12.忠告【side篠宮春乃】
「今度桜井さん連れてきますね!失礼しました!」
廊下からそんな千夏の声が聞こえてふふっと笑ってしまう。
桜井さん。か……なぜ千夏は桜井さんを推すのだろう。私は基本、常に千夏と一緒にいるけれど話している所なんて見たことない。それなのに知っていて生徒会に推す…これはやっぱりあれか。
「春乃、話ってなんだ?」
私のお兄ちゃんこと、会長が聞いてくる。
「話っていうほど長くないわ。少し忠告をね。」
「忠告?」
「ええ。1つは桜井愛に気をつけること。もう1つは千夏に関わり過ぎないで。」
「桜井愛って、さっき橋田さんが言っていた子のこと?理由は?」
副会長が眉間にしわを寄せて尋ねてくる。綺麗な顔がもったいないわね。
「そうよ。理由は言えない。もう少し私に信用されるようになれば教えるわ。」
「えっ……。」
情けない声を出したのは副会長ではなく会長だ。
「お兄ちゃんのことは別に信用していないというわけではないの。そうね……お兄ちゃんには時期をみて話すわ。」
信用していない訳ではない。ただ、お兄ちゃんは思い込みが激しすぎる。今話してしまえば極端に千夏を避けるだろう。それはだめだ。
「忠告はしたわ。後はあなた達次第。……失礼しました。」
そう言って生徒会室から廊下にでる。上手くいけばいいけど。
「お疲れ。」
「……まさ兄。聞いてたの?」
ちょうど生徒会室の外にいたまさ兄はしーっと言って廊下の向こう側を指すジェスチャーをした。
ああ、確かにここで話したらまずいわね。大人しくまさ兄のジェスチャーにしたがって移動する。
とりあえず、適当な空き教室に入った。
「千夏ちゃんと話してみたけど、ほんまにあの子やったわ。」
「だから言ったのに。確認するために送ったの?」
「うん。」
そう言ってヘラヘラと笑うまさ兄……いや、ここでは会計の宮本悠仁か。まさ兄は私の兄だった人だ。
私には前世の記憶がある。前世の私の名前は栞。まさ兄はその栞の兄なのだ。どういうわけか、兄妹揃って転生してしまった。今度は他人として。
そして、前世の栞の友達もこの世界に転生していた。それが千夏だ。
「栞、そのまさ兄って呼び方やめてもらわないと……さすがにあの子が気がつくんちゃう?」
「じゃあ宮本先輩?宮本先輩もその呼び方変えてよね。」
「はいはい。じゃあ春乃ちゃんな。」
「え、ちゃん付けとかきもい。」
「我慢せえ。ところで、なんで忠告なんかしたん?」
「千夏を守るために決まってるじゃない。」
ゲーム内での「背後の千夏ちゃん」には1つだけ死亡ルートがある。
そのルートに入る条件は千夏が攻略対象のキャラ全員と一定以上の好感度に達すること。友達以上恋人未満ぐらいの好感度ね。
そして攻略対象達全員に一定以上の好感度があると、ある日千夏は死ぬ。そして、悲しみにくれている攻略対象達に主人公がいろいろな方法で慰め、逆ハーレムへとなる。これがこのルートのハッピーエンドだ。
私はこのルートがあまり好きではない。だって、人の幸せを横から奪うようなものでしょ?
「千夏ちゃんを守るんやったら、本人に教えてあげた方がいいんちゃう?千夏ちゃんが死ぬというルート。そのルートのこと千夏ちゃんは知らんのやろ?」
「だめよ!知ったら気にして人との関わりをやめるかもしれない。今度こそあの子には生きて幸せになってほしいの!」
だって私のせいで千夏は、まさ兄は死んだのだもの。私があの時イベントに誘わなければ、まさ兄に車で送ってもらえるよう頼まなければ死ぬことはなかった。
その後悔がずっと胸のうちにあって、転生してから記憶が戻ったときは毎日泣いた。なんで、どうして……それからはまるで人形のように感情が抜け落ちて生きていた。
そんなある日、保健室に千夏が運ばれてきた。寝言で「栞」と呼んでうなされているのを見た時まさか、と思った。
私の予感は的中し、千夏は転生したあの子だった。それがわかると、私は決意を固めた。今度こそ何があっても生きて幸せにする、と。
「……わかった。でも、あんまり1人で考え込まんようにな?いつでもいいから俺を頼ること。」
ドヤ顔で自分を指さすまさ兄をみて思わず笑う。ああ、この兄がいてよかったなと思いながら。
「うん。……ありがと。」
少し短かったかな?
はい、春乃と会計は前世で兄妹で千夏の味方です。
主人公側のことはまたいつか書きます。