第3話 合理的な判断
夜になり、宿の食堂に全員が集まった。
木製のテーブルに簡素な料理が並び、酒の匂いが微かに漂っている。
いつもなら他愛のない話をしながら食事を取る時間だが、今日は少し空気が違った。
カイルが、ゆっくりと口を開く。
「今日の依頼も、問題なく終わったな」
「おう。楽勝だったな」
ブラムが肉を頬張りながら答える。
リーナは無言で頷き、ステータスログを一度だけ確認してから閉じた。
「戦果も安定してる。
だが……だからこそ、だ」
カイルは一拍置いてから、俺の方を見る。
「レイン。昨日も聞いたが、もう一度確認したい」
視線が集まる。
責める空気ではない。むしろ、真剣だった。
「お前の補助は、今の戦闘スタイルに本当に必要か?」
その問いは、感情ではなく計算から来ていた。
「火力は十分。
被ダメージも少ない。
だが、それは前衛と後衛の練度が上がった結果とも言える」
リーナが淡々と補足する。
「ログ上、補助による上昇値は確認できない。
回復量もゼロ。
数値で見れば、レインの貢献は測れないわ」
ブラムは少し困ったように頭を掻いた。
「俺は、なんか楽だなーとは思ってるけどよ。
それが補助のおかげかって言われると……正直、分かんねぇ」
全員の意見は、概ね一致していた。
――分からないものは、評価できない。
それは、この世界では当たり前の理屈だ。
「回復役を一人入れれば、保険になる」
カイルが続ける。
「深層に近づくほど、即時回復は重要になる。
補助よりも、分かりやすい安定を取るべきだ」
合理的だと思う。
少なくとも、間違った判断ではない。
だから俺は、反論しなかった。
「……そうですね」
そう答えると、場が一瞬静かになった。
「否定しないのか?」
カイルが少し意外そうに言う。
「俺の補助は、短期決戦向きではありません。
今のパーティ構成とも、噛み合っていないと思います」
それは、ずっと前から分かっていたことだ。
俺の補助は、積み重ねるほど効いてくる。
一戦二戦では、違いが出にくい。
だが、このパーティは常に最短で結果を出してきた。
だからこそ、評価され、ここまで来た。
「……話が早くて助かる」
カイルは小さく息を吐いた。
「今すぐ結論を出すわけじゃない。
だが、近いうちに編成を見直す。
その時は……分かってくれ」
「はい」
それだけ答えた。
食事は、その後も続いた。
だが、空気はどこかよそよそしい。
誰も怒っていない。
誰も責めていない。
ただ、静かに、選別が始まっただけだ。
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
天井を見上げながら、考える。
俺は、このパーティに必要なのか。
必要だと証明する術はある。
だが、それを説明する言葉を、俺は持っていない。
「……仕方ない、か」
そう呟いて、目を閉じた。
合理的な判断は、いつだって正しい。
正しいからこそ、切り捨てられるものもある。
その一つが、自分なのだろう。
この時点ではまだ。
それが、どれほど致命的な判断なのかを、誰も理解していなかった。
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