動機不充分
「!!!・・・・・それは・・・・・・」
1人が声をあげた。
俺は倒れた時に落としたのであろう眼鏡をかけ直し、その声に導かれるように振り返った。
「・・・・・・・・・・」
体のうちで何かが引いていく音がした。
何故――――…?
前回来たときは小型のナイフだけだったはずだ、それなのに
何故、
目の前には殺傷能力の異常に高いタイプの銃が掲げられているのだろうか・・・・・
「これは僕が起きたときから此処に置いてあったものです。
これ以外には殺傷能力のあるものは僕等自信しかありません。つまり、
これが人の命を奪える、たったひとつの方法であると推測されます。」
少年はただ淡々と言葉を紡ぐ。
「死にたいかたはこれでどうぞ、それ以外の方は端に寄りましょう。固まっていても団結力が強まるだけですから。」
「団結力が強まって何がいけないの?」
その質問には俺が答える。
「ここから出られるのは1人だけなんだ、だから団結力が強まると・・・・・・・・・・
最後の1人が決められなくなるだろ。」
そうだろ?と少年に向かうと少年は同意の意を示す。
「じゃあ死にたくないやつは端に寄れ。それ以外は・・・・・・俺がやってやるよ。」
回りの奴等が腑に落ちないという反応をする。
そのうちの勇気ある数人が口を開いた。
「そんなの、お前に自分を殺してくれと頼んでいるような物じゃないか・・・・」
予想していたその質問には即答する。
「メリットがない。」
「そんなの、お前が生き残れるという充分すぎるメリットがあるじゃないか」
「お前なぁ、バカなのか?
そんなことしてみろ、敵と見なされた俺が総攻撃を受けて終わりだろうが。」
そう言ってやると反論していたやつらはばつが悪そうに目を反らす。
本当なら人間複数よりも弾丸を乱射する奴のほうが圧倒的に有利なのは火を見るより明らかなのだが・・・・・
このわけのわからない場所に連れてこられて冷静さを欠いている彼等はその考えには到底辿り着けまい。
そうわかった上で敵を安心させつつ自らが主導権を握って行く。
これが俺のやり方だ。
そのすべてを誰にも気付かれることなく遂行出来るからこそ、前回の俺は生き残ることが出来たんだ。
絶対・・・・・・・
絶対に今回だって生き残ってやる。
目の前にある銃を取ろうと手を伸ばす。
しかし、目の前にあったはずの銃はいつの間にか誰かの手のなかに収まっていた。
「・・・・・っと待てよ・・・・・・・・・・かしいだろ・・・・・・」
ボソボソと呟く声は次第にハッキリとしたものへと、そして叫びへと変わっていく。
「なんで・・・・・お前ならわかる!1度来たことのあるお前なら!!
でもなんでこいつは・・・・」
そう言いつつ銃口を眼鏡の少年の額に定める。
「何でこいつはこんなに冷静なんだよ」
呻くように吐き出された問いに答えるものは誰もいなかった。
誰もが、同じ疑問を抱いていたから。
何故彼は
一番に“食”の存在に気付いていながら、
あんなにも冷静で居られるのか・・・・・・・・?
銃を構えた少年がゆっくりと引き金を引く。
しかし銃口を向けられている張本人は顔色ひとつ変えることなく
銃を持つその手の先に視線を向け、真っ直ぐに双眼を見据える。
――――――こいつ・・・・・・
少年は引き金をひききることなく、その顔を辛そうに歪める。
見ると
銃を持つ手は震え、狙いは定まらなくなっていた。
額には脂が浮かび、遂には少年から目を逸らしてしまった。
「・・・・・・・え?」
隣にいた少女が呟く。
彼女の疑問を読み取った俺はその答えを紡ぎだした。
「あれは一種の心理作戦だよ。」
不思議そうに目を覗き込んでくる。
「憎悪の目線を送り続けることで銃口を向けているということに強い罪悪感を抱かせるんだ。
結果、発砲を防ぐ事に成功したってところだろう。」
此方を向いたままポカンと口をあける少女の警戒心のなさに多少の心配を抱いたが
それは俺には関係の無いことだ、とその思考を切断し、銃を撃つか撃たないかのやり取りをしていた2人へと視線を戻す。
って・・・・あいつまだ銃構えてんのかよ!
罪悪感が膨らみすぎるのは困る。もしも錯乱してしまったら手がつけられなくなるからだ。
焦った俺は咄嗟に床に手を付き、その反動に任せて足を振り上げた。
少年の持つ銃が地面と垂直に飛び、やがて重力に逆らえなくなり落ちてきたところを片手で受け止める。
この一連の動作を冷静にやってのけつつ心中では叫びをあげる。
――しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
こんな初盤で自分の力量を晒すつもりなどなかったはずだ。
にも拘らず
俺は今何をした?
かなり神った動きをしなかったか!?
くっそー失敗したぁぁぁ!!!
何故あんなことをしてしまったのかは既に分かっていた。
でも、絶対に認めるわけにはいかないから・・・・。
「やめとけ。お前には撃てないよ」
気持ちを切り替えるように呟いた。
少年は銃を無理矢理払われた手が痺れるのか
右手を擦りながら否定の言葉を吐こうと口を開くが直ぐにまた閉じてしまう。
俺の言ったことが事実であることが理解出来てしまったのだろう。
彼はそのまま力なく崩れ落ちた。どうやら今の出来事によってパニックを起こしているらしい。
俺達はただ、彼が落ち着くまで黙って待つことにした。
暫く後、
俺達は各々端により、自殺願望者達は部屋の中央で自らの頭部に穴を開けてゆくという光景が繰り広げられることとなった。