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追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


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第20話 撤退判断

 五日目。


 深層第一層の空気は、昨日までとは明らかに違っていた。


 靄が濃い。

 視界そのものは保たれているのに、距離感だけが狂う。

 数歩先が、やけに遠く感じる。


「……今日は、進行判断が難しい日ね」


 セリアが低く言った。


「環境負荷、さらに上昇。

 判断誤差が、無視できないレベルに入ってる」


「撤退基準は?」


「“迷った時点”」


 即答だった。


 俺は頷く。


 深層では、それが最も信頼できる基準だ。


 広間に出ると、すでに魔物の気配があった。

 数は少ない。

 だが、配置がいやらしい。


「……引き寄せる動きですね」


「ええ。

 戦闘そのものより、位置取りを崩しに来てる」


 補助は、疲労耐性のみ。

 他は切ったままだ。


 戦闘は短時間で終わった。

 被弾なし。

 問題はない――はずだった。


「……少し、判断が遅れた」


 セリアが、戦闘後にぽつりと言う。


「私も、同じことを考えていました」


 ほんの一瞬。

 踏み込みをためらった感覚。


 致命的ではない。

 だが、無視できない。


 その時、通路の奥から足音が聞こえた。


 ユリウスたちだった。


「また会ったな」


 彼は、昨日より少しだけ疲れた顔をしていた。

 笑顔は変わらないが、目の焦点がわずかに甘い。


「今日は、どうだ?」


「……正直に言えば、重い」


 ユリウスは肩をすくめる。


「だが、予定通り進む。

 ここを越えれば、安定するはずだ」


 その言葉に、セリアがわずかに眉を動かした。


「“越えれば”?」


「環境変化の山だ。

 過去の記録では、そうなっている」


 理屈は通っている。

 そして、それが一番危ない。


「……今日は、戻った方がいい」


 俺は、はっきりと言った。


 ユリウスが、驚いたようにこちらを見る。


「理由は?」


「今の判断精度で、

 その“山”を越えるのは危険です」


「根拠は?」


 真剣な問いだった。


 俺は、少しだけ言葉を選ぶ。


「“行ける気がする”と感じている時点で、

 すでに削られています」


 一瞬、沈黙が落ちた。


 ユリウスは笑う。


「補助職らしいな。

 だが――」


 彼は、仲間を見る。

 誰も反対しない。


「俺たちは、行く」


 判断は、揺らがなかった。


「……分かった」


 それ以上、言わない。


 深層で、他人の判断を無理に変えるべきではない。


「無事を祈る」


 それだけ告げて、俺たちは踵を返した。


 撤退路を進みながら、セリアが小さく息を吐く。


「……正しい判断をしてるはずなのに、

 胸が重い」


「はい」


 同じ感覚だった。


 戻る途中、何度か立ち止まる。

 判断に迷いが出ていないか、確かめるためだ。


 地上へ戻った時、ようやく呼吸が深くなった。


「……戻れた」


 それが、何よりの成果だった。


 深層では、

 “進めた距離”は評価にならない。


 “戻れたかどうか”だけが、結果になる。


 そして今この瞬間、

 進み続けた者と、戻った者の差は、

 まだ数値には表れていない。


 だが――

 決定的な分岐は、すでに越えてしまっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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