食糧難対策法
―――目を覚ましたそのさきには、ただ・・・異様な光景が広がっていた―――――――…。
「どこ・・・・・・・?此所」
誰からか呟かれたその言葉には答えるものはいなかった。
質問にただ答えられないもの、
未だに夢の世界へと旅立っているもの、
あるいは、答えるつもりがないもの。
覚醒しきっていない頭で現状を確認しようと辺りを見渡す。
視界に広がったのはただ異様な光景・・・
異質な固い素材で作られた四角いそれは、窓という概念を持たないかのように隙間という隙間が存在しなかった。
自分達はそのなかに閉じ込められているのかという事実に背筋が凍りつくのをおぼえた。
いったい、俺達はどうやってこの中にはいったと言うのだろうか?
「なんだよこれ!?どういう事だ!!!?」
しびれを切らした男が叫ぶ。
すると、ガリ勉そうな小柄な眼鏡少年が口を開いた。
「何年か前に、政府が出した制作をご存知ですか?」
そこに居た数人が頭の上に「?」マークを浮かべる。
その姿に思わずため息をつくと全員の視線が一斉に俺に向けられる。
「“食”だろ?」
彼はそうだと言うように頷く。
そして補足をするように説明を始める。
「人口の増えすぎてしまった日本国政府のたてた制作です。
食糧難対策法……と、一般的には公開されています。
抑の原因は人口爆発が起き、日本国が食糧難に陥ったことです。」
そういって一呼吸おく眼鏡の少年を見て、回りの無知な野郎共は固唾を飲む。
彼は回りの視線を一身に受けているのを確認し、そして、と続ける。
「そこで政府が考え出した結論は・・・・
人口爆発が原因で食糧が足りないのなら―――――――その人口を減らしてしまえば良い。
というものでした。
そこから打ち出されたのがこの計画です。
内容としては、
何らかの方法で選ばれた17歳の少年少女を密閉空間に閉じ込めて、
残り一人になるまで殺しあわせようというものだった筈です。つまり、」
そこで、今まで少年の声しか響かなかった静寂の中に少女の高い声がかさなる。
「じゃあこれがその制作だってこと?」
その震えた声から、自分の推測を否定してほしいという思いが犇々と伝わってくる。
しかし、少年は迷う事なく頷く。
その動作を見た少女の瞳がみるみる絶望の色に染められていくのが分かった。
「・・・そんな・・・・・・」
小さく呟かれた言葉に回りの少年少女が同調する。
矛先を向けられたのは、先程の説明をした眼鏡の少年だった。
「お前、何でそんなに詳しいんだよ?おかしいだろ、お前だけ詳しいって」
「は?」
ガヤの中から発せられた言葉に少年は怪訝そうな顔をする。恐らくは俺も負けず劣らず怪訝そうだったろうが・・・・・・。
「僕は法学の勉強をしているんです。それくらい知っていて当然でしょう?」
それに、と続ける
「僕としては、“食”という、政府間での呼び名の通称を知っている彼の存在の方が不思議でなりませんがね。」
そういった彼の視線は真っ直ぐに俺に注がれている。俺は内心で舌打ちをしつつ言う。
「・・・・・2回目なんだよ・・ここに来るの・・・」
一気にその場の空気が冷えた気がした。
「それって・・・生き残っても結局また戻ってくるかも知れないってこと?」
俺は静かに頷く。
そして立て続けにいい放った。
「前回は12人来た。でも、実際に戦ったのは俺を含む4人だけだ。・・・何が起きたんだと思う?」
その答えに思い当たった数人は信じられないと言うような表情を浮かべた。
俺はそいつに視線を流すとそれを肯定する言葉を投げる。
「もうわかってるやつも居るみたいだけど・・・12人のうち8人は自殺したんだ。
元々自殺願望者だったやつとか、
この絶望から一刻も早く抜けたかったやつとか、
それから、皆が死んで行くのを見ていられなかったやつ。」
狭い部屋の中にまた静寂が訪れる。
「じゃあこうしましょう。」
口火を切ったのはやはりあの眼鏡の少年だ。
これ、
そういって持ち上げた手には少し大きめの黒い塊が握られていた。