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追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


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第17話 基準の崩れる場所

 深層第一層。


 そう呼ばれてはいるが、見た目はこれまでの階層と大きく変わらない。

 石壁、細い通路、湿った空気。


 だが――。


「……音が、歪んでる」


 セリアが小さく呟いた。


 足音が、わずかに遅れて聞こえる。

 反響の位置が定まらない。


「距離感覚が狂わされてる」


「視覚じゃなく、感覚そのものですね」


「ええ。

 だから厄介」


 魔物が出ていなくても、集中力が削られていく。

 意識しなければ、呼吸のリズムすら乱れる。


「数値化できない消耗が、常時進行してる」


 セリアは手帳に短く書き込む。


「……ここは、戦闘力で測れる場所じゃない」


 昨日の言葉を、彼女はもう一度繰り返した。


 通路の先で、魔物が現れた。


 見た目は浅層の個体と大差ない。

 だが、動きが不自然だ。


「来ます」


 俺は、前に出ない。


 セリアが一歩踏み込み、最小限の動きで迎撃する。


 剣が交差する瞬間、嫌な感覚が走った。


「……遅れた」


 ほんの一瞬。

 反応が遅れたわけではない。


 “そう感じた”だけだ。


 魔物は倒れた。

 だが、セリアの肩がわずかに上下している。


「被弾は?」


「なし。でも……」


 セリアは、言葉を探す。


「集中が、削られてる」


 戦闘一回で、確実に何かが減っている。


「補助、追加しますか」


「いいえ」


 即答だった。


「ここで盛ると、

 “どこまで削られているか”が分からなくなる」


 判断は冷静だった。


 進むごとに、違和感は増していく。


 壁が近く感じる。

 時間が伸び縮みしているような錯覚。


「……深層は、

 人を“疲れさせる”んじゃない」


 セリアが言う。


「“判断を信用できなくする”場所よ」


 それは、致命的だった。


 戦闘力が高くても、

 判断を誤れば死ぬ。


 しばらく進んだところで、俺は足を止めた。


「今日は、ここまでにしましょう」


 セリアは一瞬だけ俺を見て、すぐ頷いた。


「正解」


 撤退は、敗北じゃない。

 ここでは、それが生存条件だ。


 帰還途中、別のパーティとすれ違った。


 前衛の男は、明らかに強そうだった。

 装備も、立ち振る舞いも洗練されている。


「……あれが、普通に強い人たちね」


 セリアが小声で言う。


「はい」


 彼らは、こちらを一瞥し、軽く会釈して通り過ぎた。


 余裕がある。

 まだ、削られていない。


「たぶん、数日後にズレ始める」


 セリアは、そう断言した。


 深層は、

 一気に壊す場所じゃない。


 静かに、確実に、

 基準そのものを削っていく。


 その日の探索は、短時間で終えた。


 だが、消耗は浅層の数倍だった。


 それでも――。


「……帰れてる」


 その事実が、何より重要だった。


 深層において、

 強さとは、進める距離ではない。


 “戻れる距離”こそが、

 基準になる。


 その基準が、

 ここでは静かに、崩れ始めていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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