第1話 見えない仕事
※本作は
「派手な無双」よりも
「気づいたらおかしい」タイプの最強ものです。
補助職・支援職が軽視される世界で、
“効果が見えないだけ”の戦闘補助師が追放されるところから始まります。
ゆっくりですが、確実に立場が逆転していく物語です。
お付き合いいただければ幸いです。
ダンジョン五階層、石造りの通路に魔物の死体が転がっていた。
壁に飛び散った血はすでに乾き、空気には微かな鉄臭さが残っている。
「――よし、次もこの調子で行くぞ!」
剣士のカイルが声を上げると、パーティの空気が一気に緩んだ。
前衛のブラムが肩を回し、後衛の魔法使いリーナが魔力残量を確認する。
そして、誰もこちらを見ないまま、次の準備に入った。
……まあ、いつものことだ。
パーティの最後尾で、俺――レインは静かに息を整える。
戦闘はすでに終わっている。俺の仕事も、終わっている。
「被弾なし、魔力消費も想定内。優秀だな」
リーナがそう言いながらステータスログを閉じた。
表示されているのは、討伐数、与ダメージ、被ダメージ、回復量。
そこに、俺の名前はない。
戦闘補助師――エンハンサー。
それが俺の職業だ。
だが、この世界で補助の効果は数値化されない。
攻撃力がいくつ上がったのか、防御がどれだけ底上げされたのか。
そういったものは、戦闘ログには一切表示されない仕様になっている。
だから俺は、戦闘中、何もしていないように見える。
「……レイン、次も同じでいいな?」
カイルが確認するように言った。
その声に、特別な期待も不満もない。
「はい。準備はもう済んでます」
俺はそう答える。
戦闘前にやるべきことは、すべて終えている。
筋力補正、反射神経の微調整、疲労軽減、集中力の維持。
小さな補助を、何層にも重ねて仕込んである。
だが、それを説明することはない。
説明したところで、理解されないからだ。
「じゃあ進むぞ」
カイルの合図で、パーティは再び歩き出す。
俺は最後尾のまま、一定の距離を保ってついていく。
次の戦闘も、問題なく終わった。
ブラムの剣は冴え、リーナの魔法は正確だった。
誰も傷を負わず、消耗も少ない。
それでも。
「……なんか、楽すぎない?」
ふと、ブラムが首を傾げた。
「気のせいでしょ。敵が弱かっただけ」
リーナが即座に切り捨てる。
彼女はログを信じている。数字に出ないものは、評価しない。
俺は何も言わなかった。
戦闘後、簡易的な休憩に入る。
水を飲み、装備を整え、次の階層に備える。
誰も疲れていない。
息も乱れていない。
それが異常だと気づく者はいない。
「……レインさ」
少しして、カイルが口を開いた。
「正直に聞くけどさ。
お前、戦闘中、何してる?」
一瞬、周囲の視線が集まる。
責めるような目ではない。だが、疑問は確かに含まれていた。
「……補助です」
それだけ答える。
「いや、それは分かってるんだけど」
カイルは頭を掻いた。
「数値に出ないし、戦闘中に動いてるわけでもない。
正直、回復役を入れた方が安定するんじゃないかって話が出ててさ」
ああ。
来たか。
「……そう、ですか」
それ以上、言葉は出なかった。
俺自身、間違っているとは思っていない。
だが、このパーティのやり方とも噛み合っていないことは理解している。
短期決戦。
火力重視。
数値で判断するスタイル。
そこに、俺の補助は向いていない。
「今すぐって話じゃない。
ただ……考えておいてくれ」
カイルはそう言って話を切り上げた。
その夜、キャンプで一人、装備の点検をしながら考える。
俺のやり方は、間違っているのだろうか。
補助は、確かに見えない。
だが、効果がないわけじゃない。
それでも。
「役に立ってない、か……」
呟きは、誰にも聞かれずに夜に溶けた。
この時の俺は、まだ知らなかった。
自分の補助が、どれほど歪で、異常で。
そして、この世界にとって、どれほど致命的なものだったのかを。
――それが、彼の仕事だった。
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