EMIレポート1
目を開けると、そこは近未来研究所の転送装置「オクルクン」の中だった。
男性、女性スタッフ一同がオクルクン俺を出迎えた。
しかし、スタッフの表情な軒並み、虚をつかれたような顔をしている。
勿論、それは近未来研究所副所長・桜庭英美も例外ではなかった。
「遠野くん、君の後ろにいるのって……」
「ああ、だから転生人の岡田康男で……」
「違う!さらにその後ろぉ!!」英美が珍しく声を荒げた。
「は?」俺が後ろを向くとそこには黒の鎧を着た凛々しい美少女が立っていた。
「……マリナさん?」
「一か八か、光の穴を通ってみたらここに繋がりました。岡田康男の処遇、最後まで見届けさせてもらいます」金髪の黒騎士マリナ・スティングレイは俺が通った転送装置を使い、同じように地球に転送されてきた。
「マリナさん、マジすか!?」開いた口が塞がらないとはこのことだ。異世界の住人が地球にいるってことが果たして許されるのだろうか?俺は恐る恐る英美の顔色を窺った。
「ま、来ちゃったものは仕方ないわね。マリナ、私は未来研究所副所長でイッカンの責任者・桜庭英美。よろしく」
英美はマリナに手を差し伸べた。
「よろしくお願いします。ミス・サクラバ」
マリナも一瞬戸惑ったようだったが、握手をした。
「英美でいいわよ。岡田康男のことは心配しないで、法務省に知り合いがいるの。異世界の管理法案に関してはここに一任されてる。奴には必ず厳罰を下すから」
「ありがとう英美。その言葉を信じます」
以外だ。鬼の形相で激怒するかと思ったのに。意外と気も合ってるのかもしれない。
「全スタッフ、この件に関してはしばらくオフレコで!文科省には頃合いを見て報告します!以上、作業に戻って!」
鶴の一声でスタッフたちも持ち場に戻った。相変わらずのリーダーシップだ。
「なぁ、マリナさんの件、本当にどうすんだよ?」俺は英美に聞いた。
「どうもしないわ。しばらくはこの研究所内の施設で寝泊まりしてもらえればいいし、実際問題、遠野くんだけじゃ戦力不足だったしね、ボディガードにはピッタリじゃない。…あと実験材料が増えたのもラッキーね」
「後半は聞かなかったことにしよう」
「遠野くん、次もよろしく。つくば市の一角にマンション借りておいたから、しばらくはそこから通いなさいよ」そう言うと、カツカツとヒールの音を鳴らし、仕事に戻って行った。
「おーい、まだ続けるなんて言ってないぞ」
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近未来研究所・地下12階
無機質な通路にはヒールの足音しかしない。
通路の先の扉には警備の男が一人立っている。近未来研究所副所長・桜庭英美が近づくと警備員が一礼をした。
電子ロックされた扉を暗証番号と指紋認証で解除した。
扉を開けると、広い部屋の中央に手と足を椅子に拘束された岡田康男が座っていた。
「201番、昨日はよく眠れたかしら?」英美は感情のない声で問いかける。
「ぶふぅ!こんなことをして許されると思っているのかよ、あんた!」岡田は興奮した様子で話す。
「死なない程度の電圧から始めようか」英美は手に持ったリモコンを操作した。
「ぎぎぎぎいぎぎぎいぎぎぎいぎやぁぁぁっぁぁっぁ!!!!!!!!!!!!」
椅子から電流が流れ、岡田の身体が小刻みに動く。
数秒で電流は止められた。
「201番、お前は私の質問だけに答えればいい。分からない答えは分からないと答えろ。無駄口を叩けばまた電気を流す」
「すすすす………すみませんでした」
やはり脆い、と英美は思った。
「一つ目。自殺する直前、お前は何を考えていた?」
「……こ…この世界がすべて憎いと…思っていました。こんな世界、なくなってしまえばいいと思って死にました……」
「二つ目。そう願って死んだあと、お前はすぐあの異世界に飛ばされたか?」
「わ…分からない。その辺の記憶がないんだ」
「三つ目の質問。お前を転生させたのは誰だ?」
「は?…それはどういう…?」
ピッ。
「ぎ……ひぎゃぁああああああああああああああ!!!!!!!」
「誰だと聞いている」
「…か…神で……す。間違いなく、死んだとき神が僕の前に座っていました。…勘弁して…」
「その神は、どんな人物だった?」英美の目はただ冷酷に岡田を見続けている
「神は、神です、人の形をした。ただ後光が差していて顔は見えなかった…。神は言いました。後悔はないかと?もう一度、人生をやり直さないか?と」
「そうか、分かった。独房に戻しておけ、今日は以上だ」
英美はそういうと扉に戻って行った。
「待って、待ってくれ!!いつまであんなところに閉じ込められるんだ!あんなの人の住む部屋じゃない、嫌だ!助けて、たす…」
バタン。