十一.
「――ねえ、フラン。あの局長さまは、聞いていたほど、冷たくも高飛車な方でもないんじゃなくて?」
帰りしなに親友がそんなことを言いだしたので、フランジーヌは目をみはった。
「…まあ、セシリア。あなただまされているのよ。普段の彼はもっと神経質だし、不機嫌で怒りっぽいわ。今日は場に合わせて、なんとなくああやって、和やかな感じにされていただけよ」
「あら、そうなの。でも、とても容姿の麗しくて、珍しいほど人目を惹く紳士でいらっしゃるわね。ああいう方を見たのは久しぶり。最近はどこかなよなよして頼りなげな紳士も多いけれど、彼には力強さと男ぶりがあるわ」
セシリアは彼女なりの感想をのべた。
「惜しいことだわ。もっと早くノグワースに戻っていらっしゃったら、社交界の花形になられていたに違いないのに。いいえ、今からでもきっとそうなられるわよ。ミスター・ログリースもこれから社交界に段々と顔をお見せになって、瞬く間に広い輪をつくられるはずよ。彼と知り合っておいて損はなかったと思うわ、フラン」
フランジーヌはげんなりした。
「また人付き合いの損得で、知り合いをつくれって言うの?私はただ自分の好きな人とだけ付き合うわ。あこがれの輪の中に入るために、我慢ならないほどそりの合わない人と付き合うのが、社交だって言うの?」
「そうよ」
セシリアはあっさり言い切った。
「そういうものよ。――ねえ、ミスター・リチャード・フレイマンとは、あまり話したことがなかったけれど、あの方は話しやすい方ね」
「それは同意するわ。今日初めてあなたに同意できたわ」
フランジーヌがようやくうなずくと、
「でも、少し親しみやす過ぎていらっしゃるわね。人付き合いがお上手で、女性慣れもしていらっしゃる感じよ。…軽くお付き合いする分にはいいけれど、あまり深く仲良くはなれないたちの人かもしれないわ。フランにはちょっとふさわしくないわね」
「……だから、どーしてそういう話になっているのよ?」
「あら、当然でしょう。身近なところにいる紳士と親しくなれないでいて、淑女であるかいがあるのかしら。ううん、むしろ、フランをあの局のみなさまが誰もお相手してくださらないなんてことがあったとしたら、それは理不尽よ。そんな不条理許せないわ。私の可愛いフランを放っておくだなんて」
もはや親友の心の内が分からないフランジーヌは、ため息をついた。
「いいの。私は仕事一筋で。だって、それが一番楽しいんだから」
「残念だわぁ」
セシリアは頬に手を添えて、可愛らしくため息を吐いた。
「――こうなると、ミスター・ライオネルに期待するしかなさそうね」
「……………」
友人の一徹した態度に、もはや言葉もないフランジーヌである。