情報漏洩
入り組んだ廊下を迷わず進み、遂に辿り着いた1つの扉。
扉を開ける前に心を落ち着けようと深呼吸をしていると隣の少年が迷い無くその扉を蹴破った。
腹を括って中にはいると1人のおっさんが煙草を燻らせている。酷い臭いだ。
「よぅ。」
右手を挙げてヒラヒラと振る。
何だか・・・・・・なんだ・・・そう、
かるい。
「遅かったね〜おっさん待ちくたびれちゃったよ〜。」
「かるい!」
あまりの衝撃に思っていたことが口から溢れ落ちていた。
するとおっさんからは態と作ったかるい口調のままとても重い言葉が返ってきた。
「軽くなきゃやってらんねぇよこんな仕事。」
部屋が重い空気に満たされ、辺りが静まり返る。
時計の針がやけに煩く時間の流れを知らせてくる。
見ればもうじき帰宅ラッシュが起きるころだろう。
国民に全てを知らせるには丁度良い頃だ。
俺はおっさんに歩み寄り、口を開く。
「あなたは何故こんなことを?」
が、声帯を使用する前に眼鏡の野郎に阻まれてしまった。
これ見よがしに舌打ちをすると睨まれたので視線を逸らす。
俺だって命は惜しい。
「何故この仕事を続けられるのですか?」
もう一度問いただした眼鏡とおっさんが睨みあう。
「家族のために、公務員としての職を全うしてるだけだが?」
「家族のため?
笑えないジョークですね。
家族のためとかぬかしながら、自分が社会的な地位を失うのが怖いだけなのでしょう。」
「何だと?」
「あなたのような中年はもう必要の無い存在なんです。
だってあなた方は今までの社会を担う人材であって此れからの社会を担うのは若い世代の人材なのですから。
それが分かっているからこんな非人道的な仕事を続けられているのです。
自分が必要の無い人間だと思い知らされたくないから。そうでしょう?」
「違う。
俺は家族のためを思って・・・」
「では何故、自分の子供が死んでもいないのにドナーにされるかも知れないこの政策を実行し続けているのですか?」
捲し立てるように核心を突いてきた眼鏡。それに力無く答えるおっさんの言葉を更に断ち切る。
あまりにも容赦の無い言葉のナイフに若干引きつつも、俺は黙って見守っていることにした。
「あなたは何度も、
あの銃が本物だと疑わない方々が
何故自分が未だに生きているのか理解できないまま
解剖されバラバラにされて、他の・・・顔も知らない誰かの中に、望んでもいないのに移植されて行く姿を見てきた筈です。」
「・・・・・・・」
「あなたは・・・いえ、あなただけではありませんね、日本中の大人達は
時計の針が止まるのを恐れすぎた。
ねぇ、何も間違ったことは言っていませんよね?
お父さん」
そう言ったのを皮切りに眼鏡が持っていた銃を構える。
それを見て俺は衝撃的な事実を知ってしまった衝撃から急いで立ち直り、
彼の元へ駆け寄ってその銃ごと彼の手を掴んだ。
「感情的になりすぎだ。」
そう言いながら思う。
何故今まで気が付かなかったのかと。
殺しの英才教育をするには何年もの月日を要する筈だ。
ならば一般家庭から子供を集めることは難しい。
だからきっと子供を集めるなら孤児か政府に通じる人間の子供を連れてくるしかない。
その連れて来られた子供があいつの子供だったとしてもなんの不思議も無いのだ。
「僕は至って冷静ですよ。」
こいつをつれてくるべきではなかった・・・・。
「自分の顔、鏡で見てみろ。ひでぇ面してるぞ。」
「余計なお世話です。」
「・・・・・・自分の感情に任せて引き金を引いたら、絶対に後悔するぞ。」
俺にはその気持ちが痛いほどに良く分かるから、
自分の母親を、
何故こんなに腐りきった政府の味方をするのかという感情に任せて撃ってしまった時の
あの痛みが、
まだ心臓の辺りに残っているから。
少年は俺の目を見てからフッと腕の力を抜く。
そのままの流れで俺は銃を取り上げた。
「おっさん。」
呆けて立ち尽くしていたおっさんを見やると声を掛ける。
「中年ってのは別に必要の無い人間じゃないんだぜ。」
「は!?馬鹿いうなよ。中年ってのは謂わば中古品。3Rに適合するのは選ばれた一握りの人間だけなんだよ。」
「確かに中古品ではあるかもな。」
俺が納得するとおっさんがだろ?と返してくる。
「でもさ、
新品が便利になるかどうかを決めるのも、
良品と不良品を見分けるのも、
全部中古品の持ってる沢山のメモリーなんだぜ」
そこまで言うとおっさんが腹を抱えて笑い出した。
それこそ耳を塞ごうかと思うくらいに。
いや、実際に塞いだな。
「まさかこの年になってそんな綺麗事を聞かされるとはな。」
笑いを必死に堪えつつ言った言葉に俺は唇の端をあげてこういった。
「綺麗事でも何でも、信じれば多少は救われるだろ?」
おっさんは少し目を見開いてからくすぐったそうに微笑んだ。
「嬉しいねぇ、おっさんを心配してくれてんのかい?」
「まあな、だから後で飯奢れよな。俺とこいつと、妹と母さんの分。」
「・・・・財布の心配もして欲しいもんだ。」
その時、徐に眼鏡が部屋のPCを弄り始めた。
「何してるんだ?」
「TV局に情報を漏洩するんですよ?」
ごく自然に返された事に一瞬戸惑う。
しかし直ぐに立て直して画面を覗き込んだ。
「これで全部終わるんだな?」
「はい。」
画面が目まぐるしく変わった後、俺達は送信中のゲージが全てを緑色に変わるのを逸る気持ちを抑えて待ち続けた。
― 送信中 100% ―
― 送信完了だぎゃ ―




