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第21話(番外編) 氷の絶対零度は、一枚の葉っぱで溶解する

番外編『エピソード・ゼロ』

至高のミミちゃんを守る会のメンバーとミミちゃんの出会いを描いた物語になります。

 その日、王都近郊の森は、針で刺すような緊張感に包まれていた。


 騎士団長レオンは、一人で森を歩いていた。

 彼の周囲だけ気温が極端に低く、草木が霜を纏ってカサカサと乾いた音を立てる。


 彼が放っているのは、魔物すら裸足で逃げ出すほどの濃密な「殺気」だった。


 だが、その理由は魔物討伐ではない。

 彼のあごにある。


 今朝の髭剃りの際、手元が狂ってつけてしまった――わずか5ミリの切り傷。


(……不覚。一生の不覚だ)


 喉の奥に広がる、微かな鉄の味。

 「氷の貴公子」と謳われる自分が、カミソリ負けで血を滲ませているなど、あってはならない失態だ。


 誰にも見られてはならない。

 だからこそ、彼は人を寄せ付けないよう、全力の殺気(拒絶)を撒き散らしていたのだ。



 ガサッ。



 茂みが揺れた。

 レオンは鋭い眼光でそこを睨みつける。


「……誰だ。去れ。今の私は機嫌が悪い」


 現れたのは、ボロボロの服を着た猫耳の少女――ミミだった。

 薬草採りの最中なのだろう。泥だらけの手で籠を持っている。


 レオンの殺気を受け、彼女の猫耳がピクリと震えた。

 普通の人間なら、このプレッシャーだけで泡を吹いて気絶するはずだ。



 しかし。

 少女は逃げなかった。

 それどころか、琥珀色の瞳を潤ませ、おずおずと近づいてくるではないか。


(……なんだ? 私の『絶対氷壁(威圧)』が通じないだと?)


 レオンが警戒して剣の柄に手をかけた、その時。

 ミミが目の前に立ち、小さな手を伸ばしてきた。


「……いたいの、いたいの……」


 彼女はポケットから、ドロリとした粘液を滴らせる緑色の葉っぱ(雑草)を取り出した。

 鼻を突く青臭い匂い。



 ペタン。


 レオンが反応するよりも速く。

 その葉っぱが、顎の傷口に押し当てられた。


「……とんでけー!」


 フゥーッ。


 少女が、柔らかな唇を尖らせて息を吹きかける。

 甘いミルクのような香りの吐息が、ヒリヒリする傷口を撫でた。



 ドクン。



 レオンの心臓が、早鐘を打った。

 

 冷え切っていた体に、熱湯を注がれたような衝撃。

 痛みは消えていた。

 代わりに、葉っぱの粘着質な感触と、彼女の体温だけが、焼き印のように肌に残る。


「……えへへ。これでもう大丈夫だよ! おじさん!」


 ミミは満面の笑みを浮かべると、パタパタと手を振って森の奥へ去っていった。


 残されたレオンは、呆然と立ち尽くしていた。

 顎に、変な粘液まみれの雑草を貼り付けたままで。



「……『おじさん』……?」


 その言葉すら、今の彼には「聖なる洗礼名」のように響いていた。

 彼は震える手でインカムを起動した。

 報告しなければならない。


 この、胸を焦がす未知の「熱病」について。




────────────────────

【極秘通信ログ:暗号化回線(Level 5)】


送信者:レオン(騎士団長)

受信者:ゼル(宮廷魔導師)


レオン:

緊急事態だ。ゼル、応答しろ。

森で未知のS級精神干渉を受けた。


ゼル:

……団長ですか?

今日は非番のはずでは。

「精神干渉」とは? 貴方の精神耐性は竜の咆哮すら無効化するはずですが。


レオン:

突破された。

無詠唱、かつ物理接触だ。

対象は猫人族の少女。推定年齢14歳前後。

彼女は私の『殺気』の結界を、「痛みを堪える震え」と誤認して接近してきた。


ゼル:

誤認……?

いえ、それは高度な偽装ブラフの可能性がありますね。

貴方の隙を突くための計算でしょう。

で、何をされたのですか? 刺されましたか?


レオン:

封印を施された。

顎の傷口に、未知の魔力を含んだ「緑色の術式媒体(葉っぱ)」を貼られた。

粘着性が異常に高い。剥がそうとしても指に絡みついて離れない。

これは……「隷属の契約印」かもしれん。


ゼル:

……はぁ。(ため息)

ただのネバネバした雑草では?

解析班を回しましょうか?


レオン:

いや、待て。

もっと恐ろしい攻撃を受けた。

彼女は術式発動の際、呪文を唱えた。

「イタイノ・イタイノ・トンデケー」……古代語魔法か?

直後、口から「絶対零度のブレス(フゥーッ)」を至近距離で浴びせられた。


ゼル:

……団長。

それは一般的に「おまじない」と呼ばれる行為です。

幼児がよくやるやつです。


レオン:

違う!!

現に、私の心臓が痛い!!

ブレスを受けた瞬間から、動悸が止まらないんだ!

熱い……胸が焼けるように熱い。

これは遅効性の猛毒か!? それとも心臓掌握の呪いか!?

ゼル、今すぐ文献を当たれ! このままでは私が私でなくなってしまう!


ゼル:

……。

(こいつ、チョロすぎませんか?)


ゼル:

わかりました。

その少女、非常に危険な「魔女」の可能性がありますね。

精神支配マインド・コントロールの使い手かもしれません。

私が直接出向く前に、まずは「目」を送りましょう。


レオン:

目?


ゼル:

暗殺ギルドの長、シャドウです。

彼なら、感情に流されることなく、その少女の正体を冷徹に見極められるでしょう。

もしクロなら、その場で処理させます。


レオン:

待て!!

殺すな!!

もし彼女に傷一つつけたら、俺がシャドウを殺す!!


ゼル:

(……もう手遅れですね、この人)


[System Alert] -----------------------------

Mission Order Issued:

Target: Unknown Cat-girl

Agent: Shadow (Assassin Guild Master)

Objective: Surveillance & Assessment

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読んでくれてありがとう!.jpg

── あとりえむ 作品紹介 ──

監査の魔王 S級清掃員 地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 至高のミミちゃんを見守る会

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