第8話 組む理由
長期依頼の手続きを終え、ギルドを出たところで、セリアが歩調を合わせてきた。
「確認しておくけど」
前を向いたまま、彼女は言う。
「私はあなたを評価しに来たわけじゃない。
検証しに来たの」
「……違いは?」
「大きいわ」
即答だった。
「評価は結論ありき。
検証は、結論が出るまで疑い続ける」
なるほど、と心の中で頷く。
彼女は最初から“味方”ではない。
それが、かえってやりやすかった。
「条件は、一つだけ」
俺は言う。
「俺の準備と行動に、口を出さないでください」
「分かってる」
セリアは足を止め、こちらを見る。
「あなたのやり方を否定したら、
検証にならない」
視線が真っ直ぐだった。
好奇心と、覚悟が混ざっている。
「それに――」
少しだけ、言葉を選ぶように続ける。
「あなたが“異常”だと証明されたら、
私はギルドで立場を失う可能性がある」
「……それでも?」
「それでも」
迷いはなかった。
理解者ではあるが、保護者ではない。
この関係性は、悪くない。
「準備に入ります」
ダンジョン入口で、俺はいつもの動作に入る。
身体強化。
反応速度の調整。
疲労軽減。
セリアは、少し離れた位置で、何も言わずに見ていた。
「戦闘前に、ここまで?」
「はい」
短く答える。
「……戦闘中は?」
「ほとんど、何もしません」
セリアは一瞬だけ眉を動かしたが、それ以上は聞かなかった。
それが、約束というものだ。
ダンジョンに入る。
敵は、いつも通りだった。
特別強くも、弱くもない。
だが、戦闘が始まってすぐ、セリアの視線が変わる。
「……被弾しない」
彼女の呟きは、記録用だった。
俺の動きは、昨日までと同じ。
無理をしない。
先を急がない。
それでも、敵の攻撃は当たらない。
「判断が、早すぎる」
次の戦闘。
さらに次。
時間が経つほど、セリアの表情が硬くなる。
「……疲労、出てる?」
「いいえ」
「集中力は?」
「問題ありません」
質問は、最小限。
邪魔にならないよう、意識しているのが分かる。
その日の探索を終え、地上に戻る。
通常なら、ここで一息入れる。
だが、体はまだ動く。
「……もう一層、行ける?」
セリアが、慎重に聞いた。
「行けます」
即答した。
セリアは、小さく息を吸い、頷く。
「……分かった。
今日の記録は、私が預かる」
手帳に何かを書き込む音がする。
「レイン」
名前を呼ばれ、振り返る。
「あなた、自覚はある?」
「何の、ですか」
「基準を壊してるって自覚」
答えに詰まる。
「……ありません」
それが、本音だった。
セリアは一瞬だけ目を閉じ、それから言った。
「それが、一番危険ね」
その言葉の意味を、俺はまだ理解していなかった。
だが確かに。
この日から、状況は変わり始めていた。
俺はもう、
“一人で楽な冒険者”ではいられない。
観測される存在になってしまったのだから。




