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奇跡の治癒

「うわっ!なんだこれ!!」

教会に行く道中で俺は足を止めた。目の前には何体かの石像が立っていた。

「人の形をした石像ですね。随分趣味が悪い…」

そういうマリナの言葉に頷いた。確かにこの石像は妙な生々しさがあった。石像はどれも苦悶の表情で造られていた。


時計塔大教会に着くと、下の広場には中に入れなかった人間があぶれるように詰めかけていた。


「あのー、これは何の集まりなんですかね?」

俺の声は届いていないようだ。群衆はまるで何かに憑りつかれる様に手を合わせ教会に向かって祈りを捧げていた。

「内部を確かめる必要がありますね、大智」

「ああ、行ってみようか」

群衆を掻き分けるように教会の扉まで行き、その扉を開けた。


扉を開けた時、まばゆいばかりの光が教会内を埋め尽くしていた。

「うおっ!なんだ、これ!!」


「……治った。治ったぞ!石化病をあの少女が治癒した!!」教会内の誰かがそう叫んだ。


「おおお!!本日も奇跡は果たされた!!聖女・エウリアの慈悲に感謝をーーー!!!」

教会の女神像の下で黒いローブをまとった中年の男が仰々しい言葉で語る。

群衆はその言葉に狂乱するように叫んだ。


「治して!!私の子供も!!」

「神様!!どうか私の夫を…!!!どうか助けて!!」

「聖女・エウリア様―――――!!!!!!!!!!」


群衆は何かを信仰していた。その対象はすぐに分かった。何人かの黒いローブの人間たちに囲まれるように、祭壇に一人の少女が立っていた。


「望月…花帆」

祭壇に座っていたのは研究所のパネルで見た望月花帆、その人だった。

まだ幼い少女が白いローブに身を包み、まるで神のように崇められている。


「次のもの、前へ」黒いローブの中年が群衆の一人を望月花帆の目の前に誘導した。


「大司祭アモウス様、どうか、どうかこの子を助けて下さい。もう石化病が肩まで達していて。このままだとこの子はもう……」現れたのは、ぐったりとした子供を連れた母親だった。


「まずは供物を」アモウスと呼ばれた黒いローブの男が感情のない声で言う。


ジャラァアア!!

地面に何かが散らばる。

「足りない。こんな金で、聖女の奇跡を受けられると思うな、次」


「アモウス様、聖女様!!どうか、どうかこの子の命を!!!」


「黙れ、貧民が!」アモウスが自分の足に縋りつく母親に蹴りを入れた。

「ああっ!!!」

「よいか、金貨10枚だ!!それ以外は奇跡を受けられないと思え!!いいな!!」


「あの男!!」隣で見ていたマリナが駆けようとする。

「待ってくれマリナさん。ここで動くのはマズイ。まだ分からないことが多すぎる」

「…くっ!」



「さぁ、次のもの前へ」


次の市民は規定の金貨を収めたのか、ふたたび光が教会を包み込む。

最初は眩しくて見られなかったが、光は教会の中央にある大きなステンドガラスから降り注いでいるようだった。


その後、数名の奇跡というものを目の当たりにし、その日の儀式は終了した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


教会から少し離れた大衆居酒屋のような所に入り英美との通信をした。


「なぁ、英美、多分だけど奇跡って望月花帆のもつチート能力と関係しているんだろ?」


『そうね。この世界には元素を伴う魔法、つまり地水火風の魔法は存在するけど、治癒魔法は存在しないみたい。そもそも望月花帆のやってる行為は代償行為のない、確かに完全な奇跡とも呼べるかもしれない』



「ですが英美、一目見ただけですが望月花帆は岡田康男とは違うような気がするんですが」


『私もそれは感じたわ。…おそらくだけど、彼女は教団の傀儡になっている』


「教団って、さっきの黒ローブの奴等か?」


『ええ。だから教団に囲われている望月花帆に接触するのは少し骨が折れるかもね』


「!…大智」マリナが小声で警告した。


ガタン…!!

居酒屋の奥から物騒な武器を持った男たちが歩いてくる。


「てめぇら、見ない顔だな。教団の噂を聞いてこの街に来たのか?」赤いバンダナを付けた男の一人が言った。


「いや、えっと観光か…な?」


ガチャ。男が取り出したのはショットガンのような見た目の銃だった。


「おおぅ…」俺はまるでドラマのワンシーンのように両手を上げた。そもそもこの世界ではこのポースは正しいのだろうか。いや、そんなことを考えている場合ではない。


これはあれだ。絶体絶命という奴だ。



「舐めるな、魔法銃だ。一発で頭が丸焦げになるぞ。お前等、妙に教団に対して詳しいな。事と次第によっちゃあ、付いてきてもらうぞ?」屈強な男は鋭い眼光で俺を睨む。


「いや詳しいというか、来たばっかで」

俺の脳裏に英美の言葉がフラッシュバックした。

ダメージを負わないのは転生人からの攻撃のみ。その異世界に元々住んでいる住人からの攻撃は普通にもらうわ。

この銃、脳天にかまされたら死ぬんじゃなかろうか?


「決めた。とりあえずお前等二人ともついてこい。おい、タツキ、ロン、こいつら縛れ」

バンに呼ばれ、後ろにいた若い男二人が動き出した。


ドコォォォォ!!!

「おぶぅ!?」

俺の目の前にいた男にマリナの右ストレートがクリーンヒットし、男は白目を向きながらテーブルに突っ伏した。


「ボスゥゥゥウウ!!!!!!!!!!!」タツキとロンが慌てふためき、倒れた男に駆け寄る。


「これでいいですかね、大智」マリナはあくまで冷静に言った。

「はは…いいと思うよ」どうして俺の周りは強い女ばかりいるんだ?


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