第1話 何時もの日常
私の名前は『天野 月』ピカピカの高校一年生。
私の好きな物は猫。好きな人はお兄ちゃん。ちなみに血が繋がってないとか、義理の兄とかじゃなく、正真正銘の血が繋がったお兄ちゃんが大好きなのです。
ブラコン?
そうです。私は両親・親友共に認めるブラコンです。ブラコンですが何か?です。ブラコン上等!です。私にとってブラコンは最大の褒め言葉です。お兄ちゃんLOVEです。
そしてただ今、学校から一つ上の大好きな兄『天野 太陽』と一緒に帰っています。
「本当に入学して来るとは思わなかった……」
「いぇ~い!この私の辞書に不可能は無いのです。私はやれば出来る子なのです」
大好きな兄を追って、超有名の高校を受けて見事合格した私。両親からは「合格はすごいけど、素直におめでとうが言えないのはなぜ?」と言われ、親友からは「月のお兄さんに同情するわ」と呆れられ、担任からは「お前の成績から無理だと思っていたが、よくD判定から合格にもってった。先生うれしいよ」と感動された。
確かにあの時は大変だった。いつもは適当に聞いているだけの授業を真面目に聞き、自分のお小遣いの殆どを参考書につぎ込んだっけ。
でもそのお蔭で合格できたし、大好きな兄に勉強を教えて貰えたし、息抜きで買い物(私はデート)にも兄と行けたので、私は後悔していない。
欲しい服やアクセサリー・小物などが買えなかったけど後悔はしていない。
あれがあったから今の私がいて、この状況があるのだから。
「まぁ、入学おめでとう。これからもよろしくな後輩」
「ありがとうございます。太陽先輩」
大好きな兄に頭を撫でられて、思わず緩んでしまう顔を何とか堪えて、兄に会心の笑顔を向ける。その笑顔を見て兄は「なんだ、奢って欲しいのか?」と苦笑しながら笑った。
気が付くと私達の前には移動販売のクレープ屋が在り、美味しそうな匂いを私の鼻まで届けていた。
私の会心の笑顔したのはそう言う意味じゃないの!確かにいい匂いだし、甘いのは大好きだし、今月のお小遣いピンチだからうれしいけど……、そうじゃないの!
だけど折角の奢りなので私も「クレープ食べたい」と言ってしまう私は現金なのだろうか?
「おっちゃん、おっちゃんのおすすめ1つと「スペシャルデラックス1つ!」……一番高いのを頼みやがって」
「だっておいしんだもん」
『スペシャルデラックス』とはこのクレープ屋の一押しの高級クレープ。お値段は何と1000円。これ一つで他のクレープが2つも買えるが値段にあった分だけすごくおいしいのだ。自分へのご褒美として買うお客さん多くちょっとしたセレブ感が味わえる一品。
私も食べた事はまだ1回だけしかないのです。あの初めて食べた時の喜びは今でも忘れませんよ。ちなみに最初の時も兄の奢りですけどね。だって、あの時はまだ中学生でそのお小遣いで1000円は大きすぎるのです。
ちなみに兄が頼んだおすすめは商品名『お兄さんのおすすめ(はーと)』。と書かれていれ自称25歳のお兄さん(推定年齢35歳前後のおじさん)が気分次第でクレープの中身が変わるという、おすすめじゃなく単なる運試しの商品だ。まぁ、おいしいし安いので問題は無いけど、お店としていかがなものかと思う。ちなみにお値段はなんと250円!安いね。
兄のお財布から野口さんが一人と数枚の硬貨が居なくなるのを見ながら注文したクレープができるのを待っていた。
◇ ◇ ◇
「おっいし~♪」
やっぱりこのクレープはおいしい。高いお金払って(兄が)買っただけはあるね。
兄のクレープはと言うと―――……
「真っ赤だね……」
「あぁ、真っ赤だな……」
そう真っ赤なのだ。もうクレープの生地から具のアイス・シロップまでもが全部が真っ赤なのだ。
「大丈夫なのそれ?」
「原材料は梅干しだって言ってたけど……」
梅干しだけの赤さじゃない気がするのは私だけじゃないよね。兄も思っていたようで「この赤さは梅干しだけでなるものなのか?」と首を傾げている。
クレープ屋のおじさん、気分次第にも程があるんじゃないの?コレって何かの罰ゲームだよね?ってか、新作メニューにしようかとか言ってたけど、試食とかしたのかな?でも味は保障するって言ってたし……、大丈夫だよね。
「見てても始まらないよな。それじゃまず一口……」
「逝ってらっしゃい」
兄が恐る恐る真っ赤なクレープ?を一口食べる。私はそんな兄の無事を高級クレープを食べながら祈る事しかできない。
「あっ、意外にいけるぞコレ。見た目はアレだけど、ちょうど良い酸味がクレープの甘さを引き立てて、後味もさっぱりしてる。今回は当たりだ、おっちゃんの新作は大半が外れだからな、今回はよかった」
「前回の新作は『DHAタップリ健康クレープ』だったけ?」
「あれはクレープじゃない、ただの殺戮兵器だ。一口食べるだけで、口の中に広がる青魚特有のあの味……、今でもはっきりと覚えてるぜ」
『DHAタップリ健康クレープ』とは一昔前に話題になったDHAをデザートで取ろうと言う、おやじさんの思い付きで作成された化学兵器。一口食べると口の中に広がる青魚特有の味が口いっぱいに広がり後味も悪い、そして何よりクレープの甘さと化学反応を起こすと……、良い所が全くないクレープが完成し、即お蔵入りとなった幻のクレープだ。
「月も食べてみな、マジで美味いから。そして俺にもそのクレープを一口くれ」
「まぁ、兄さんの奢りだからね~、いいよ~」
わかる人にはわかる、これは大好きなお兄ちゃんとの間接キスになるのだとそして、お互いの食べ物を交換する=恋人みたい。と言う事は、周りの人達からは私達は恋人に見えているかもしれない!そうに違いない!!
そんな邪な考えをしている私を気にせず、兄は私の口に自分のクレープを運び、私のクレープを自分の口に運び、食べた。
これは恋人っぽい。
「っ!?すっぱいんですけど!!」
「甘すぎだって!!」
お互いのクレープを食べた感想です。
そりゃそうでしょう、私は普通に甘いクレープを、兄はすっぱいクレープを、その結果は、お互いの味がより強調される訳だからそうなりますよね。
間接キスの味は、『梅干し味でした。』