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ファーストコンタクト三

「ここが、攻撃魔法を特訓する魔法実地室です」


レオンスが開けた教室は、前世の高校の体育館くらいの広さがあった。

今まで触れることはなかったが、この世界には魔法が存在する。

火・水・風・土・光・闇の属性をもった攻撃魔法と、治癒魔法がある。

エリューゼも攻撃魔法はからっきしだが、治癒魔法に関してはこの国髄一といってもいいほどの使い手だ。

魔法の使用には呪文も杖も必要なく、自らが強く思い浮かべて手を翳したら発動する。

そのため、幼少期は無意識に魔法を使ってしまい魔法の誤作動が多発して、両親は苦労するのがこの世界の常だ。

エリューゼの場合、極々幼いころから自我に目覚めていたため魔力のコントロールができたことと、攻撃魔法はまったくといっていいほど使えないので、まったく周りに被害は出さなかった。

いいのか、悪いのか。

ライオットの好みが守ってあげたい女の子なので戦闘能力は必要ないが、正直なところエリューゼは戦うヒロインに憧れていた。

実はコンナイのヒロインは戦うヒロインだったりする。

個別ルートの後半では、自分で馬に跨り雄々しく敵を狩る姿が描かれていた。

まあ、そんな姿がライオットがヒロインに惹かれなかった原因であると考えられるのだが。

自分の目的を達成するためには、なるわけにはいかないと分かっていつつも、やはり戦う姿は憧れる。

女心にかっこいいと思っていたのだ。

しかし、自分が転生してみたところ、ゲームヒロインとは違い病弱設定ついてるし、攻撃魔法使えないしで、なんか詐欺にあった気分だ。

ライオットを攻略するにはこの方が都合がいいが。

もしかしたら、この設定は神様がライオットを攻略するために授けてくれたものかもしれない。

ライオットは物腰柔らかだが冷静なものの見方も出来る人なので、人並みに戦闘能力がある時点で自分が守らなくてもいいと判断するかもしれない。

ああ、戦闘に関して本当に無能でよかった。

それに加えて致命的な方向音痴は、彼の保護対象に入ると先ほど証明されたばかりだ。

面倒な設定だが、都合良く考えれば、実に都合がいい。

ライオットに振られて(語弊がある言い方だが)、傷心のエリューゼの心に希望が灯った。


「エリューゼ様? ああ、こんなところを案内してもつまらないですよね」


黙ったままのエリューゼの態度を勘違いしたレオンスが肩を落としながら、扉を閉める。

剣術馬鹿のレオンスではあるが、魔法の重要性も理解しているため、敬愛する(!)皇女の関心を得られなかったことが残念なのだ。


「ああ! そんなことないですよ! 国を守るために魔法を学ぶことはとても重要な事ですわ。そのために作られた施設はとても興味あります。入ってもいいですか?」

「は、はい!」


レオンスの目がキラキラと輝いている。

一睨みで虎さえ硬直させる強面だが、こういった表情をしている姿を見ているとなんとも可愛らしい。


(ちょっと待った。私、好感度上げる選択肢を選んだ!? まずったぁぁ。でもなぁ、攻撃魔法に興味あるしなー。攻撃魔法かっこいいもんなー。ま、いっか)


エリューゼは過ぎた事は気にしない性格だ。

その性格が災いして、思わぬ方向に運命は流れて行きそうだが・・・それはまた別の機会に話すことになるだろう。


「このボールは何に使うのですか?」


手のひら大のボールが無数に籠に入っている。

その一つ、青色のボールを手にとってエリューゼはレオンスに尋ねた。


「これはですね、こうやって・・・」


レオンスは風魔法を使い、ボールを浮かせて見せる。

そのまま、エリューゼと対面の方向に風を使って強く叩きつけた。


「あそこに生徒を立たせて、そのボール全部を今以上の強さで彼らの叩きつけます」

「えっ!?」

「彼らは魔法でその攻撃を阻止するのです。一見乱暴に見えますが、動体視力と反射神経、攻撃力を鍛えられるいいプログラムなのですよ」

「そうなのですか・・・」


乱暴にしか思えない。

とは、さすが美少女の仮面をかぶった変態、億尾にもださなかった。


「他にも・・・」

ピーンポーンパーンポーン


レオンスが他の道具を説明しようとすると、連絡を知らせるチャイムが鳴った。


「レオンス・ブルツェンスカ教官。至急、職員室まで来てください。繰り返します。・・・」


レオンスを呼ぶ、放送だったようだ。


「レオンス先生、放送が鳴っています」

「そうですね、申し訳ありません。私は行かなくてはいけません。エリューゼ様はこの教室にいるか・・・よろしければ、屋上へ登っていてください。この教室を右にでた階段をのぼると屋上へ繋がっています。屋上から見渡す風景は絶景ですよ」

(そこで、好感度を上げるつもりか?)


レオンスの校内出現ポイントは屋上が多かった。

屋上イコールレオンスのイベントなのである。


「それでは、失礼します」


頭を下げ、レオンスは教室を出て行く。

先ほどは「好感度をあげるつもりか」などと穿った見方をしてしまったが、そんなことはないだろう。

今日は初日だ。

皆が皆、自分を攻略してくるわけがない。

それに、この教室にいるわけにはいかない理由があった。

この教室はキャラナンバー三番のファーストイベント会場である。

ヒロインが手に取った魔法具が暴発してヒロインに襲いかかって来るところ、その攻略キャラが颯爽と助けにくるイベントだ。

問題の魔法具に触れなければいいのかもしれないが、それがどれなのかまったくわからないし、ここにいるだけでそのキャラが入ってきてしまうかも知れない。

鉢合わせは御免だ。

エリューゼはレオンスに言われた通り、屋上へ向かう事にした。


(えーと、教室をでて、右の階段・・・)


いくら方向音痴とはいえ、左右を間違う馬鹿ではない。

エリューゼは正確に、言われた通りの階段へと向かっていった。


(あった)


階段はすぐに見つかり、エリューゼは意気揚々と階段を上っていった。

ゲーム内でも屋上の景色は絶景だと言われている。

レオンスとイベントが発生してしまう為屋上に来る事はないだろうと考えていたのだが、思わぬ機会に屋上を訪れる機会が訪れた。

興味がわいて、足取りが軽くなるというものだ。

そう、軽くなっていた。

一番上の段差を踏み外してしまうほどに。


(うえぇぇぇぇえええええ!? 嘘!? ここで私の人生終了!? まだライオット様とイチャラブしてないのにぃぃぃいい)


人間死を前にすると、果たせなかった後悔が浮かんでくるものだ。

彼女の後悔とは、やはりライオットの事だった。


(神さま、仏様、ライオット様! どうか誰でもいいので助けてください! あ、やっぱり助けてもらうならライオット様がいいなぁ)


死に瀕しているのに、呑気な女である。

一度死んだことがあるためか、こと死に関して多少寛容になっているのかもしれない。


(くるっ!)

とんっ


痛みを覚悟して強く目をつぶったエリューゼ。

しかし、そんなに強い刺激はやってこなかった。

寧ろ、温かく優しい温もりに包まれている。


「大丈夫か」

「え?」 


聞こえるはずのない声に、驚いて目が開く。

目の前には白銀の髪に、深い海の瞳。

キャラナンバー三番、オルフェウス・ビショフがいた。

エリューゼは、オルフェウスにお姫様だっこされた状態で助けられていた。


(にゃぁぁぁああ。初お姫様だっこが奪われたぁぁぁああ。初めてはライオット様にやってもらうために兄にもやらせなかったのにぃぃぃい)


怒りで頬が青ざめる。

しかし、彼女の美少女面は都合のいいように周りを誤解させた。

恰も恐怖で、凍りついているかのように。


「おい、大丈夫か」

「あ、は、はい。助けていただいてありがとうございました」


怒りの硬直から溶けたエリューゼは、オルフェウスに感謝を述べた。

人間、危険なところ助けていただいたら感謝するものである。

いくら攻略キャラだろうと邪険には扱えない。

言ってしまえば、命の恩人だ。


「怪我は?」

「え、ああ、はい。大丈夫です、どこもいたくありません」

「本当か?」

「はい」


彼は暫く考えると、静かに彼女を地面に下ろした。


「改めてお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」

「気にするな。本当に怪我はないな」


このオルフェウスという男、無口なくせに過保護というなんともおいしいキャラ設定を持っている。

田中博子はライオットの次、一億マイルくらい離れて彼が好きだった。


「大丈夫です。あの」

(聞きたくないけどなー)

「お名前をお伺いしてもよろしいですか」

「オルフェウス・ビショフ」

「ビショフ? ビショフと言えば、子爵の位の・・・あの、身内にベンゼルという方はいらっしゃいますか?」

「祖父だ」

「まぁ!」

(知ってたけどねー)


ここで語られているベンゼルは、庭師のベンゼルのことである。

息子に譲ったとはいえ、元は子爵の位にいた男がなぜ庭師をやっているか。

それは単に、ベンゼルが庭いじりが趣味で、皇宮の薔薇園に惚れ込んでしまったからだ。

皇帝に頼み込んで、庭師にしてもらったという過去がある。


「祖父から、色々話は聞いている」

「何をですか?」

「・・・」

(え! どうしてそこで黙るの!? 何か悪いことでも聞いた!?)


うーん、と考えてみたものの、無口二人がどんな会話をするかまったく想像がつかない。

まあいいか、とエリューゼは流した。


「ビショフ様、今度お礼をさせていただきますね」

「いい」

「ですが、私の気が済みません」

(好感度を上げたくはないけど、命の恩人になにもしないというのは私のポリシーに反する)


変態ではあるが、前世の男気はわすれていないエリューゼである。


「なら・・・名を」

「え?」

「名を呼んでくれ」

(どーしてお前も、名前呼びを強要する! 補正か! 補正が働いてるのか!?)

「ですが、そんなことで・・・」

「それでいい」

(えーい、やぶれかぶれだ)

「オルフェウス様」

「違う」

「え?」

「オルフェ」

「・・・オルフェ様?」

「オルフェ」

「・・・・・・オルフェ殿?」

「オルフェ」

「・・・・・・・・・オルフェさん?」

「オルフェ」

「・・・・・・・・・・・・オルフェくん?」

「オルフェ」

「・・・・・・・・・・・・・・・オルフェちゃん?」

「オルフェ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・オルフェ」

「それでいい」


エリューゼは戦いに敗れた敗残兵だ。

負けたからには、さっさと撤退したい。


「では、また今度お会いしましょう」

「ああ、また。必ず」

(言質とられた!?)


こうして二人の最初のイベントは、エリューゼの圧倒的敗北で幕を閉じた。

ライオットを出せなかったorz

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