第26話 条件の更新
翌日、ギルドから正式な呼び出しがあった。
場所は、前回と同じ応接室。
だが、空気は明らかに違っていた。
ロウエンと、見慣れない書類の束。
それだけで、用件は察しがつく。
「条件の更新を提案したい」
ロウエンは、率直に切り出した。
「深層での件を受けて、
君の扱いを見直す必要が出た」
「……更新、ですか」
「そうだ」
管理を強める。
監視を増やす。
普通なら、そう来る。
だが、ロウエンは違う言葉を続けた。
「介入を減らす」
セリアが、わずかに目を見開いた。
「具体的には?」
「報告頻度を下げる。
行動計画の事前提出は不要とする」
一拍。
「深層探索についても、
君の判断を最優先する」
それは、完全に主導権を渡す内容だった。
「……理由を聞いても?」
俺が聞くと、ロウエンは迷わず答えた。
「我々が口を出した瞬間、
“検証”ではなく“操作”になる」
それが、組織の出した結論だった。
「操作すれば、結果が歪む。
歪めた結果に、価値はない」
セリアは、静かに頷く。
「合理的です」
「だが」
ロウエンは、言葉を切る。
「代わりに、条件が一つある」
来たか、と内心で思う。
「国家からの問い合わせが来ている。
それを、完全に遮断することはできない」
予想通りだった。
「直接の接触は避ける。
だが、存在そのものは隠せない」
俺は、少し考える。
セリアと、視線を交わす。
「……分かりました」
拒否はしない。
だが。
「こちらから、条件を追加します」
ロウエンが、わずかに眉を動かした。
「聞こう」
「国家案件には、
“即答しない”権利をください」
「即答しない?」
「はい」
俺は、落ち着いて続ける。
「検証を壊す依頼、
補助が歪む状況には、
参加しません」
「理由は?」
「深層と同じです」
迷いなく答える。
「判断が狂う環境では、
俺の補助は役に立たない」
それは、謙遜ではない。
制限の明示だった。
ロウエンは、しばらく黙り込む。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……受け入れる」
セリアが、小さく息を吐いた。
「では、合意ね」
「そうなる」
書類に、最低限の追記がなされる。
条件は、増えたのではない。
削られた。
縛りが減り、
関与が減り、
自由が残った。
それが、今の最適解だった。
応接室を出ると、
セリアが小さく笑う。
「ずいぶん、扱いが変わったわね」
「ええ」
追放された時には、考えられない。
「もう、管理対象じゃない」
「はい」
「“触ると壊れる存在”になった」
その表現に、少しだけ苦笑する。
だが、否定はできなかった。
俺は、前に出る存在じゃない。
使われる存在でもない。
ただ、
“判断を壊さないために離される存在”になった。
それでいい。
深層は、逃げない。
世界も、急がせるべきじゃない。
俺たちは、今日も静かに、
次の一歩を“踏み出さない選択”をする。
それが、今の俺たちにとって、
最も価値のある判断だった。
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