表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/39

第36話 広がり

 変化は、静かに始まった。


 深層から戻ってきた冒険者の報告書に、

 ある一文が増え始めたのだ。


――※撤退判断を優先し、探索を中断。


 以前なら、その行は言い訳のように扱われていた。


 「成果なし」

 「踏破失敗」

 「目標未達」


 だが今は違う。


 撤退理由が詳細に記され、

 判断の過程が評価対象として扱われるようになった。


「……空気が変わってるわね」


 セリアが、掲示板を見ながら言う。


「はい」


 誰かが命じたわけではない。

 制度が急に変わったわけでもない。


 ただ、

 深層で壊れた者が増え、

 壊れなかった者の記録が並び、

 比較が可視化された。


 それだけだ。


「昨日の部隊も、

 第二帯域手前で撤退してる」


 セリアが資料を指す。


「判断遅延の兆候あり。

 即帰還」


「正しいですね」


「ええ」


 以前なら、

 “臆病”と呼ばれただろう。


 だが今は、違う。


 酒場の一角で、若い冒険者が言い合っている。


「今日は引こう」


「でもまだ行けるぞ?」


「“行ける”って思った時点で危ないんだよ」


 その言葉に、俺はわずかに視線を上げた。


 どこかで聞いた表現だ。


 俺が言ったわけではない。

 セリアでもない。


 自然発生だ。


「……思想は、勝手に広がるのね」


 セリアが小さく呟く。


「はい」


 俺は、何もしていない。


 誰にも教えていない。

 講義もしていない。


 ただ、壊れずに戻っただけだ。


 中庭で、ノアが壁にもたれていた。


「見たか?」


「何をですか」


「撤退が、笑われなくなった」


 彼は、静かに言った。


「俺が壊れた頃はな、

 戻っただけで“根性なし”扱いだった」


 苦笑が混じる。


「……やっと普通になったな」


 その一言に、重みがあった。


 壊れた経験を持つ者が、

 ようやく肯定される空気。


 深層は、相変わらず危険だ。

 事故も、後遺症も、消えない。


 だが、

 “戻る判断”が恥ではなくなった。


 それだけで、

 壊れる数は確実に減る。


「あなたが広めたわけじゃない」


 セリアが言う。


「ええ」


「でも、あなたがいなければ、

 ここまで早くは変わらなかった」


 俺は、少しだけ首を振る。


「深層が、変えただけです」


 深層は、嘘をつかない。


 強さを誇る者も、

 慎重な者も、

 等しく削る。


 ただ、

 壊れなかった例が、

 ようやく基準として認識され始めただけだ。


 夕方、ギルドの鐘が鳴る。


 緊急ではない。

 通常の閉館合図。


 冒険者たちが、ぞろぞろと帰っていく。


 誰も、英雄の話はしていない。

 踏破記録の自慢も、減っている。


 代わりに聞こえるのは、


「今日は戻る」

「基準が怪しい」

「無理しない」


 そんな言葉だ。


 追放された戦闘補助師は、

 中心に立っていない。


 だが、

 基準の端に、確かに残っている。


 壊れないという選択が、

 ようやく、この街で普通になり始めていた。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ