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ファーストコンタクト二

「これから一年、よろしくお願いしますね」


にこりと、天使の頬笑みを浮かべて群がる学生たちに挨拶を述べたエリューゼ。

無事に鼻血を出すこともなく、ライオットの姿を視線の端で確認しながら、完璧に終わらせた。

彼は微笑んで、こちらをみつめている。

それだけでエリューゼは無限に力が湧きあがるように感じた。

学生たちは、これから一年間この美少女とお近づきになれるのかと興奮することしきりだ。

そんなこんなで無事に終わった御披露目会であったが、エリューゼの苦難はこのあとに待っていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

兄が仕事で、一足先に皇宮へ戻っていった後のことである。


「エリューゼ様、私はレオンス・ブルツェンスカ申します」


職員室の入り口で、強面の美形はそう名乗った。

茶色の髪は短く切り揃えられており、眼差しは鋭く強い。

見た目だけならまさしく騎士の鏡といっても良さそうな彼は、キャラナンバー二番の攻略キャラだ。

国立騎士養成学校の特別教官をし、さらには近衛騎士団の副団長を勤めている剣豪である。

騎士養成学校の生徒以外でも、騎士の資格を持ってさえいれば皇家の騎士になれる。

兄レイモンドの騎士であるファビアンは、騎士養成学校の教官としていたところレイモンドと出会った、御歳四十五歳のナイスミドルである。

つまり、ルートにはいれば彼もエリューゼの騎士となるのだ。

しかしそんな彼は、内面に大きな問題を抱えていた。

彼は見た目にそぐわず、ヘタレなのだ。

剣を握っているときは、鬼神のごとき働きをするのに、それか以外はさっぱりだ。

とくに恋愛面に関しては、十歳の少年のほうがよっぽど上手くやるだろう。


「ブルツェンスカ様。今年一年間宜しくお願いいたします」

「よろしくお願いします。あ、あの」

「何か?」

「なま、なま、・・・なまっ卵はお好きですか!?」

「生卵?」


疑問符を浮かべつつも、無駄に(二次元の)恋愛歴の長いエリューゼは彼の言いたいことが分かっていた。


(ははーん。名前で呼んで欲しいとかそういうこと言いたいんでしょうね。・・・ん? にしても初めて会ったのに名前呼びを希望するなんて、好感度どうなってんの?)


名前呼びをお互いにしあうようになるのは、ゲーム時間で三ヶ月ほどすぎた段階で起こるイベントだったはずだ。

個別ルートに入ると愛称で呼び合うようになる。

カールフリードリヒは幼馴染兼俺様なので論外だ。


「生卵、好きですよ。うどんに乗せてあるとそれだけで嬉しくなります」


驚いたことに、この世界にもうどんが存在する。

ヒイヅル国という島国の名産品らしいが、ミッドランド皇国では庶民も食べれる一般食として存在している。

皇女なのに庶民と同じものを食べているのかと思われるが、エリューゼはちょこちょこカールフリードリヒに引っ張られ城下へお忍びで遊びに来ていた。

その時に食したのである。

その点については、カールフリードリヒを評価してもいいと、本気で上から目線で思っている。

エリューゼとしては、ヒイヅル国とは日本なのではないかと睨んでいる。

ライオットとの新婚旅行では、是非訪れたい国である。


(着物姿もきれいだよ。ありがとう。そこで、二人の初夜が待ってるのよ―! むふふ。待ってライン、そんな恥ずかしいわ・・・。恥ずかしがることなんかないよエリ、僕に君の全てを見せて・・・。とかいって、ちゅちゅちゅ、ってなっちゃって、やーん!)


彼女の脳内は健在だ。


「あ、そうですね、生卵。美味しいですよね」

「はい」


心なしか肩を落としているレオンス。

ちなみに、お互いを愛称で呼び合う事はこの先ないであろうと思われるので、ゲーム内ではどう呼び合っていたか教えておこう。

レオンスはエリューゼのことを「リュー」と呼び、エリューゼはレオンスのことを何のひねりもなく「レオン」と呼んでいた。

しかし二人がそう呼び合う光景を見ることは難しいだろう。

外野からナイスアシストが入らなければ。


「エリューゼ様。レオンス教官は、エリューゼ様に名で呼んで欲しいと思っているのではありませんか」

「ラ、ライオット様・・・」


丁度通りかかったライオットが、レオンスにとってはナイスアシストを、エリューゼにとっては顔面衝突のパスを出してくれた。

なぜこんなところにいるのかというと、彼が両手に抱えた書類が理由を述べてくれるだろう。


(ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラララライではなく。ライオット様ぁぁぁああ!? なんてことしくさってるの!? もうちょっとでうまく回避できそうだったのに!)


「そ、そうです。エリューゼ様。できれば姓ではなく名で呼んでいただきたく存じます」


アシストで勇気が出たのか、照れながらではあるが満面の笑みでレオンスは言ってくる。

ちなみにライオットも笑顔だ。

あの優しい第一皇女が、こんな精一杯の告白を断るはずがないと信じ切っている。


(うぐぐぐぅぅう。これは、断れない。断ったらライオット様の好感度が下がる気がする。確実に)

「はい・・・。レオンス様とお呼びしますね」

「様などとっ! 私の家は貴族とは言え男爵。エリューゼ様が敬称を付ける必要はありません!」

「ですが、レオンス様はこの学校の教官で・・・」

「関係ありません! エリューゼ様は生徒ではないのですから!」


正論だ。

しかしエリューゼは、呼び捨てによるフラグを立てることはしたくなかった。

苦肉の策で、こういった。


「では、・・・レオンス、先生と、お呼びします」


このとき、ため息をつかなかった自分を、褒めたいと心の底から思っていた。


「はいっ!」

「よかったですね、レオンス教官」

「ライオット! お前のおかげだ。感謝する」


互いの手を握り合っている男達をおいて、エリューゼは泣きたくなっていた。

ライオットはちゃっかり、近くの机に書類を置いている。

どうしてこんなことになったんだ。


「お二人はこんな入口で何をしていらっしゃるんですか?」


ライオットが何気なく声をかける。

それもそうだ。

職員室の入り口で、国の第一皇女と教官が突っ立ったまま話をしているのはどうみてもおかしい。

良く見れば他の教師連中も、二人に注目していた。


「レオンス先生に、この学校を案内していただくところでしたの」

「そうなのですか。ですが・・・」

「どうかしましたか? ライオット様」

(ああ、私今ライオット様と会話してるぅぅぅうう。もう、これだけで幸せぇぇぇえ!)


カールフリードリヒ、レオンスとフラグを折るのに失敗していたエリューゼにとって、この短い会話すら天にも昇る心地である。


「エリューゼ様は、極度の方向音痴でしょう? 案内しても意味があるかどうか・・・」

(この天然ドSぅう。いいよ、いいよ、もっと、もっといじめてぇぇぇえ)

「ライオット、失礼じゃないか!」

「あ、申し訳ありません。昔からの癖で・・・」

「そうですわ、ライオット様。人は日々成長するものなのです。御心配のようでしたら、ライオット様も一緒に参りませんか?」

(よし、これでライオット様とのイベントが起きるはず!)

「そうですね。ご一緒」

「駄目だ、ライオット。お前には仕事を頼んだだろう」

「・・・ああ」


ライオットが同行の意を伝えようとしたところ、レオンスが邪魔をする。

ライオットは机に置いた、膨大な資料に目をやり、ため息をついた。


「心配なのでついていきたかったのですが、仕事があるので、今回は遠慮させていただきますね」

「・・・」

(レ・オ・ン・ス、てめぇえ、私になにか恨みでもあんのかぁあ。あぁん?)

「そう、ですね。お仕事、頑張ってください」


エリューゼは優しげな笑みを浮かべた。

ここで縋ったところで、好感度が上がるどころか下がるだけだ。

ここは引くに限る。

悔しいが。

この上なく、悔しいが。


「では、ライオット。俺達は失礼するよ」

「はい。いってらっしゃいませ」


ライオットのその笑顔が、滂沱の涙を流すエリューゼの心には眩しかった。

兄は邪魔なので、どっかにやりました。

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