11.帰り道
また遅くなってしまい、すみません!
「よし、これで終わり!よっしゃ今日はゆっくり寝れるわ!」
会計の宮本先輩が書類のチェックをして、ようやく本日の仕事は終わったらしい。
「ごめんね、ホッチキス止め以外の仕事も手伝わせちゃって。」
副会長の藤堂先輩がそう謝ってくる。結局、私と春乃はホッチキス止めだけでなく他の仕事も手伝った。とても大変そうだったからつい。
「いえ、勝手にやっただけですし……。あの、生徒会って3人だけなんですか?」
前世から気になっていたことを質問する。だって生徒会3人だけっておかしくないかな?ゲーム内では3人の描写しかなかったから、ゲームに関わりがないだけで実際はもっと役員いると思ってたんだけど……。今回、仕事を手伝ってみて思ったが、仕事の量多いだろ!生徒にここまでやらせるか?って仕事まであって驚いた。こんなにあれば3人じゃ足りないだろう。
「うーん、今は3人だね。」
困ったような顔をして副会長が答える。ん?何かあったのかな?
「前はもう少しいたんですか?」
「おったで。2人。けどまぁ、いろいろあってん。やっぱ人手不足やからもう少し人欲しいなぁ。」
会計がチラチラと会長を見ながら話す。なるほど、会長と何かあって辞めたのね。
そうだ、いい事思いついた!
「あの、おすすめの子がいるんですが!」
そう言って、私は乙女ゲームの主人公である桜井さんを推してみた。だって、本当は生徒会の手伝いは桜井さんの役目だった。けど、私のせいで話が少し変わっちゃってるし軌道修正しないと攻略対象のキャラクターとくっつかなくなる可能性があるからね。
私が知っている攻略対象のキャラクターとくっついてもらわないと、私が死ぬルートに入る可能性が高くなってしまう。たぶん。
「とにかく、その子はとってもいい子なんできっと生徒会を手伝ってくれますよ!」
私の死ぬルートを回避できるかもしれないし、生徒会も人手が足りるし、一石二鳥!
いけない、名案すぎて少し興奮してしまった。
「何騒いでるんだ?とっくに下校時間は過ぎたぞ」
「先生!」
生徒会室にやってきたのは私に仕事を押し付けた高田先生だった。
「橋田に篠宮妹?どうしてここに」
「へぇ、よくそんな白々しく言えますね?まぁお話は後日ゆっくりとしましょう。」
「…っ藤堂!」
副会長が、怒ってらっしゃる…!口は笑っているが目は笑っていない。後ろから何やら黒いオーラがでている。ひぃ、怖い。
先生がビクッと震える。同じように会長もビクッと反応してるけど、大丈夫なの?この会長。
「千夏、悪いけど先に帰っててもらえる?ちょっとお兄ちゃんと副会長と……あと、先生に話があるから。」
「そうなの?別に私は急ぎの用もないし待っとくよー。」
「えっと、気持ちは嬉しいけど……あ、部屋に荷物が届くはずだから先に帰って受け取ってくらない?」
少し困ってから、申し訳なさそうに春乃が言う。珍しい、春乃がこんな顔をするとは。
「わかった。あんまり遅くならない用にね!」
少し話す内容が気になったがここは引こう。なんかあまり聞かるたくなさそうだし。
「千夏ちゃん、女子寮まで送るわ。」
「そうね、送ってもらいなさい。千夏。」
会計がそう言い、春乃がそれにのる。うぇ、断れなさそう。女子寮までは歩いて15分ほどある。が、男子寮はそこから少し離れているので申し訳ない。
「あー!忘れてた!俺、早く家に帰らんとあかん用事あったんやった!千夏ちゃん、はよ帰ろ!」
私がやっぱり断ろうとした時、会計が声をあげた。
「え、あ、うわっ!?」
私の返事を待たずに会計に引っ張られていく。やけに力が強くて抵抗できないので諦めた。だんだん遠ざかって行く生徒会室に今度桜井さん連れてきますね!失礼しました!と叫ぶ。うう、聞こえていたらいいけど。
「あのー、宮本先輩?いつまで引っ張っていくつもりですか。そろそろ腕が痛い……。」
私が声をかけるとはっとしたように掴んでいた私の腕を離した。
「ごめんごめん!」
「いえ、大丈夫です。」
寮までの道を並んで歩く。下校時間を過ぎているからか周りに人がいない。しばらく黙って歩いていたが……視線を感じる。
「あの、」
「ん?」
視線の主。まぁ会計しかいないのだが。その会計に、何でそんなに見つめてくるのか聞こうと思って会計の顔を見上げた。そして、私は息を呑む。会計は……宮本先輩は優しい目で私を見ていたから。けれども今にも泣きそうな、嬉しそうな、そんな表情。
えっと、私何かしたかな?イケメンのそんな表情を見てしまうと、何だか見てはいけないものを見てしまったような気になる。……う、顔が熱い。
しばらく無言で見つめ合っていた。
「……千夏ちゃん、桜井って子と仲いいん?」
「うえっ!?あ、はい!いや、仲良くとかでは無いんですけど……まぁ、いろいろ。」
あははと笑ってごまかす。あっぶな!そういえば、桜井さんと全く関わりはないんだった。
「そうか。お、着いたで。……はい、これは手伝ってくれたお礼。」
そう言って渡されたのは飴玉。こ、これは前世で私が一番好きだった飴!!!やったね!!!早速食べる。美味しいっ!
「ありがとうございます!」
久しぶりに食べた大好きなプリン味の飴を味わう。ああ、この飴前世でしか売ってないと思ってたけどあったんだ!今度探しに行かないと!次は抹茶ラテ味とか、ストロベリーミルク味が食べたいな。
「……変わらんなぁ。」
「え?」
溜息とともにぼそりと宮本先輩が何か言ったが、あまりにも声が小さくて千夏には聞こえなかった。
「今日はありがとうな。」
ぽんぽん、と頭を撫でられ宮本先輩は去っていった。
「……宮本先輩ってあんなキャラだったっけ?」
そんな宮本先輩の態度に残された千夏には、少し疑問が残ったのだった。




