満月の実験
満月の時にしかできないという、父親から教えられた実験。
必要なものは、人魚の血5cc、ミイラの粉末10mg、冬虫夏草10mg、人を燃やした後の灰を混ぜる。
そして、それらをダマにならないように超純水で伸ばす。
それから蒸留を繰り返し、澄んだ液体になるまで漉す。
液体を100cc分きっかりを透明な水晶でできた瓶にいれ、ふたを閉めてから満月にあてる。
すると、その透明な液体は、数時間後には真っ黒な液体となる。
この黒くなった液体を、近日点通過日の太陽にあてると、次は白色となる。
ここまでは蓋を外してはいけない。
外したとたんに全ては消え去るという。
こうして白色になった液体に、今度は蓋を外さずに自らの血を注ぐ。
すると見る見る間に赤色へと色が変わるという。
そしてふたを開け、敵にそれを一滴のませると、一両日中に死ぬという。
父は、この液体を史上最高の作品だと言っていたが、私以外の誰にも教えることはなかった。
母には教えたことがあるそうだが、実際にしようと思うことはなかったようだし、親戚や弟にはそんな実験を考えていたことすら分からないようにしていた。
父がなぜ私だけに教えたかというのは、よくわからなかったが、私の地には父方の何かを強く受け継いでいるということだけは、ずいぶん昔に教えてくれた。
それを探りたくて、私はその液体を作った。
人魚については漁師に頼み、ミイラについてはエジプトに足を運んだ。
また冬虫夏草は中国の奥地へ行き、人の灰は土葬されていた個人を失敬することにした。
これらはみな、このような人から成り立っている気持をこめて、神へ祈りをささげる。
どこの神かは、推して知るべし。
材料は整えた。
さらに人払いをしたため、家には誰もいない。
明後日には帰ってくる予定だが、それまでは隠し通せるだろう。
満月の夜、私は定められた方法に従って、その液体を作り出した。
そういえば、名前が決まっていないと父親から聞いたことがある。
だから、一人ひとり名前を付けなければならないとも。
私は、この液体に、満月の秘薬という名前を付けることにした。
満月の時に、主に作られる特別な薬だからだ。
コルクでできたふたを閉め、密封させてから月明かりへあてるため、窓辺に置く。
満月の光を浴びさせて、私は仮眠をとった。
3時間後、まだ太陽が昇っていない間に、窓辺から下げると、イカ墨のような真っ黒い液体と変わっていた。
もしかしたら、それよりも黒いかもしれない。
私は、その便を慎重に箱に詰め、近日点通過日まで保管することにする。
太陽の力を最も強く受けることができる日だ。
その時に再び日に浴びさせると、白色へと変わるという。
果たして、その日がやってきて、私は部屋にだれも入れないように伝えてから、窓辺に再びおいて、日の光を浴びさせた。
その間、しておかなければならないことがいくつかあったので、それをしておく。
そうこうしている間に2時間は経っていた。
瓶の中を見ると、牛乳のような真っ白い液体へと、いつの間にか変わっていた。
これに、ふたを外さずに、つまり外気に触れさせることなしに私の血を入れる必要がある。
そのため、私が用意したのは、5cmほどの針の長さがある注射器だ。
コルクを突き抜けて、さらに液体へ直接注ぎいれることができる。
私が日に浴びさせている間にしたことは、このために私の血を採ったのだ。
血の量は適量ということで、赤色になればそれでいいということではあったが、どれだけいるかわからなかったので、とりあえずは200ccほど用意しておいた。
それを注射器にすべて入れてから、コルク栓に勢いよく突き立てて、中へと注ぎいれた。
ほんの数滴を入れただけで、色が変わりだした。
初めは黄色、次に黒、そして白へ戻った。
だが、赤色には半分を過ぎるころまでならなかった。
あと少しでなくなるといったころに、ようやくルビーのような赤色となった。
私は慎重に注射器を抜いて、ふたを外す。
ここまでくると、ふたを外しても問題はないそうだ。
あらかじめ買っておいた瓶にぴったり合うゴム蓋をコルクの代わりにはめ込むと、満月の秘薬は完成した。
実験をしてみたかったが、誰かに飲ませるということもいかないので、私はとりあえず神へとできたことを感謝するために祈りをささげた。
それから、棚へ注意深く隠れるようにしまうと、私は何事もなかったかのようにふるまった。
この時は、私がなぜこれを作ろうかと考えたかなんて、気にもしなかった。