第24話(番外編) 協定の名は『至高のミミちゃんを見守る会』
王都近郊の森、その最も深く暗い場所。
普段は高ランクの魔物すら近寄らない「禁足地」に、三人の男たちが対峙していた。
騎士団長レオン。
暗殺ギルド長シャドウ。
宮廷筆頭魔導師ゼル。
この国の「武力」「情報」「知力」の頂点に立つ三人が、今まさに殺し合い寸前の殺気を放っていた。
「……おい、レオン」
口火を切ったのは、全身黒ずくめのシャドウだ。
彼の口元には、クッキーの食べカスと、砂糖に群がるアリのような甘ったるい匂いが漂っている。
「その顎に貼っている汚い葉っぱはなんだ。見苦しいぞ」
「……フッ」
レオンは顎に貼られた――変な粘液でベトベトの雑草――を、まるで勲章のように指でなぞった。
「貴様には分からんか。これは『契約の刻印』だ。
彼女は俺の傷を癒やすために、自らの魔力(ただの息)を吹き込み、この呪符(雑草)で封印したのだ。
俺は選ばれたのだよ。この痛み(痒み)こそが、絆の証だ」
「……滑稽ですね」
冷たく吐き捨てたのは、ゼルだ。
彼はシルクのハンカチで包んだ「何か」を、赤子を抱くように大切に持っている。
「雑草ごときでマウントを取らないでいただきたい。
見なさい、この『賢者の石(ただの石英)』を。
彼女は私にこれを無償で譲渡した。
私の鑑定スキルが『測定不能』を吐き出した、正真正銘のプライスレス・アイテムです。
つまり、彼女にとって私は『計算できないほど特別な存在』ということです」
「は? ただの石ころだろ。眼科に行け」
「黙れ筋肉。貴様こそ皮膚科に行け」
一触即発。
最強の三人が、互いの「勘違い」を武器に殴り合おうとした、その時だ。
――くしゅんっ。
数十メートル先の茂みの向こうから。
小動物のような、可愛らしいくしゃみが聞こえるその刹那。
三人の動きが、コマ送りのように止まった。
視線の先には、花摘みをしているミミの姿があった。
彼女は薄着で、森の冷気で鼻先を赤くしている。
(((……寒いのか?)))
三人の脳裏に、同じ思考が閃いた。
打ち合わせなどない。
だが、彼らの体は思考よりも速く、最適解を叩き出していた。
ドォォォォォォンッ!!
大気が爆ぜた。 レオンが音速を超えて移動し、衝撃波を置き去りにしてミミの風上に“転移”したのだ。
「……風ごときが、彼女の肌に触れると思うな」
彼が展開したのは、対城塞宝具をも防ぐ固有スキル『絶対守護領域』。
本来ならドラゴンのブレスすら無効化する不可視の障壁が、たかが北風を防ぐためだけに最大出力で展開され、風の運動エネルギーを「ゼロ」へと還元した。
(※物理防御:神域)
キィィィィィィン……!!
ゼルが十本の指すべてを複雑に動かし、空中に数百もの幾何学魔法陣を同時展開した。
「気温低下を確認。……チッ、世界の設定を書き換えます」
発動したのは、古代禁呪『惑星環境制御』の局所限定版。
国家一つを維持できるほどの膨大なマナを一瞬で溶かし、ミミの周囲半径3メートルだけの「湿度」「気圧」「酸素濃度」を、黄金比率の「春」へと強制固定する。
(※環境制御:創造神レベル)
シュバババババババババッ!!!!
シャドウの姿が消えた。いや、高速移動により数百体にまで「分身」していた。
「その一瞬……永遠に止める」
秘奥義『時空間断絶撮影』。
コンマ0.1秒のくしゃみの瞬間を、時間を停止させた空間内で、上下左右360度すべてのアングルから同時撮影する。
宙に舞う唾の水滴すらも、ダイヤモンドのような輝きとしてフィルムに焼き付ける神業。
(※記録保存:アカシックレコード級)
「……ん?」
ミミが顔を上げた。
風が止み、急に暖かくなったことに気づいたようだ。
彼女はキョロキョロと周囲を見回す。
その視線が、三人が隠れている茂みを通過する。
ドキリ。
最強の三人が、息を止めて身を固くした。
見つかるか?
だが、ミミの視線は何も捉えなかった。
彼女は茂みの揺れを「風のいたずら」程度にしか認識できず、首を傾げただけだった。
「……あれぇ? 気のせいかな。
まあいっか! お花いっぱい採れたし、帰ろっと!」
ミミはニコニコと笑うと、鼻歌交じりにその場を去っていった。
背後に、国を揺るがす戦力が潜んでいることなど、露ほども気づかずに。
その無防備な背中は、「誰かが守らなければ、次の瞬間にでも転んで死にそう」なほど危なっかしかった。
……静寂が戻った森。
茂みから這い出した三人は、遠ざかるミミの背中を見つめていた。
「……見たか、あの無防備さを」
「ああ。風が吹けば飛び、石があれば転ぶ。あまりに脆い」
「……放っておけませんね。これは国家レベルの損失リスクです」
レオンが、顎の葉っぱを撫でながら重々しく言った。
「俺の剣は、彼女への物理的脅威を排除するためにある」
ゼルが、石ころを懐にしまいながら眼鏡を光らせた。
「私の魔法と財力は、彼女の生活環境を整えるために使いましょう」
シャドウが、現像されたばかりの写真を胸ポケットに入れた。
「俺の技術は、あの一瞬の輝きを永遠に残すために捧げよう」
三人の視線が交差する。
もはや、敵対心はなかった。
あるのは、狂気にも似た共通の使命感のみ。
ガシッ。
三つの手が、力強く握られた。
「協定を結ぼう。
我々の目的は一つ。彼女の『平穏な寝顔』を、影から全力で守り抜くことだ」
「異存はない」
「合理的ですね」
こうして。
後に伝説として語られる裏組織――『至高のミミちゃんを見守る会』――が、人知れず爆誕した。
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【裏トーク:至高のミミちゃんを見守る会】
[System Boot Sequence...]
Loading... 10%... 50%... 100%
Encryption: Divine Class (God Tier)
Server: ESTABLISHED.
Welcome to "The Sanctuary".
[Login: @課金は酸素 (Admin)]
[Login: @氷結の獅子]
[Login: @公式カメラマン]
@課金は酸素
諸君、ようこそ。
これが先ほど森で誓った協定を具現化する、我らだけの「円卓」です。
国家機密費を裏で回して構築しました。
ここなら、体裁を気にせずに思う存分語れます。
@氷結の獅子
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!(初回ログイン絶叫)
[System Alert] -----------------------------
Error: Text Limit Exceeded (Too Loud)
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@氷結の獅子
ッハァ……ッハァ……ッ!!(過呼吸)
すげえ!! 繋がってる!!
脳内に直接文字が!!
見たか!?
今の!!
あの「くしゅん」という、世界を浄化する福音を!!
@公式カメラマン
うるさい、騎士団長。
静かに尊死しろ。
……だが、同意する。
あれはくしゃみではない。「魂の洗濯」だ。
@氷結の獅子
危なかった……。
俺の反応がコンマ1秒遅れていたら、汚らわしい「北風」が彼女の柔肌を撫でるところだった。
「大気」そのものを物理的にパリィしてやったわ。
@課金は酸素
やりすぎです、脳筋。
貴方が大気を弾き飛ばすから、真空断熱が発生して気温が下がったんですよ。
おかげで私が、半径3メートルの物理法則を書き換える羽目になりました。
消費マナ量、小国3つ分です。請求書、回しておきますね。
@氷結の獅子
安いもんだ。国ごと払ってやる。
それよりシャドウ!
「アレ」はあるんだろうな?
俺が物理法則をねじ伏せ、ゼルが季節を創造した、その瞬間の「奇跡」が。
@公式カメラマン
愚問だな。
「くしゃみ」の初動から終了まで、0.0001秒刻みで50,000枚だ。
[System Alert] -----------------------------
Uploading File...
Title: "Holy_Angel_Sneeze.raw" (Uncompressed / 900TB)
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@公式カメラマン
見ろ。
No.24586のカットだ。
小さく閉じた瞼のシワ。
ゼルの魔法で温められた呼気が、桜色のオーラとなって漂っている。
そして何より、宙に舞う「唾液の飛沫」……。
これは水分ではない。ダイヤモンドダスト(聖水)だ。
@氷結の獅子
ッ!!!!(絶句)
神か。
この飛沫になりたい。
いや、この飛沫を受け止めて蒸発する地面になりたい。
いくらだ? 国家予算か? 俺の領土か? 全部持って行け!!
@課金は酸素
では、サーバー維持費(初期費用)として徴収します。
[System Alert] -----------------------------
User: @氷結の獅子 has donated 5,000,000,000 G.
Comment: "実質タダだ。高画質版をよこせ"
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@課金は酸素
……まいどあり。
これにて、我々の協定は結ばれました。
「物理排除」のレオン。
「環境保存」の私。
「記録」のシャドウ。
全ては、彼女の平穏な日常(と寝顔)を守るために。
@氷結の獅子
ああ。
今日からここが、俺たちの戦場(最前線)だ。
@公式カメラマン
異存はない。
……おっと。ミミちゃんが「お腹すいた」と呟いたぞ。
解散だ。晩飯の準備(狩り)に入る。
@氷結の獅子
よし。
食材は俺が行く。
北の山脈にいる「S級霜降りベヒモス(災害指定種)」でいいな?
行って帰って、解体まで15秒で終わらせる。
@課金は酸素
では、私は「幻の黄金米」を田んぼごと空間転移させておきます。
遅刻厳禁ですよ。
@公式カメラマン
了解。
俺はすでにキッチンの床下に潜伏完了している。
いつでも来い。
[System Log] -----------------------------
Meeting Adjourned.
Status: DEFCON 1 (Watching Forever)
【作者より】
ここまで番外編をお読みいただきありがとうございます!
また面白いお話が書けたら随時公開させていただきます。
今後も応援よろしくお願いします!
最後に「至高のミミちゃんを見守る会」の皆様へのお知らせです。
ミミちゃんへの愛(と狂気)を英雄たちと共有できるWebアプリ(裏チャット体験)をご用意しました!プロフィールでアプリの仕様やWebアドレスをご紹介させていただいております。
【プロフィールはこちら】
https://mypage.syosetu.com/mypage/profile/userid/3015166/
ブラウザで動くので、ぜひ覗いてみてください。皆様の「ミミちゃん愛」を英雄たちにぶつけ合える場所になっています。 アプリの感想やご要望もお待ちしています!










