第6話 失敗作の王様ベッドと、段ボールの勝利
カーテンの安全地帯を確保したミミは、奥の部屋へと進んだ。
そこには、部屋の半分を埋め尽くすほどの巨大なベッドが鎮座していた。
真っ白で、雲のように膨らんだ布団。
あまりにも分厚く、見るからに高級そうだ。
だが、その枕元には無粋な張り紙があった。
『【試作品】
柔らかさを追求しすぎた結果、姿勢制御が困難なため廃棄予定。
※腰痛持ちの方はご遠慮ください』
「廃棄予定……? こんなにフカフカなのに?」
ミミは首を傾げた。
昨日の煎餅布団とは大違いだ。
これがタダで使えるなら、多少の寝心地の悪さなんて気にならないはずだ。
「えいっ!」
ミミは期待に胸を膨らませ、勢いよくベッドの中央へダイブした。
その瞬間。
ズブブブブブッ……!!
「――えっ?」
受け止められるはずの体が、止まらない。
柔らかいのではない。「底がない」のだ。
まるで底なし沼に足を踏み入れたように。
ミミの体は布団の奥深くへと吸い込まれていく。
「ふ、ふごっ!?」
視界が真っ白な羽毛に覆われた。
鼻と口が塞がれ、呼吸ができない。
手足をバタつかせても、掴む場所がなく空回りするだけ。
平衡感覚が狂う。
自分が仰向けなのか、うつ伏せなのかすら分からない浮遊感と圧迫感。
極上の羽毛が、生き物のように絡みつき、ミミを深淵へと引きずり込んでいく。
(た、食べられるぅぅぅ!?)
ミミは本能的な恐怖でパニックに陥った。
必死に尻尾を回転させ、もがきにもがいて、どうにかベッドの縁へと這い上がる。
「はぁッ、はぁッ……! し、死ぬかと思った……」
ミミは床に転がり落ち、荒い息をついた。
全身に脂汗が滲んでいる。
あんなの、ベッドじゃない。
処刑台だ。
涙目になりながら部屋を見渡すと、部屋の隅に。
引越しの荷解きで残されたであろう「段ボール箱」が置かれているのが見えた。
何の変哲もない、茶色くて薄汚れた箱。
ミミはフラフラと近寄り、その中に入ってみた。
――カサッ。
背中に当たる、粗野で硬い紙の感触。
狭くて薄暗い空間。
そして何より。
体重をしっかり支えてくれる「沈まない床」。
「……落ち着くぅ……」
ミミの震えが止まった。
やっぱり、これだ。
この「守られている感じ」こそが、今のミミには必要だったのだ。
彼女は段ボールの中で小さく丸まると。
ようやく安らかな寝息を立て始めた。
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【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】
SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 4)
@氷結の獅子
嘘だろ……。
@課金は酸素
おや。
興味深いデータが取れましたね。
@氷結の獅子
俺が! 北の果てまで遠征して!
三日三晩寝ずに追跡して狩った!
伝説の幻獣フェンリルの胸毛(最高級ダウン)だぞ!?
市場価格なら3億Gは下らない、国宝級の逸品だぞ!?
@公式カメラマン
それが「処刑台」扱いされてるな。
もがいてる時の必死な顔、最高だったぞ。
「食べられるぅぅ!」って涙目になる動画、スロー再生で見ると破壊力がすごい。
@新入り聖騎士
あーあ……。
ミミちゃん、完全にトラウマになってるじゃない。
あんたの愛が重すぎて、物理的に沈んでるのよ。
@氷結の獅子
納得いかん……!
なぜだ! なぜ3億Gの羽毛が、ただの古紙(段ボール)に負けるんだ!
あの箱、捨てようと思ってたゴミだぞ!?
@課金は酸素
落ち着きなさい、団長。
これは「猫属性」特有の習性です。
彼らは広大で不安定な空間よりも、狭くて密着感のある空間を「聖域」として認識する傾向があります。
つまり、貴方のベッドは高スペックすぎたのです。
@新入り聖騎士
見てよこれ。
箱の中で丸まって寝てる……。
捨て猫みたいで守ってあげたくなるわ……尊い……。
(写真保存しました)
@公式カメラマン
タイトル『箱入り娘(物理)』。
この箱ごとリボンをかけて持ち帰りたい。
@氷結の獅子
……くっ。
悔しいが、その寝顔を見せられたら何も言えん。
ゼル、次回の開発案件だ。
@課金は酸素
心得ています。
「最高級マホガニー材パルプ使用・魔導強化段ボールハウス」ですね?
至急、製紙工場を一件買収してきます。
[System Alert] -----------------------------
User: @氷結の獅子 has donated 150,000,000 G.
Comment: "段ボール開発費(全部使え)"




