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追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


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第19話 ズレ

 四日目。


 深層第一層の空気に、はっきりとした変化が出始めていた。


 霧のような靄が、視界の端に残る。

 見ていないはずの影が、遅れて動く錯覚。


「……環境負荷、上昇してる」


 セリアが即座に判断する。


「昨日より、確実に」


「体感で、どれくらいですか」


「浅層一日分を、半日で削られる感覚」


 冗談では済まない数字だった。


 それでも、俺の体調は安定している。

 疲労耐性は、相変わらず切れていない。


「補助は、現状維持で」


「ええ」


 セリアも同意する。


「ここで盛る意味はない」


 通路を進むと、前方から音が聞こえた。

 金属音。魔法の発動音。


「……戦闘中」


 広間に出ると、ユリウスたちのパーティが魔物と交戦していた。


 連携は崩れていない。

 火力も十分。


 だが。


「……遅れてる」


 セリアが、低く言った。


 一拍。

 ほんの一拍だけ、判断が遅れる。


 前衛が踏み込みすぎ、

 後衛の魔法がわずかにずれる。


 致命的ではない。

 だが、昨日まではなかったズレだ。


 戦闘は、問題なく終わった。


「ふう……」


 ユリウスが息を吐く。


「少し、重くなってきたな」


 正直な感想だった。


「消耗は?」


 俺が聞くと、ユリウスは肩をすくめる。


「数字上は問題ない。

 だが、集中が続かない」


 セリアが、何も言わずに頷いた。


 それは、最初の兆候だ。


「今日は、どこまで行く予定ですか」


 俺が聞く。


「予定通り、一段先だ」


 迷いはなかった。


「まだ、行ける」


 その言葉は、間違っていない。

 少なくとも、今は。


 だが。


 俺は、セリアを見る。

 セリアは、静かに首を振った。


「……俺たちは、ここで戻ります」


 そう告げると、ユリウスは少し驚いた顔をした。


「もうか?」


「はい」


「慎重すぎないか」


 責める調子ではない。

 純粋な疑問だ。


「深層では、

 “まだ行ける”は判断基準になりません」


 そう答えると、ユリウスは一瞬考え、苦笑した。


「補助職らしい発想だな」


 悪意はない。

 むしろ感心に近い。


「また会おう」


 そう言って、彼は先へ進んだ。


 距離が離れた後、セリアが小さく息を吐く。


「……ズレ始めた」


「はい」


「でも、本人たちは気づいていない」


 それが、一番危険だった。


 深層は、

 人を一気に壊さない。


 少しずつ、

 “正しい判断ができている気分”を残したまま、

 基準をずらしていく。


 だから、戻れなくなる。


 俺たちは、地上へ向かう。


 補助は、相変わらず最低限。

 判断は、撤退優先。


「差は、はっきりしたわね」


 セリアが言う。


「ええ」


 能力の差じゃない。

 勇気の差でもない。


 “引き返す基準”の差だ。


 その小さなズレが、

 数日後、決定的な結果を生むことになる。


 まだ、この時点では、

 誰もそれを失敗とは呼ばない。


 だが――

 深層は、すでに答えを出し始めていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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