史上に名を残しているディベトロン・クルセイドは少なくとも400年以上前の人間である事は確実だが、それ故に情報はほとんどない。況してやDNA情報の類は当時まだその技術どころか概念すらなかったから仕方ないが、当然ない」

「じゃあ今ディベトロンって何をしているんですか?」

「その説明をする前に続きを説明してみろ。2043年の琉球西圧の後から」

「あ、はい」

「……」

眞姫可哀想だな。もう一人だけで10分くらい使わされてるよ。僕なんて10秒くらいだったのに。

別にあの先生が眞姫を逆贔屓していたりするわけじゃなくて、ただ気だるそうな姿からは想像も出来ないくらいに熱中してるだけだけどね。人は見掛けに拠らないなぁ……。

「2043年に西にある数カ国を制圧した琉球帝国はそのままさらに侵略を進めると誰もが考えていましたが結果そうはなりませんでした。6月にジキル同盟が破綻するからです」

「その理由は?」

「えっと……すみません分かりません」

「うん、それが正解だ。ただディベトロンが破天荒なだけなのかそれとも他に事情があったのか。理由は全く解らないがとにかく同盟は半年も持たずに破棄され、ディベトロンが用意したわずかな戦力で朝鮮軍は民間人もろとも皆殺しにされその科学力だけを奪われた。次、」

「はい。同盟を破棄して朝鮮すら滅ぼした琉球帝国はその後しばらく動きを見せませんでした。それまで毎月のように何かを起こしていましたが半年間程何もしませんでした。その間に各国はようやくメカプラントを施した人間を全て処分することで体勢を立て直します。でも、その代償として国家間のバランスが崩壊してしまった。時代錯誤にも非暴力非服従をスローガンにしていた施しの国家だったインドは生き残ったわずか100人の民の全てが突然変異を起こしてスーパーインド人に覚醒。空をマッハ6で飛んだり、ミサイル並みの威力のビームを素手から発射したり、デコピンで電柱をへし折ったり、色々怪物になりました。これを<インド超解>と言います」

「うん」

「今までとは違って大幅に気質が荒くなったインドは瞬く間に南の国々をたった100人で制圧していき、押し迫る核ミサイルの雨を正面から打ち破って侵略を成功しました。2044年の<インド南下>です。琉球帝国と違って民間人を皆殺しにすることはしませんでしたが、その……」

「そうだ。生き残った男性は原子力発電所での労働力にし、女性は全て子供を産むためだけの機械として手足を切断され、下半身を外に出して上半身は壁に組み込まれた。超インド人の精子は一度放たれれば100%相手を孕ませられる。しかもどういう理屈か事故か何かで既に子宮を失って子供が作れない体だった女性であっても孕ませられ、さらにたった12時間ほどで出産をした。その上生まれた子供は超インド人のDNAと能力を100%引き継いでいき、通常の何十倍もの速さで成長した。その結果、2044年内にはたった100人だったインド人は1億倍の100億人にまで数を増やした。一人でも全盛期だった最高性能の戦闘機並かそれ以上の戦闘力を持った怪物が100億人まで数を増やしたんだ。こ の<インド超醒>と言う。ではその頃アメリカは何をしていた?」

「はい。人体の中に機械を入れるメカプラントの逆転の発想として人間が乗り込むタイプの人型ロボット兵器ドナルドレイヤーを開発して量産。1機1機が全長100メートルサイズで、核ミサイルでさえも無力化するオキシジェンタルフィールドによって既存戦力のほぼ全てを制圧。EUをそのまま壊滅させてアメリカの領土にして全域にドナルドレイヤーの製造工場を置いてさらなる戦力の増強を目論みました。これを<アメリカンドライブ>と言います」

「そうだ。未知の能力で覇道を進む琉球帝国に、超人達を集めたインド、そして技術のゴリ押しのアメリカ。それとは別に謎の存在・性殺女神セキシキルアルクスによって守られた泉湯王国アク・サスファンテや、永世中立国のままであるスイスが並び、21世紀後半はこの5カ国の激突になった。これを<五強乱立>と言い、琉球帝国による中国制圧からの一連の流れをまとめて、いつの間にか<列強宣言>と言うようになった。

……実際にはスイスはすぐに泉湯王国アク・サスファンテと同盟を組んだ。まあ、スイスだけは既存の技術のままだったからそのままでは他の国家に太刀打ち出来ないから当然だな。しかし今までともまた変わった未知の力を使う性殺女神セキシキルアルクスを擁する泉湯王国アク・サスファンテは決して争いを好まず、むしろ難民達を引き取って平和を願っていたらしい。緊張状態にあるスイスとも違って冗談抜きで世界で一番平和な国家と言われていたそうだ。ただし、性殺女神セキシキルアルクスの加護を受けるには名前のとおり、性別を殺される必要がある。そうなると子供を作る事が出来なくなるが、これもまた謎の技術によって性殺女神セキシキルアルクスはその力を使って0から 新しい命を作り始めて人口を減らさずにいる。現状もこの性殺女神セキシキルアルクスについては謎の存在のままだ。亡霊や超人とも違って人間ではない事は判明しているがな。……牧島、次を……」

「先生、流石に眞姫……島さんばかり当て過ぎでは?」

「……そうだったな。すまん。熱中しすぎていた。じゃあ時間ももうないし、白百合。一触即発状態だった列強宣言から70年近く経過している現在どうして平和が保たれているか、説明出来るか?」

「……はい」

ため息をつきながら着席する眞姫の代わりに白百合さんが立ち上がった。その後ろ姿にあるスカートを見ると、どうしてもあの時の光景を思い出してしまう。一瞬だったし暗かったけど白百合さんのあそこを見てしまったから仕方ない。口では忘れたと言えるかもしれないけど人間の頭はそう簡単には出来ていない。もちろん僕はノンケだからその光景をおかずに使うなんてことはないけど。

「列強宣言の5カ国以外の国家や人間はもう残されていないと思われていました。それなのに列強宣言が成されてすぐにセントラルと言う組織が台頭して5カ国の間を取り持ちました。泉湯王国アク・サスファンテ以外の国家はいずれも戦争に国力の全てを掛けていたので、娯楽や民間人の暮らしのサポートを行うと言う利益をもたらすセントラルの存在は嬉しい誤算でした。特に争いよりも娯楽を生み出すことに長けていた日本はセントラルの存在を歓迎して琉球帝国に停戦を訴えました」

「まるで妻に惚れた弱みを突かれてお願いをされる夫のように、ディベトロンはその訴えを渋々受ける事にしたんだ。第三次世界大戦開戦目前だった世界を娯楽や生活サポートだけで70年近くも支え続けて冷戦だけの状況にしたんだ。……まあ、授業しておいてなんだが未だに不明な事が多すぎる70年間であるのは間違いない。その代表格な連中に囲まれたスイス代表の胃が心配で仕方ない程にな。……もっと語りたいが時間も時間だ。今日はここまで。今日やった内容はよく復習しておくように。今度のテストで間違いなく出すからな」

そして丁度チャイムが鳴り、日直だった旭川さんの号令で授業は終わった。

「……はぁ、疲れた」

「お疲れ様、眞姫。流石に哀れんであげるよ」

「その上から目線を何とかしてくれたらもうちょっと心も休まるんだけどね」

「わざとやってますので」

「知ってる」

流石眞姫。息が通じ合ってるね。

「あの先生、キモいけど悪い人じゃないだんよね」

「そうだよ。ただ列強宣言のあたりの歴史が好きすぎるだけだよ。キモいけど」

「……お前達、せめて俺に聞こえない声で話題を作ってくれ」

日誌を取りに来た筧先生が文句を垂れるけど僕達が返す言葉はひとつだった。

「「わざとやってますので」」




中央政府連邦議会セントラル

それは今より70年も昔に発動された列強宣言によって発生した世界各国の領土の奪い合いに勝ち残った5つの国を何とか冷戦状態にまで持ち込み、文民達の生活をサポートしている組織である。

争いばかりであった列強宣言の発動下の時代で失われつつあった平和や文明の利器、あらゆる娯楽を提供するセントラルは争いを望まない一般市民はもちろん各帝国軍所属の兵士達をも非戦ムードにして、一気に存在価値を割り込ませた。

列強国・日本と武装国家アメリカ、超人帝国インドの3カ国が主な好戦国家であったがその3国もセントラルが流布しているあらゆるエンターテイメントに価値を感じ、それを失ってしまうであろう戦争の再開を出来ずにいた。

そんな名ばかりの冷戦状態が続いて早70年前後。

セントラル日本支部のある2000坪もの広大な地域。その内1300坪はセントラルの施設として貸し出されていてあらゆる国のどこを見ても一致しない独特な文化で彩られた変わった風景がある。しかし残った700坪には古風で和風なお屋敷があった。短く見積もっても200年は下らない程古い木彫りの表札には白百合と言う文字が刻まれていた。即ちここは白百合家。

「……ただ今戻りました」

「私もー」

ガラガラと音を立てて、やはり古い扉を横に開けて中に入ったのは制服姿の少女が二人。

片方はこの白百合家の長女である白百合しらゆりほたる。もう片方はその妹分である火核ひさねえみだ。

二人が扉を閉め、玄関で靴を脱いで中に上がると、

「おう、帰ったか」

「はい、戻りましたお兄様」

正面にある長い一本道の廊下。その最奥の部屋から一人の青年が姿を見せた。ボサボサ頭で、左手で頭を右手を下着の中に入れて、両手同時にポリポリ掻く下着姿のこの青年の名前は白百合しらゆり孝宏たかひろ。蛍の兄である19歳の大学1年生だ。

「……お兄様この時間まで寝ていたのですか?」

「ああ、そもそも家に帰ってきたのが朝の7時くらいだったからな」

「……」

蛍は追求しない。自分の足元、玄関の靴置き場には見慣れぬ女物の靴が何足かある。蛍のものと大差ない大きさだ。

「孝宏さん、また女の子遊びですかぁ? いくら権力でいくらでも情報を操作出来るからって中高生を毎晩攫うのはどうかと思いますよぅ?」

「うっせぇな咲。心配しなくてもあと1年くらいしたらお前の相手もしてやるよ」

「いりませんよーだ! 大体あなたの女癖の悪さを見てるから私はお姉さまに走ったんですよ?」

「そのお姉さまを今お前の前で弄んでやろうか? 別に今のお前にだって奉仕をさせてやるくらいのことはしてやれるんだぜ?」

「何をぉ!?」

「咲、やめなさい」

「お姉さま……」

「お兄様。いつがよろしいですか? いまですか? お風呂に入ってからですか?」

「どっちもだ。制服のままでいいから早く来い」

手招きする孝宏に蛍は、

「これを」

「お姉さま……どうして……」

「お兄様はこの世界に必要な存在。私は自分の体で世界を救えるのならそれでいいわ」

カバンを咲に渡すと孝宏の部屋へと向かっていった。

「……」

襖の向こうから微かに聞こえる孝宏の笑い声と蛍の悲鳴と喘ぎ声を通り過ぎて咲は自分の部屋へと戻っていった。

火核咲がこの白百合家に拾われたのは3年前の事だ。

初めてセントラル軍がUMXと戦闘を行なった日の夜に名前以外のあらゆる記憶を失ってセントラルの敷地と白百合の敷地のちょうど間に倒れていたのを蛍に発見された。

「あなたは……?」

「……ひ……さ……ね……み……」

「ひさねみ?」

聞き取れたのはその4単語だけだが他にも何かを言っていた。

また、少女の胸ポケットからは濡れてボロボロでバラバラになった名札らしきものが入っていて火と咲の字だけが読み取れた。

本人が漢字を忘れていたため、蛍は咄嗟に火核ひさねえみと言う字を当てたのだ。

火核ひさね火核ひさねと読むから残った「み」に1つ前の「ね」のボインである「え」を重ねて余った咲と言う文字から咲と書いてえみと読ませる事にしたのだ。

それ以来蛍にはひどく懐いている。最初は白百合もセントラルも懐疑に思えていたがしかし咲の体を検査したところ非常に興味深いデータが得られた。そのデータの観測は今でもまだ続いている。否、恐らく咲かセントラルのどちらかが死ぬまでずっと続くだろう。

蛍にだけ懐いていればいいと思っていたが当然そうもいかない。なにせ、この白百合の家はこの世界の根幹を司ると言ってもいいであろう、セントラルなる組織と密接に繋がっている。

月に一度はセントラルの研究室にデータ収集のため赴かなければならない。

そして何より蛍の5つ年上の兄・孝宏。成人後にはセントラルの重要ポストに就く未来が確定しているためかあらゆる努力を惜しみ、権力と財力を使って毎日のように酒と女で遊びまわっている。それだけならまだしも、実の妹である蛍にまで手を付けている。最初は隠されていたが、どうやら咲が引き取られた時つまり蛍が10歳の時には既に手を出していたらしい。

それを初めて知った1年前には当然抗議をした。直接孝宏に言うのは気が引いたため、まずは二人の両親に話した。我ながら最高の手段だと思った。実妹相手に近親相姦している兄に対する仕打ちとしては申し分ないだろう。だが、意味はなかった。

「計画に支障を起こさなければ何をしようと構わん」

これが返って来た言葉だった。

白百合の両親はセントラルで重要な立場に居るそうだからきっと計画と言うのはセントラルにとって、つまりこの世界にとっても重要なものなのだろう。それだけで納得しようとは思わなかった。でも、仕方がないかなとは思ってしまった。

ある日のことだ。孝宏がインフルエンザに掛かってしまい、一週間隔離された。

しかし毎日のように孝宏に抱かれていた蛍は性欲に耐えられなくなってしまい、咲を求めた。

きっと、自分に出来るのはこれくらいしかないのだろう。それでこの人が救えるのなら、それでこの人を救えなかった自分を赦してくれるのなら喜んでこの身を差し出してみせよう。そう思った。……いつしか攻守は逆転したが。

きっと自分は狂っている。この白百合の家もそうだが自分もそれに負けないくらいには壊れているだろう。

「お姉さま……? お姉さまが傷つけられているその痛みは私には分かりません。でも、近いものを得ることは出来ます。だからどうか忘れないでください。いつでも私はお姉さまを感じていると」

咲は電気も点けずに夕暮れ色に落ちた自室で、机の引き出しから出した彫刻刀を己の腕に向けて赤を散らした。その腕には無数の切り傷があった。肌の色が変わるくらいに赤を浴び続けている。

「……わあ」

それを見て咲は笑みを浮かべ、赤を舌で掬い始めた。

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