閑話 糸引 火蓮1
私は今、虐められている。
自分で言うのもなんだが、辛い。
平気な振りで、無表情を装って、淡々と過ごす。
その全てが辛い。
「きゃはは・・・あいつさ~・・・」
「・・・だよね~・・・」
私の方を見て囁く。
机には無数の落書き。
死ね に始まり キモい から ビッチ まで、なんでもござれだ。
全員が虐めに参加しているわけではない、がかといって守ってくれる人も先生もいない。
しょうがない、と思う。
もし逆の立場なら私もそうする。
私は必然的にネットの世界に入り浸るようになっていた。
私は糸引 火蓮という名前だ。
ネットでは ラインラン というハンドルネームを使っている。
現在高校3年生。
背は160cm、体系は普通だと思う。
肩甲骨のあたりまで伸ばしている黒髪を横で括る、いわゆるサイドポニーテール。
少し目つきがきついが、それ以外は整っていると自負している。
彼女らは高校1年から、成績が良く男子から少なからず人気があるからという理由で私を虐めてきていた。
その当時は軽い陰口程度のもので、私にも親友と呼べる人間が少なからずいた。
しかし2年たった今、それはエスカレートしてハードな虐めとなっている。
親友だった彼女らは私を見限り、別の連中とつるんでいる。
「ねぇ。」
「ん?どした、ひぶす?」
「「アハハ!」」
私を虐めている連中は私をひぶす、と呼ぶ。
火蓮の火を「ひ」、蓮を「ばす」から「ぶす」と呼んでいるようだ。
「何か言うならハッキリ私に言ったら?」
「あ?言うことなんかね~けど~?」
「あんたみたいなのは黙ってハブられてりゃいいんだよ。」
いつもこれだ。
ハッキリ言ってくれたら、面と向かって言ってくれたら言い返せるのに。
言い返して、喧嘩して、スッキリできるのに。
そんな中で、私は机を雑巾で拭き始めた。
・・・・・・
・・・・
・・・
家に帰ってベットに身を投げる。
はぁ、とため息をつき横にあるものを見つめる。
ヘッドギア。
この前偶然よった電気屋でした抽選会。
そこで1等が当たったのだ。
その時は知らなかったが、その後オークションでものすごい高値が付いていたらしい。
「運は・・・いいんだけどなぁ・・・。」
誰もいない部屋でそう呟く。
私はこれを使うことを少し怖がっていた。
もし使って、ゲームの中にもいる事が出来ない、なんて事になったら・・・。
でも、私は刺激がほしかった。
辛い毎日を変える何かを、心から欲していた。
そこで見つけたゲーム、≪Individuality Online≫。
もしも私の個性、私だけの個性を誰かに必要とされたら。
そう考えて、私は≪Individuality Online≫のβテストに応募していた。