第33話 数値化できない力
カルディアが去ってから、ギルドの空気は微妙に変わった。
誰かが何かを言うわけでもない。
だが、こちらを見る視線の質が違う。
「……完全に“扱いに困る存在”ね」
セリアが、資料を閉じながら言う。
「はい」
英雄でもない。
脅威でもない。
だが、無視できない。
それが、一番厄介だ。
午後、再び応接室に呼ばれた。
今度はロウエン一人だけだ。
「国家観測官から、報告が上がった」
前置きはない。
「結論は?」
「“数値化不能”」
ロウエンは、短く言った。
「補助効果は確認できる。
だが、上昇値が出ない。
持続時間も測れない」
当然の結果だった。
「疲労耐性、集中維持、判断遅延の抑制。
どれも“結果が出ないこと”でしか確認できない」
セリアが、淡々と補足する。
「つまり、
発生しなかった損失を測るしかない」
「国家は、それを嫌う」
ロウエンは、はっきり言った。
「損失が出ないことは、
評価しづらい」
成果がないように見えるからだ。
「それでも、
放置できない」
ロウエンは、少しだけ眉を寄せる。
「深層第二帯域の事故報告と、
君の記録を並べると、
差が露骨すぎる」
進んだ者は、削られた。
進まなかった者は、壊れていない。
「国家の結論は?」
「“運用不可”」
即答だった。
「だが――」
一拍置く。
「“無視も不可”」
それが、今の立ち位置だった。
セリアが、小さく笑う。
「一番、面倒な評価ね」
「そうだ」
ロウエンも、苦笑に近い表情を見せる。
「使えない。
再現できない。
命令できない」
兵器としては、最悪だ。
「だが、
“壊れなかった”という事実だけは、
否定できない」
それは、どんな理論より重い。
「国家は、
君を前線に出さない」
ロウエンは、はっきり告げる。
「同時に、
遠ざけもしない」
「……観測対象として、ですね」
「そうだ」
俺は、頷いた。
前に出ない。
引きずり出されない。
今の位置は、悪くない。
「ただし」
ロウエンは、少し声を落とす。
「いずれ、
“数値化できないこと自体”が
問題になる」
「どういう意味ですか」
「世界は、
測れないものを恐れる」
それは、真理だった。
「理解できなければ、
排除しようとする者も出る」
セリアが、静かに言う。
「だから、観測官を送った」
「そうだ」
理解しようとする者が、
まだ上にいる。
それは、救いでもある。
応接室を出た後、
セリアが低く呟いた。
「“数値化できない”って評価、
普通なら致命傷よ」
「はい」
「でも今回は、
それが生存理由になってる」
皮肉な話だ。
深層は、
数値で測れる強さを、
簡単に壊す。
だが、
測れないものだけは、
壊しきれない。
追放された戦闘補助師の力は、
依然として説明不能だ。
だが世界は、
ようやく理解し始めている。
**分からないからこそ、
壊さない方がいいものがある**
という事実を。
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