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神の御意はあまりに大きすぎて、我々人間の認識の及ぶものではない

作者: 鷹智

初投稿となります。以前書いたものを軽く手直しした上で投稿させていただきます。

 ある山奥に、小さな集落があった。

 民らは皆、村に生まれ、村で育ち、その命尽きるまで生涯その村を出ることがなかった。ただ麦を育て、家畜を飼い、山の恵みを享受して、その都度彼らの神に祈って過ごした。


「神よ、今年も豊作を感謝します!」


 彼らの祈りに、神は柔和な微笑みを返した。

 

「神よ、新しき命に祝福を与え給え!」


 神は優しき微笑みをもって、誕生を祝福した。


「神よ、今日一組の新たな夫婦が生まれました!」


 神は太陽のような微笑みで、二人を祝福した。


「神よ、いま偉大なる一つの命があなたの元へ向かいました……。」


 神は暖かな微笑みで、一つの命を御元に受け入れた。


「神よ、私は罪を犯してしまいました……。」


 神は穏やかな微笑みで、彼の過ちを許した。


「おお神よ!いつまでも我らを見守っていてください!!」


 神は、ただ微笑みを浮かべて、彼ら民を見守り続けた。



 ある時、村を災いが襲った。その悪魔は瞬く間に村じゅうを覆い尽くし、民らは重き病に倒れ、苦しむこととなった。


「おお神よ!いまこそ我らはあなたの力を必要とします!どうか我らをお救いください……。」


 神は、微笑みをもって彼らの祈りに応えた。民らは、安堵の思いでその微笑みに感謝した。


 しかし、悪魔は去らなかった。

 民らがいくら神に祈っても、神はただ微笑みを浮かべるばかりで、彼らに救いの手を差しのべることはなかった。

 

 「神よ!どうして我らに試練をくださるのです?何故に祈りを聞き届けてくださらぬのです!!?」


 神は、民らの必死な祈りを、まるで蔑むかのように微笑みを浮かべ続けるだけであった。


「我らはずっとこの神に祈り続けてこれまで暮らしてきたのに。片時も感謝の心を忘れることはなかったのに。あぁ、我らはどうすればよいのだ……。」



 憔悴する村人たちの中で、ひとりの若者が苦々しげに口を開いた。


「苦しき時に頼りにならぬ神など、我らは必要としない……!!」


 村人たちは、はっと目覚めたかのように顔を見合わせた。


「そうだ、この神が、一体我らに何をしてくれたと言うのだ!?」


「ただ我らを莫迦にするように、ニタニタ笑ってただけじゃないか!!」


「あぁ、そうだ!こんなもの!!こんな役たたず、こうしてやる!!」


 その瞬間、神は死んだ。

 彼らが神と呼んで崇め奉ってきたその存在は、虚ろなる微笑みを浮かべたまま、彼ら自身の手によって叩き壊された。

 一つの素朴な神話が、いま消えた。



***************************


「祈りに見返りを求めるとは、なんて度し難い!所詮は弱く小さい存在だったか……。」


 苦々しげな呟きは、村を見下ろす遥か高みから。「神」と民らのやりとりをずっと見つめ続けていたその存在は、悲しげな表情で目を逸らし、ふぅと重い溜息をついた。


 民らは気づくことが無い。彼らの伺い知れぬ遥か高みで、彼らとは異なる次元で、ずっと彼らの営みを見守り続けてきた存在に。彼らと、この世界を創造した、真に「神」と呼ばれるべきその存在に!


「幾度、繰り返す?同じ過ちを、同じ堂々巡りをいつまで続ける?」


 結局は神の不在に耐えきれず、再び新たなる虚ろな神を作り出すか弱き民ら。その存在(仮にG氏と呼ぶ)は、ただ悲しげに見つめていた。


「それでも、諦められない。私のやり方は間違っていないはずだ。きっといつの日か、望む結果を彼らは見せてくれる。」


 自分に酔った珍妙な言葉遣いで、G氏は再びコントローラーを手に取る。


「やはり、羊のような凡人の群れでは駄目だ。彼らを導く天才が、私の意図に気づいてくれる指導者が必要だ。」


 彼が、この神様ゲームに熱中し始めてから既に、どれほどの時間が流れているだろう。

 昼食を摂るのも忘れて。

 ……お昼のお祈りも、忘れて。


 そんな姿を、彼の背後の偶像Aは不思議そうに見つめながら思った。


――いったい我の造り主は、何を考えているのだろう……?――、と。

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