第2話 戦果と違和感
翌朝、ダンジョン五階層の奥で目を覚ました時、俺は自分の体調を確かめた。
異常なし。
筋肉の張りも、関節の違和感もない。
魔力も、集中力も、昨日とほとんど変わらない。
「……問題ないな」
呟いてから、ふと気づく。
昨日は連戦だった。決して楽な行程ではなかったはずだ。
普通なら、多少は疲労が残る。
それがない。
だが、その事実を不思議だとは思わなかった。
――いつも通りだからだ。
「準備できたぞー!」
ブラムの声が通路に響く。
カイルとリーナもすでに装備を整えていた。
今日も同じ編成、同じ役割。
俺は戦闘前の仕込みを終え、最後尾につく。
戦闘は、やはり問題なく終わった。
魔物は倒れ、誰も傷を負わない。
剣は鈍らず、魔法の精度も落ちない。
まるで、時間が止まっているかのようだった。
「……なあ」
撤収準備の最中、ブラムが再び首を傾げた。
「今日もさ、全然疲れてねぇんだけど」
「昨日も言ってたわね、それ」
リーナはログを確認しながら言う。
「被ダメージも少ないし、魔力消費も想定内。
数字上は何もおかしくないわ」
数字上は。
その言葉に、俺は小さく息を吐いた。
確かにログは正常だ。
異常が出る理由がない。
俺の補助は、数値として記録されないのだから。
「……まあ、調子いいならいいだろ」
カイルはそう言って話を切り上げた。
彼にとって重要なのは、結果だ。
理由は二の次。
その日の依頼を終え、ギルドに戻る。
受付で報告書を提出すると、職員が一瞬だけ手を止めた。
「……えっと、今回の消耗品使用は……ゼロ、ですか?」
「はい」
俺が答えると、職員はもう一度書類に目を落とした。
「この討伐数で、ですか?」
「はい」
首を傾げながらも、彼女は処理を進める。
疑問は浮かべているが、否定する理由もないのだろう。
事実だから。
「……変なパーティですね」
ぽつりと、そんな感想が漏れた。
変、か。
そう言われたのは初めてではない。
だが、悪い意味ではなさそうだった。
ギルドを出た後、カイルが足を止める。
「今日はここまでにしよう。
宿、押さえてある」
「分かりました」
宿に戻り、各自で休憩に入る。
俺は部屋の隅で装備を外しながら、改めて自分の状態を確認した。
やはり、疲れていない。
不意に、胸の奥に小さな違和感が生まれる。
「……おかしい、か?」
昨日も今日も、楽すぎる。
だが、それを「異常」だと判断する基準を、俺は持っていなかった。
補助とは、そういうものだ。
効いているかどうかは、分かりにくい。
効いていれば、それでいい。
だから俺は、自分の仕事を疑わない。
ただ――。
数値に出ない以上、疑われるのも仕方ない。
そう、割り切っていた。
この時点ではまだ。
俺自身も、自分の補助がどこまで作用しているのかを、正確には理解していなかった。
ただ一つだけ、確かなことがある。
今日も、誰も倒れなかった。
今日も、誰も消耗しなかった。
それが、当たり前になっている。
――それが、異常だと気づく者は、まだいない。




