女は魔王になれない伝統だなんて、私に言わせればゴミクズ以下ね
わたしは最強である。ただし、魔王にはなれない。
なぜならば、魔族社会には血統階級がある。強い両親から生まれた子は原則強い。これが人間よりも顕著に表れるのが魔族の特性である。
そのため、強い魔族を生むために、強い魔族同士で婚姻を結ぶのが一般的となった。
それを数世代続け、強い戦闘力を発揮した者、敵を多く倒した者など、十分な実績を積み上げた血統が優遇された。同じ血統の魔族を高い階級に置き、要職に就かせるようになったのである。
また更に数世代を経ると、血統により六段階の階級が作られた。
最上位血統の階級は魔公爵となり、この中の男性のみから魔王が選ばれる。
そう、男性のみだ。わたしのように女性は魔王になれないのが伝統なのだ。
実力主義の魔族の国で、なぜこんな伝統が作られたのか、確たる理由を説明できる者はいない。自然とそうなったわけではないということは明らかだ。
魔公爵から下は、順に魔侯爵、魔伯爵、魔子爵、魔男爵である。
そして、最下層の階級が戦犯だ。
これは勇者など人間の軍と戦った際に、魔王軍に甚大な被害をもたらしてしまった魔族の血統を表す。
中でもわたしの祖先は、二〇〇年前、勇者との戦いで先代魔王グランデスが討たれる原因を作ってしまった。魔族衰退を引き起こした最弱の血統として、子々孫々に至るまでがS級戦犯という罪に処されることとなる。
最下層の戦犯の中でも、更に最下層に位置する。それがわたしの血統だ。
しかし、なぜかわたしの祖先の名が残っていない。魔王が討たれる原因というのも判然としない。恐らく、二百年前になにかがあったのだ。
「シシェ。シシェ・ヴィアフレイム」
わたしを呼ぶ声を耳にして、目を開けた。
場所は魔王城の地下牢獄である。S級戦犯のわたしに自由はなく、命令がなければここから出ることもできない。正規の手段では。
「貴様に命令をくれてやろう」
鉄格子越しにそう言ったのは、階級最上位魔公爵の血統を誇り、六魔領主の一人、炎魔帝ヴェルゼフである。
「勇者カムイが不落の砦アダモスを落とした。奴は恐ろしく強い。人間どもとの長い大戦の中でも、歴代最強の勇者だ。しかし、こちらは魔王の座が空位となって久しい」
先代魔王グランデスが、先代の勇者と相打ちになってから、魔王軍では後継者を選びきれずにいる。
魔公爵の血統を有する六魔領主の中から選ばれることになるのだろうが、実力が伯仲しているのだ。
「ゆえに時間稼ぎをしてもらう。勇者カムイと戦い、奴の力を少しでも削げ」
「わたし一人でやれと言うの?」
「貴様が知る必要はない」
勇者カムイの力を削ぐというのだから、一人ではないのだろう。
戦犯は魔族大陸全土に七、ハ〇〇人以上いる。波状攻撃を仕掛ければ、さすがの勇者といえども疲弊はする。戦犯を捨て駒にして、とことん敵の戦力を削る策か。
「さあ、行くがよい」
炎魔帝ヴェルゼフが牢獄の扉を開く。
まあ、いいわ。久しぶりの外を満喫しましょう。
◇
「く……! つ……強い……!」
わたしの足下に倒れたのは勇者カムイ。さすがは歴代最強というだけのことはある。数分もの間、わたしと互角に戦ってみせた。これほど楽しめたのは初めての経験だ。
「信じられんねえ……カムイが、こんなあっけなく……」
敵の戦士バラムが、大剣を杖にしながらも、わたしに視線を注いでいる。彼も最早戦う力は殆ど残っていない。その目には怯えと覚悟が見て取れた。
「バラム。どうにか、隙を作ってください。私が自爆魔法を仕掛けます。カムイを……カムイだけは守らなければ、私たちの希望を……」
魔法使いのリディアが倒れたまま、心臓に全魔力を注いでいく。
わたしは倒れたカムイの首根っこをつかみ、ひょいっと持ち上げた。
「てめえっ!!!!」
叫んだバラムのそばに、わたしはカムイを放り投げた。
「なっ……!!?」
咄嗟にバラムはカムイを受け止める。
「さっさと連れて帰って。じきに多くの魔族が押し寄せるわ。わたしは追わないけど、そいつらはどうにか片付けてね」
わたしが言うと、カムイの指先がピクリと反応した。
「……どういうつもりだ?」
ボロボロの体を起こし、カムイがわたしに問う。
もう目を覚ましたの? さすが勇者ね。
「わたし、強い人が好みなの。だから助けてあげる」
カムイが目を見開く。
「冗談よ。あなたはまだ強くなる。ここで殺しちゃったら、つまらないでしょ」
そう、S級戦犯のわたしは魔族が危機にでも陥らない限り、外を自由に歩けない。
ここでカムイを倒したところで、その功績は命令を出したヴェルゼフのものとなる。
戦犯は一生、戦犯だからだ。
わたしの目的を達成するには、六魔領主の目が外に向いていた方が都合がいい。
「……お前の……名は……?」
カムイはわたしに聞いてくる。
「シシェ・ヴィアフレイムよ」
「シシェ……そうか……お前は、魔王グランデスの娘だなっ……」
え?
魔王グランデスの娘?
「お前が今の魔王なのか……?」
それは意外な問いだった。
探していた答えを、まさか勇者からもらうとは思わなかった。
女のわたしが魔王、外から見ても実力があれば不自然なことではないのだ。
「あなたが強くなったら教えてあげるわ」
強い瞳で、カムイはわたしを睨む。
「後悔するぞ」
そう言い捨てて、カムイは踵を返す。勇者パーティは魔族の国から、素早く逃走していった。
◇
シシェは魔王城の地下牢獄に戻ってきた。
そこに炎魔帝ヴェルゼフともう一人、鉄鋼王ディルケンが待っていた。彼もまた六魔領主だ。
「勇者はなぜ逃げた?」
ヴェルゼフは言った。
戦犯が勇者を撃退することは不可能であり、命を捨てて時間を稼ぐのが精一杯というのが彼の見立てだった。
勇者が逃走を図ったことが不可解でならないのだろう。
「わたしの方が強かったわ」
「はっ!」
と、ヴェルゼフは一笑に付した。
「寝言につき合っている暇はない。さっさと話せ」
どうやら頭から決めつけているようだ。
「本当よ。お望みなら、次は殺してあげるわ。その代わり、わたしを魔王にすると約束してくれる?」
すると、ヴェルゼフは怒りをあらわにした。
「あまり図に乗るな。S級戦犯が、魔王になれるわけがなかろう。ましてや、女如きがな」
「それは、どうして?」
問うただけで、イラッとした雰囲気が伝わってくる。
これだから、余裕のない男は嫌い。
「貴様の血統は戦犯なのだっ!! そんな弱者が魔王だと? よいか? 魔王とは強き力を生み出す血統を持つ者だ。魔族の全てを支配する絶対的な王者こそが、魔王に相応しい!」
「ほら、矛盾してる」
爪で切り裂いてやろうとわたしは手を伸ばす。ヴェルゼフは咄嗟に右手でつかんで受け止めた。
「……なんのつもりだ?」
「強さが大事なんでしょ。だったら、血統は関係ないじゃない」
わたしが力を入れると、ヴェルゼフがそれに対抗して足を踏ん張る。しかし、簡単に押し切られ膝を折った。
「な……!?」
「血統階級が最上位のあなたより、わたしの方が強いみたいね。これはどう説明するの?」
それがプライドにさわったか、こめかみに血管を浮き立たせながら、彼は憤慨した。
「ほ、ほざけぇぇぇぇいっ!!! S級戦犯の女風情がぁぁっ! この炎魔帝ヴェルゼフ様に刃向かって、ただで済むと思うなぁっ!!」
激しい炎がヴェルゼフの体を包み込む。彼はその全魔力を解放したのだ。
本気で戦うつもりだろう。
「それが全力なの?」
ドゴォォッとヴェルゼフは地面にめり込んだ。わたしが手で押さえつける力に抵抗できなかったのだ。
「な……ぜ……俺、が……女、に……女如きにぃぃっ!!」
ガンッと頭を踏みつける。ヴェルゼフは気を失った。
不思議よね。いつも不思議。
魔王に相応しい男たちが、どうしてこんなに弱いのだろう?
「ねえ。あなたなら、知っているの、鉄鋼王ディルケン? 血統階級が最下層のわたしが、どうして強いのか。それとも、あなたたちが弱いだけ?」
「…………」
ディルケンは無言でわたしを見た。
元々、寡黙な男だ。用がなければあまり言葉を発さない。
「私が知りたかったのは勇者が逃走した理由です。戦うつもりはありません」
そう口にして、ディルケンは牢獄から出て行こうとする。
「じゃ、これは知ってる? わたしの父は、先代魔王グランデスだって」
ピタリ、とディルケンは足を止めた。
「知っているみたいね」
「……どこでそれを聞いたのですか?」
「どこでもいいでしょ。そんなことより、父が魔王なら、わたしの本当の血統階級は最上位の魔公爵でしょ。だったら、魔王に相応しいと思わない?」
「あなたが男性であったなら、その可能性もあったのかもしれませんね」
「それが一番わからないわ。女が魔王でなにがいけないの?」
「それが伝統というものです」
不意をついて、ディルケンは魔剣を抜き放ち、わたしの首を狙った。しかし、こちらの手の方が遙かに速い。爪を勢いよく振り下ろせば、ディルケンの胸元がぱっくりと割れた。
「隠してたことがバレたから、口封じってこと?」
「く……が……ぁ……」
がっくりとディルケンは膝をつく。
彼を見下ろし、わたしは告げた。
「六魔領主を全員倒すわ。そうすれば、わたしが魔王と認めざるを得ないでしょ」
「……愚かなことです……今世に至るまで、脈々受け継がれてきた、我々魔族の歴史……その伝統を断ち切るというのならば、最早それは偉大なる我らの魔王ではございません……」
「男が決めた、男に都合が良いだけのルールが伝統? 笑わせないで。そんなものゴミクズ以下の価値しかないわ」
わたしはディルケンの首根っこをつかむ。
「……なにを……?」
「言ったでしょ。六魔領主を全員倒すわ」
◇
魔王城。玉座の間。
わたしの目の前で、六人の男が地べたに這いつくばっている。
「――これで文句はないわよね?」
六魔領主の全員を力尽くで徹底的に打ちのめした。最早、魔力も尽き、わたしに逆らうことはできない。
ゆっくりと歩いていき、空の玉座にわたしは座った。
「伝統を……破壊してまで……そんなにも王位が欲しかったのか……魔族の歴史を全て否定する魔王など……誰も認めんじゃろう……」
そう言ったのは、六魔領主の一人、雷公老ガラだった。
「違うでしょ。その古くさい伝統がわたしを否定したの。血統や性別でなにがわかると言うの? 生まれで全て決まるというのなら、そんなくだらない国は一度壊れた方がいい。これからはわたしの成したことが伝統になるわ」
睥睨しながら、わたしは言った。
「従いなさい。あなたたちが大事にしてきた伝統じゃ、か弱い女の子一人止められなかったでしょ」
それ以上、反論できる者はおらず、わたしは魔王になった。
すぐに魔族の国の改革に取りかかった。
血統階級の廃止。男性優遇の廃止。目指すのは全ての魔族を同じ扱いとする、徹底的な実力主義の社会だ。
価値観を変えるのは生半可なことではないが、力が全ての魔族の国では単純で受け入れやすい方針だった。
わたしが魔王になっている以上、誰でも強者になり得るというのもわかりやすくていいだろう。
勿論、伝統を守りたい魔族も存在する。だが、そんな彼らへのわたしのスタンスは明快だ。そう思うのなら、力で魔王の座を奪い取ればいい。
もっとも、負ける気はしなかったし、奪い取りにくる者も現れなかった。
改革を始めて数日が経ち、わたしは玉座に座り、休憩をとっていた。
室内には他に誰もいない。
窓の外には輝く月が見えていた。今宵は満月らしい。
静かに目を閉じる。
「魔王よ」
声が聞こえた。
「新たな魔王よ。汝に継承しよう。我らが祖先が守ってきた血統階級の意味を」
目を開ける。
だが、誰もいない。
「玉座から聞こえてる? 魔法の声……」
誰かが玉座にかけた魔法により、声が聞こえてくる。それができるのは歴代の魔王だけ。他の魔族は、この玉座に触れることさえ許されない。
「血統階級とは、魔族を内側から崩壊させぬために作られた教え。力では到底魔族に敵わぬ人間の第二侵略に対抗する手段だ」
人間の第二侵略? 聞いたことがないわ。
「人間の第二侵略、それは交配による侵略だ。人間と魔族の混血が増えれば、魔族の社会は崩壊する」
「それはなぜ?」
魔法の声に話しかけてみる。すると、返答があった。
「順を追って説明しよう。我ら魔族は個体としての戦闘力が高く、寿命が長い。だが、その分、繁殖力に乏しい。逆に人間は戦闘力は低く、寿命が短いが、繁殖力が高い。無論、勇者のような例外も存在する。だが、生物全体で考えれば、質に優れた魔族と量に優れた人間という比較が成り立つ」
確かに人間の方が数は多い。だから、広大な範囲を領土にしているのは人間の方だ。
「では、人間と魔族の混血はどうか? 混血は戦闘力が魔族よりも高く、繁殖力にも優れている」
え? 混血の方が強い?
「……混血は殆ど生まれない。生まれたとしても、生物として脆弱だと言い伝えられているはずだわ」
そもそも人間には血統階級がない。魔族は血統階級の高い相手との婚姻を目指すため、人間と子を作ろうとする者はまずいない。
「混血が強いと分かれば、魔族たちは混血の子を作ろうとするだろう。我らは力を求め、力を崇拝するがゆえに」
「それは……そうでしょうけど……」
「混血は繁殖力にも優れる。そうなれば、数世代も経たぬ内に魔族の世界は純粋な魔族より、混血の人数が勝ることとなるだろう」
人間並みに増えるのであれば、あり得る話だ。
「でも、魔族の唯一の欠点を補えるわ。人間が支配している土地を全て奪うこともできるんじゃない?」
「新たな魔王よ。汝に問おう。混血は魔族か? それとも人間か?」
一瞬、わたしは考える。
確かに、魔族とは言えない。だが、人間でもないだろう。
そもそも、どちらかと決めることが可能なのか?
「答えはこうだ。混血が有する勇者因子と魔王因子の多寡で決まる」
魔族には魔王因子が、人間には勇者因子が、その血に宿っていると言われている。
「男魔族と人間の女がもうけた子には魔王因子のみが受け継がれる。この場合、混血は魔族だ。だが、女魔族と人間の男がもうけた子には、勇者因子のみが受け継がれる。この場合、混血は人間となる。だが、外見で区別はつきづらい」
母胎が人間か魔族かによって、受け継がれる因子が変わるのか。
「そして、この仕組みは混血同士の交配でも同様なのだ」
玉座が伝えようとしてきたことがなんとなくわかるような気がした。
「つまり、混血が増えていくと、相手が人間か魔族かわからなくなるってこと?」
「そうだ。ゆえに混血を生んではならない。特に女魔族と人間の男がもうけた子は、我らが魔族の社会に人間が入り込む原因となる」
「人間の第二侵略というのは、勇者因子を持つ混血を、魔族の社会に増やし続けて、気がつかない内に魔族を人間の国にしようっていうこと?」
「その通り。魔族の国が乗っ取られるのだ。あるいは、力を尊ぶ魔族社会構造に、情や平等という概念が持ち込まれ、破壊される危険性がある。その第二侵略を一度は封じ込めた。だが、数世代後に再びその策をとられる恐れもある。ゆえに、血統階級が作られたのだ」
ようやく、その意味がわかった。
なぜ血統階級が伝統として受け継がれてきたのか。なぜ、その理由が隠されてきたのかが。
「女が魔王になれないのは、もし人間と子を作ってしまったら、魔王の子どもが、魔王よりも強い人間になってしまうから?」
「そうだ。その子は魔族社会を破壊する危険性を秘めている。ゆえに、混血の魔族は、血統階級が最下位の戦犯に定められ、子孫が残らないようにした」
ああ、そうか。そういうことだったのだ。
わたしが何者なのか、ようやくわかった。
「先代魔王グランデスは、人間との子を作ったの?」
「そうだ。希代の聖女リーナとの子を作った。その子はS級戦犯に指定された。名はシシェ・ヴィアフレイム。ヴィアフレイムは、戦犯に与えられる架空の血統である」
わたしは魔王因子を持った混血の魔族だ。
だから、六魔領主よりも強かったのだ。
「新たな魔王よ。この魔族の国とは、ここで生きる魔族の民。すなわち純血の魔族たちの生きる社会のことだ。どうか、この血統階級を維持し、この国を守ってくれ」
それで伝えたいことは全てだったのか、魔法の声は終わった。
わたしはしばらく玉座に座っていた。
考えていたのだ。
わたしが、この先、なにをなすべきなのかを――
◇
人間の国。王城レアム。
城が燃えていた。夥しい数の兵士が倒れている。
今この瞬間、二本の足で立っているのは二人だけ。
勇者カムイと魔王シシェである。
「あなたの負けね」
「……そうだな……」
勇者の聖剣が折られている。最早彼は、わたしに有効な攻撃を与えることはできない。
「ねえ。人間を救いたい?」
カムイは無言で答えた。構わず、わたしは続けた。
「もしも、なにを犠牲にしてでも、人間を守り、世界に平和をもたらしたいのであれば、一つだけ希望があるわ」
「……なんだ?」
短く、彼は問うた。
「わたしと結婚しない?」
そう、私は言った。
カムイは沈黙した。わたしの意図がまるでわからなかったのだろう。
「……なにを企んでいる?」
「知ってるんでしょ。わたしの父は魔王グランデス、母は聖女リーナ。わたしは混血なの。けれど、これまでの魔族の伝統はわたしの存在を受け入れるようにできていなかった。だから、魔族の国に真実を伝えるわ」
カムイは目を見開いた。
勇者にも、人間の第二侵略のことは受け継がれているのだろう。
「……お前の国がめちゃくちゃになるぞ」
「そう、めちゃくちゃにするの。だって、魔族の伝統が嘘だったんだもの。混血の方が強い。これが事実で、力を求める魔族が混血を生みたいというのなら、そうするべきだわ」
「人間に乗っ取られるかもしれない」
「そうならないようにするわ。魔族と人間が交わらなければ、魔族の国も最初からずっと平穏だったんでしょうけど、わたしはもう生まれてしまったんだもの」
わたしはふんわりと微笑んで見せた。
「魔族の国を心配している場合? わたしと結婚するなら、あなたたち人間と友好を結べるように努力するわ。でも、断るんだったら、すべての国を壊滅させる」
カムイは目を伏せる。
決着はついた。力で守れないなら、選択肢は一つだろう。
やがて、カムイは諦めたように言った。
「わかった。お前と結婚しよう」
「ありがとう。末永くよろしくね」
戦いの果ての休戦協定、それは国同士の条約のようなものだった。
結婚の約束を交わしながら、彼は彼の国のことを、わたしはわたしの国のことを思っていた。
魔族の伝統には、確かに魔族の子孫を守る意味があった。あの声は何代目かの魔王が玉座に遺した、祖国の民への愛だったのだろう。
けれども、その守るべき子孫の中に、わたしは入っていなかった。
だから、これからはわたしが作るのだ。
たとえ、一度、全てがめちゃくちゃになろうとも。
新しい伝統を。
新しい国とともに。
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