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追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


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第31話 使者

 ギルドの扉の前に立っていた男は、冒険者には見えなかった。


 装備は最低限。

 だが、立ち姿に無駄がない。

 周囲を観察する視線は、戦場ではなく会議室のそれだった。


「……来たわね」


 セリアが、小さく息を吐く。


「国家の使者です」


 男は、こちらに向かって一礼した。


「失礼する。

 私は、王国中央府より参りました」


 名乗りは簡潔。

 肩書きは伏せているが、立場の重さは隠していない。


「レイン・アシュフォード殿。

 お時間をいただけますか」


 拒否権がある言い方だ。

 だが、断られる可能性も織り込んでいる。


「……短時間なら」


 俺がそう答えると、男は深く頭を下げた。


「感謝します」


 案内されたのは、ギルド内でも最奥の応接室だった。

 ここが使われるのは、国家案件か、緊急時だけだ。


 男は席につくと、すぐ本題に入った。


「率直に申し上げます」


 前置きがない。


「貴殿の補助能力は、

 国家にとって極めて重要です」


 予想通りの言葉だった。


「深層探索の安定化。

 長期作戦における人的損耗の低減」


 どれも、正しい評価だ。


「そこで、正式に協力をお願いしたい」


 男は、まっすぐこちらを見る。


「国家のために、その力を」


 セリアが、視線だけで俺を見る。

 判断は、こちらに委ねられている。


 俺は、少し考えてから口を開いた。


「用途が、すでに決まっていますね」


 男は、わずかに眉を動かした。


「……ええ」


「それなら、お断りします」


 即答だった。


 応接室の空気が、一瞬だけ固まる。


 男は、驚いた様子を見せなかった。

 だが、想定より早い拒否だったのは確かだ。


「理由を、伺っても?」


 声は冷静。

 感情を挟まない。


「成果を求められる補助は、

 判断を壊します」


 俺は、淡々と答える。


「国家案件は、

 “成功”が前提になる」


「それは……当然です」


「当然だから、壊れる」


 男は、言葉を失ったわけではない。

 だが、すぐに返せる反論もなかった。


「私は、

 深層で“壊れない判断”をするために動いています」


 それは、使命でも理想でもない。

 ただの前提だ。


「目的が決められた時点で、

 撤退は失敗になります」


 深層で、それは致命的だ。


 男は、ゆっくりと息を吐いた。


「……条件を下げることも、検討できます」


「それでも、同じです」


 俺は、首を横に振る。


「“国家のため”という目的がある限り、

 補助は歪みます」


 沈黙が落ちる。


 男は、初めて表情を変えた。

 困惑ではない。

 理解しようとしている顔だった。


「貴殿は……

 力を、提供するつもりがないのですか」


「提供はできます」


 はっきりと言う。


「ですが、

 使われることはできません」


 その違いは、致命的だった。


 男は、深く頭を下げた。


「……本日のところは、引き下がります」


 潔い判断だった。


「だが、理解を試みる者が、

 改めて伺うことになるでしょう」


「構いません」


 理解しようとするなら、話はできる。


 男は、立ち上がり、最後に一言だけ残した。


「貴殿は、

 英雄にならない選択をしている」


「はい」


「それでも、

 世界は放っておかないでしょう」


 それは、忠告でもあり、予告でもあった。


 使者が去った後、

 セリアが静かに言う。


「……きれいに断ったわね」


「ええ」


「でも、これで終わりじゃない」


「分かっています」


 国家は、諦めない。

 だが同時に、

 “使えない”と判断するほど、

 愚かでもない。


 この拒否は、対立ではない。

 前提の提示だ。


 追放された戦闘補助師は、

 国家に背を向けたわけじゃない。


 ただ、

 **壊れる使い方を、選ばなかった**。


 それだけの話だ。


 そしてその選択が、

 これから世界の側に、

 新しい問いを突きつけることになる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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