第30話 戻れる強さ
深層探索の報告書が、正式にギルド全体へ共有されたのは、その翌日だった。
内容は、驚くほど地味だ。
踏破階層:第一層一部
滞在時間:短時間
戦闘回数:少数
特筆すべき戦果:なし
だが、添えられた注釈が、すべてを物語っていた。
――※本探索において、判断遅延・精神汚染・後遺症は確認されていない。
その一文に、視線が集まる。
深層関連の報告書で、
それが書かれている例は、ほとんどない。
「……静かに広がってるわね」
セリアが、掲示板から目を離して言った。
「はい」
誰かが騒ぐわけでもない。
称賛も、批判もない。
ただ、
“比較対象にできない記録”として、
確実に残った。
ギルドの一角では、冒険者たちが小声で話している。
「進んでないのに、無事なんだって」
「深層で、それは逆にすごくないか?」
「……基準が違うんじゃないか」
その言葉が、
この二部前半のすべてだった。
俺は、酒場の隅で水を飲みながら、
その様子を眺めていた。
前に出る必要はない。
説明する気もない。
基準は、
言葉で広めるものじゃない。
結果だけが、
後から追いついてくる。
「次は、どうする?」
セリアが聞く。
「しばらく、浅いところで検証を続けます」
「深層は?」
「間隔を空けます」
即答だった。
深層は逃げない。
判断が壊れていない今、
無理に触れる理由はない。
セリアは、小さく笑う。
「相変わらずね」
「変わる必要がありません」
それが、今の俺の立場だ。
その時、ギルドの扉が開き、
見慣れない使者が入ってくるのが見えた。
服装は整っている。
立ち振る舞いも、明らかに冒険者ではない。
「……国家絡みね」
セリアが、視線だけで察する。
「ええ」
こちらに向かってくる気配は、まだない。
だが、確実に近づいている。
世界は、
この“壊れない補助”を、
放っておけなくなり始めている。
それでも。
俺は、立ち上がらない。
迎えにも行かない。
呼ばれたら、考える。
条件が合えば、選ぶ。
それだけだ。
追放された戦闘補助師は、
深層に勝ったわけでも、
世界を救ったわけでもない。
ただ一つ。
**壊れずに、戻ってきた。**
それだけで、
この世界にとっては、
十分すぎるほどの結果だった。
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