第2話 縁の下の
「でも現にそれは真似事じゃないのか」
「レノン様は息抜きをされたほうがいいのです」
「こんな暇なのにか?まだ執筆にすら入っていない」
レノンは自嘲気味に言った。
「そういうわけではなく視野を広げてみては、ということです」
「だからと言っていい作品が出来るとは思わない」
「いや、そういうわけではなくてですね」
「何を焦ってるんだ?」
「・・・そうです。焦ってるんです」
レノンを指差して言った。
「俺がか?」
「そうです。誰がいい作品を作れと言いました?」
「・・・駄作を作れと?」
レノンは顎を人差し指で叩きながら言った。
「では質問を変えます。いい作品とはどんな作品ですか?」
「・・・難しい質問だな」
「私が言いたいことはそういうことです」
「で、お前はどうしたい?」
全てを託すという風に椅子にもたれて目を閉じた。
「先ほどの者たちでアドリブの劇をしていただき、立ち回りを見るのです」
「それで?」
体を乗り出して興味津々に問うた。
「あとはレノン様に任せます。
徐々に人数を減らして・・・そうですね、5人くらいに絞ってみましょう」
「5人?」
「登場人物は1人ではないでしょう?」
「ま、そうだな」
「それに、そのくらいの人数だと人間関係も見えますし」
「面白い」
食いついてきた。
人間観察が趣味と豪語していたくらいの男だ。
それに、だいたい作家はこの手のものを嫌うはずはないだろう。
証拠にこれからの物語に目を輝かせている。
今の段階ではまだはっきりと言えないが、成功することを祈ろう。
このままだと腐ってしまう。
レノンは完全にスランプになっていた。
『作家』という職業に踊らされていた。
もっとのびのびと物語は紡がれるものだ。
少なくともこの城の物語はそうだった。
「あ、でも裁判になった」
―勝手に私の生活を書かないでよ!―
殴りこみに来た主人公もいたな。
あれは宥めるのに苦労した。
最近は著作権にも気をつけて営業している。
「ふぅ、いつも苦労が絶えない」
これから先のことは後で考えればいい。
今は目の前の茶葉のことだけ考えていよう。
「一応、彼らにも出した方がいいのだろうか」
部屋には1人だけ。
答えてくれる声などない。
結局、1人分の紅茶を淹れて部屋を出た。