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『家賃500Gの欠陥住宅』に住み始めたら、S級英雄たちが勝手に『聖域』認定して国家予算を溶かし始めた件 ~魔王軍が「推し活」の邪魔だと秒殺されていくのですが、私の勘違いでしょうか?~  作者: あとりえむ
【第一章】S級英雄たちの過保護が加速して、欠陥住宅(標本箱)が世界一安全な聖域になりました。

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第8話 怯える行商人と、見えざる護衛

 嵐が去った翌朝は、森の湿気を孕んだ生温かい風が吹いていた。

 ミミは早起きをして、家の前の掃除をしていた。


 キュッ、キュッ……。


 濡れた布がガラスを擦る、甲高い摩擦音が静かな郊外に響く。


 この家は壁がガラス張りなので、泥跳ねや水垢が目立ってしまう。

 ミミは少し青臭い洗剤のにおいを我慢しながら、背伸びをしてガラスを磨き上げた。


「ふぅ……。これで大家さんも許してくれるかな」


 額に滲んだ汗をぬぐう。


 その時。



 ゴロゴロゴロ……。



 重たい車輪が砂利を噛む音と、鼻をつく馬の獣臭さが近づいてきた。

 振り返ると、荷馬車を引いた恰幅の良い行商人のおじさんが、汗を拭きながら立っていた。


「おはよう。こんな街外れに、随分と綺麗な家が建ったもんだな」


 おじさんは人の良さそうな笑顔で近づいてくる。

 その服からは、染み付いた汗と、果物が熟した甘酸っぱい匂いが漂ってきた。


 ミミの猫耳がピクリと動く。

 敵意はない。ただの世間話だ。


「これ、売り物のリンゴなんだけどさ。昨日の嵐で少し傷がついちまってね。よかったらお嬢ちゃん、一つどうだい?」


 おじさんは真っ赤なリンゴを差し出した。

 蜜の詰まった濃厚な甘い香り。


 ミミのお腹が小さく鳴った。


「えっ、いいんですか? ありがとうございます!」


 ミミが嬉しそうに手を伸ばす。


 その指先が。

 リンゴの皮に。

 触れようとした――その刹那だ。





 キンッ。





 ミミの耳奥で、鋭利な金属音のような耳鳴りが弾けた。


 直後。

 世界から「音」が消えた。


 小鳥のさえずりも、風の音も、虫の声も。

 すべてが、巨大なプレッシャーによって押し潰され、強制的に黙らされたような不自然な静寂。


 ――寒い。


 春の陽気だったはずの空気が、一瞬で氷点下まで下がったかのような錯覚。

 肌が粟立ち、産毛が逆立つ。



 口の中に、錆びついた銅貨を含んだような、不快な「鉄の味」が広がった。



「……ひっ?」


 ミミの喉がひきつる。

 

 殺気だ。

 それも、熟練の冒険者が一生に一度出会うかどうかの、濃密で純粋な「死の宣告」。


 あまりの圧迫感に、ミミの思考は白く染まる。


 どこから? 誰が?

 周囲を見渡そうにも、体がすくんで動かない。


 ただ、目の前の行商人のおじさんだけが、何かに射抜かれたように硬直していた。


「あ……あ、あ……」


 おじさんの瞳孔が極限まで開き、顔色が土気色に変貌していく。

 その視線は。


 ミミの背後――ではなく。

 ミミそのものに怯えるように釘付けになっていた。


 ガチガチガチッ!と、奥歯が噛み合わない音が響く。

 彼は見えないやいばを喉元に突きつけられたかのように、呼吸すら忘れて震え出した。


「い、命だけは……! 命だけはぁッ!!」




 おじさんはリンゴを放り投げると、脱兎のごとき速さで荷馬車に飛び乗った。

 馬に鞭を入れる音と、悲鳴だけを残して、彼は一目散に逃げ去っていった。


 後には、乾いた砂埃の匂いだけが残る。


「え……?」


 取り残されたミミは、足元に転がるリンゴを拾い上げた。

 まだ、指先が震えている。

 心臓の音がうるさい。


(今の殺気……まさか、私から出てたの……?)


 ここには私とおじさんしかいなかった。

 それなのに、おじさんは私を見て死ぬほど怯えて逃げ出した。


「わ、私……そんなに怖い顔で笑ってたのかな……」



 無自覚に人を威圧してしまったのだと勘違いし、ミミはショックで耳をぺたりと伏せた。

 ガラスの壁に映る自分の顔を不安そうに覗き込む。


 ひんやりとしたガラスに額を押し付け、ため息をつく。




 その殺気が。

 森の中から放たれた「過保護な愛」であることなど。


 彼女は、知る由もなく。






────────────────────

【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】


SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 4)


@氷結の獅子

害虫駆除完了。


@公式カメラマン

お疲れ。

だが団長、殺気を飛ばすのが早すぎる。

あのおっさん、泡吹いて気絶寸前だったぞ。

心拍数が致死ラインを超えてた。


@氷結の獅子

甘いぞ。

あの虫(行商人)、ミミちゃんに「毒リンゴ」を渡そうとした。

俺の眼は誤魔化せん。あれは明らかに致死性の猛毒が仕込まれた暗殺兵器だ。

その場で斬り捨てなかっただけ慈悲深いと思え。


@課金は酸素

解析完了しました。

ただのリンゴですね。

品種は「アンバー・ティア」。糖度14度、非常に甘くて美味しい高級品種です。

毒性反応、魔力反応ともにゼロ。完全なる白です。


@氷結の獅子

……なんだと?

だが、果肉の中にナノサイズの寄生虫がいる可能性が微粒子レベルで存在する!

ミミちゃんの口に入れるわけにはいかん!


@新入り聖騎士

もう、男どもはこれだから……。

ミミちゃんが「私、怖いのかな」って落ち込んでるじゃない!

ガラスに額をくっつけて、涙目になってるわよ。

どう責任とんのよ!


@公式カメラマン

安心しろ。

今の「しょんぼりミミちゃん(耳ぺたver)」の画像、破壊力が凄まじい。

これを街中のスクリーンに投影すれば、国民全員が「可愛いーー!!」と叫んで誤解は解ける。


@課金は酸素

それはやめなさい。国が滅びます。

とりあえず、そのリンゴは私が回収しましょう。


@新入り聖騎士

待ちなさい。

私が検食(毒味)するわ。

その上で、ウサギ型に可愛くカットして、綺麗なお皿に盛って玄関に置いておく。

そうすればミミちゃんも「森の精霊さんからのプレゼントだ!」って元気になるでしょ?


@氷結の獅子

……新入りにしては名案だ。

採用する。

ただし、リンゴの皮剥きは俺がやる。

見ていろ、秘剣『氷狼牙・連斬(フローズン・ファング)』の切れ味を。


@新入り聖騎士

やめなさいバカ!!

リンゴが分子レベルで消滅するでしょ!!


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