第4話 安宿の洗礼と、破壊の足音
冒険者ギルドで紹介された「格安の宿」は、街の郊外、治安の悪いスラム街の入り口にあった。
ミミは軋む木の扉を開け、逃げ込むように部屋に入った。
「うっ……」
鼻をついたのは、湿った畳のような饐えたカビの臭い。
薄っぺらい壁の向こうからは、男たちの下卑た笑い声と、ガラスが割れる音が響いている。
ミミは震える手でドアノブに古びた椅子を立てかけ、簡易的なバリケードを作った。
(こわい……でも、ここしか泊まれる場所がないもん……)
煎餅布団にくるまり、膝を抱える。
その時だ。
――ドォォォォォン!!
突然、バリケード代わりの椅子が吹き飛び、ドアが蹴り破られた。
舞い上がる埃の中、酒臭い息を吐く大柄な男たちが3人、ニタニタと笑いながら侵入してくる。
「へへっ、なんだァ? 新入りの嬢ちゃんか?」
「俺たちが『冒険者のイロハ』を教えてやるよぉ!」
男の一人が、ミミの腕を掴もうと薄汚れた手を伸ばす。
圧倒的な体格差。逃げ場のない密室。
濃厚な酒と体臭がミミの鼻腔を侵す。
「いやっ……こないでぇッ!!」
ミミは悲鳴を上げ、部屋の隅へとしりぞく。
男の指先が。
ミミの猫耳に。
触れそうになった、コンマ1秒後。
視界が、青白い光に染まった。
――カッッッ!!!!
音すら置き去りにする閃光。
男たちが何かを言う暇もなかった。
天井も、壁も、男たちも。
一瞬で「消失」した。
「……え?」
ミミが目を開けると、そこには星空が広がっていた。
天井がない。
壁もない。
ミミが座っているベッドの周囲半径2メートルだけを残して。
宿屋がきれいさっぱりクレーターになって消滅していたのだ。
パラパラと、塵になった建材が雪のように降ってくる。
「や、宿が……老朽化で崩れちゃった……?」
ミミは星空の下、ポツンと残されたベッドの上で呆然と呟いた。
不思議と、男たちの姿は影も形もなかった。
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【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】
SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 4)
@氷結の獅子
死ね。
@新入り聖騎士
ああああああああああああああああ!!!!(発狂)
触るな!! その汚い手で私の天使に触れるな!!
殺す殺す殺す殺す殺す今すぐ行く殺す!!!!
[スタンプ:断首]
@公式カメラマン
遅い。
もうやった。
@氷結の獅子
は?
@公式カメラマン
俺の影縫いで拘束した瞬間に、あの『極大消滅魔法』が着弾した。
宿ごと消し飛びやがったぞ。
@課金は酸素
当たり前です。
あの害虫ども、ミミちゃんの半径50センチ以内に侵入しました。
これは国家反逆罪および惑星侮辱罪に該当します。
ピンポイントで殺ると血飛沫がミミちゃんの服につくので、建物ごと分子レベルで分解しました。
@新入り聖騎士
やりすぎよバカ!!
ミミちゃんが瓦礫の下敷きになったらどうすんの!?
@課金は酸素
計算済みです。
彼女の座っているベッド周辺のみ、結界強度を最大にして保護しました。
見てください、あの星空の下でキョトンとしている姿を。
@公式カメラマン
……いい画だ。
「瓦礫と星空と美少女」。
退廃的で芸術点が高い。サムネイル確定。
@氷結の獅子
いや待て。
宿を消し飛ばしたのはいいが、これ事後処理どうすんだ?
普通に犯罪だぞ。
@課金は酸素
問題ありません。
たった今、ギルドを通して「この土地の買い取り手続き」と「解体工事の申請書(事後)」を提出してきました。
オーナーには「老朽化で倒壊したことにしてくれれば、相場の10倍払う」と伝えたら、土下座して感謝されましたよ。
[System Alert] -----------------------------
User: @課金は酸素 has donated 100,000,000 G.
Comment: "土地代および口止め料"
@新入り聖騎士
あんたたち、本当に頭おかしいわ……(褒め言葉)。
で、どうすんの? ミミちゃん、家なくなっちゃったけど。
@氷結の獅子
ちょうどいい。更地になったな。
ここに建てるぞ。
俺たちの総力を結集した『最強のマイホーム』を。
今すぐにだ。
@課金は酸素
了解。
建築部隊、転移ゲート開門。
朝までに仕上げます。




