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追放されたエンハンサー(戦闘補助師)、効果が見えないだけで実は上限なしでした 〜地味職だと思われて切られたが、長期戦では最強らしい〜  作者: 白石ユウト


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第11話 欠けたもの

 ダンジョン中層、七階層。


 湿った空気の中で、カイルは剣を振り下ろした。

 魔物は倒れ、数値上の戦果も悪くない。


「……ふう」


 息を吐き、剣を下ろす。


 被弾は軽微。

 魔力残量も想定内。

 ログだけを見れば、順調だ。


「次、行けるな」


「おう」


 ブラムはそう答えたが、どこか歯切れが悪い。

 リーナも無言で頷くが、すぐにログを確認し直している。


 進行は、少し遅れていた。


 理由は単純だ。

 休憩が増えている。


「……ちょっと、間、取ろう」


 リーナが言った。


「魔力は足りてるけど、集中が落ちてる」


「まだ行けるだろ?」


 ブラムが不満げに言う。


「行けるけど、“余裕”がない」


 リーナは淡々と答えた。


 カイルは、二人の様子を見てから頷く。


「……五分だ」


 腰を下ろし、水を飲む。

 身体は動く。

 だが、どこか引っかかる。


(前は、こんな感じじゃなかった)


 その考えが浮かび、すぐに打ち消す。


 気のせいだ。

 深度が上がれば、消耗も増える。

 当たり前の話だ。


 だが。


「なあ、カイル」


 ブラムが、ぼそっと言った。


「最近さ……ミス、増えてねぇか?」


「お前が雑なだけだろ」


「そうかもしれねぇけどよ」


 ブラムは頭を掻く。


「前は、もっと自然に避けられてた気がする」


 その言葉に、リーナが顔を上げた。


「……分かる」


 一瞬、場が静かになる。


「判断が、遅れる時がある」


 リーナはログを閉じる。


「数値は変わらない。

 でも、動きが一拍遅れる」


 カイルは、何も言わなかった。


 否定できないからだ。


 確かに最近、

 「危ない」と感じる場面が増えている。


 致命的ではない。

 だが、積み重なれば――。


「……編成を変えたせいか?」


 誰ともなく、そんな言葉が漏れた。


 回復役は優秀だ。

 即時回復も、安定している。


 それでも、何かが違う。


「前はさ」


 ブラムが続ける。


「連戦でも、頭が冴えてた」


 カイルは、その言葉を聞いて、ようやく気づく。


 “冴えていた”。


 数値じゃない。

 ログにも出ない。


 だが、確かにあった感覚。


「……」


 名前が、喉まで出かかった。


 だが、口にはしなかった。


 理由は分からない。

 分からないものは、評価できない。


 だから切った。

 合理的な判断だった。


「……深層は、やめるか」


 カイルは言った。


「今日は撤退する」


 誰も反対しなかった。


 地上へ戻る途中、

 カイルは無意識に後ろを振り返る。


 そこに、もう一人分の影はない。


(……前は、こんな風にならなかった)


 その考えを、今度は否定しなかった。


 ただ、答えは出ない。


 見えないものは、

 失って初めて違和感として残る。


 それが何だったのかを、

 彼らが正しく理解する日は、まだ遠かった。


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