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第1話 はじまり

とある場所に物語の主人公を決める施設があった。

施設はどこかの偉い人の元居城で、急な崖の上に聳え立っている。

そこに一人、また一人と物語のヒロインになるべく崖を上る少女たちや

ヒロインとの恋に落ちるべく必死に崖を上る少年たち、悪役の魔女や

継母、おばあさんに、小人になろうと必死に今日も登っていた。




そんな施設の主、レノンは今日も城の上からその光景を眺めていた。

「今日は根性ある奴ばかりだな。これじゃあ全員登ってくる」

「そうですねレノン様。いい加減どなたか選ばれた方が良いかと」

「何言ってる。誰でもいいならこんなとこ作らない」

「ですが、この状況は・・・」

「・・・まあ、今日は多めに評価してやるよ。行くぞ」

「御意」



今日は七人のものが崖を登ってきた。

シンデレラに出てきそうな少女、

白雪姫に出てきそうな少年、

どの人間も童話の世界に出てきそうな人ばかりだ。

オーディションは全部で3つで志望動機、演技、自己アピールとなる。

今まで何千万人の人間が受けてきたが、その中の一握りしか未だ合格出来ていない。

ちなみにここを合格した生徒は童話の世界で今も活躍している。

「一番の方どうぞ」

「はい!」

元気よく前に出た少女は、栗色の髪を二つにまとめた大人しそうな少女だった。

手にはシンデレラの本を持ち、服装もシンデレラに似せた服を着ていた。

「シンデレラ、好きなの?」

「はい!私の憧れです。こういう人になりたいなあって・・・」

少女は気恥ずかしそうに笑っていった。

だが少女とは対象的にレノンは顔をしかめた。

「ふーん、次」

「え?待ってください!私の演技もアピールもまだしていません」

少女は合格したい一身で必死に抗議した。

「うーん、でもどうせ演技もシンデレラするんでしょ。アピールもシンデレラ絡みの」

「っ・・・・」

「図星だね。次、呼んで」

まだ一握りしか合格出来ていないのは、この施設のこういうルールのせいでもあった。

誰かの真似ではだめ。

自分の色を持つものだけを合格させる。

それが決まりだった。

ちなみに先輩の回答例はこんなだった

「君の名前は?」

「・・・赤ずきんです」

「え、もう一回いいかな?」

「レイチェルよ、でも一度も名前で呼ばれたことが無いの」

「家族にも?」

「ええ、酷いでしょう?実の娘なのに」

その後レイチェルはおばあさんのお見舞い途中で出逢ったオオカミを殴ったらしい。

彼女が後から言うには

「あいつまで私の事【赤ずきん】なんて言ったの。だから憂さ晴らしにちょっとね」

そう言いながら拳を握る彼女は少し怖かった。

だが、彼女でなければ、すぐにオオカミに食べられて話が終わってしまっていた。

ここを合格するものは皆、自分の物語を持っている。

だからレノンは真似事をするだけの人間は合格させなかった。

素敵な物語に逢うために。

「今日も収穫なし、か」

どの人間も一様に憧れやどれだけ近づけるかばかりを述べて、自分の物語を作る気がない。

これではいくら面接をしても時間の無駄だ。

「レノン様は理想が高すぎるのですよ」

紅茶の茶葉を図りながら、レノンをしかりつけるように言った。

「そうか?まあ、ルイス・キャロルに比べればそうかもな」

彼は自分の娘を主人公に選んだ。ちなみに先々代の主は彼だ。

この施設は作家の卵たちが主人公を求めてくる場所なのだ。

現にレノンも作家の卵で良い主人公が見つからないため花開けないでいる。

「真似事が嫌いなのですよね?」

「ああ、そうだが」

「では、アレンジして頂くというのはどうでしょう」

「アレンジ?」

「そうです。新しいものが生み出せないなら、今あるものを生かすのです」

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