表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『家賃500Gの欠陥住宅』に住み始めたら、S級英雄たちが勝手に『聖域』認定して国家予算を溶かし始めた件 ~魔王軍が「推し活」の邪魔だと秒殺されていくのですが、私の勘違いでしょうか?~  作者: あとりえむ
【第一章】S級英雄たちの過保護が加速して、欠陥住宅(標本箱)が世界一安全な聖域になりました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/17

第2話 人喰い箱と、箱入り猫娘の誤算

 地下遺跡特有の、カビと埃が混じった澱んだ空気が、ミミの鼻腔をくすぐる。

 天井から滴る水滴が、ピチャン、と冷たい音を立てて水溜まりを揺らしていた。


 冒険者として依頼を受けたミミは、薄暗い回廊を慎重に進んでいた。

 その時だ。松明の明かりが、部屋の隅にある「それ」を照らし出した。


「あ……宝箱……」


 木製の古びた箱だ。

 本来なら、罠を警戒すべき場面である。


 しかし、ミミの猫人族キャット・ピープルとしての本能が、理性とは別の回路で反応してしまった。


(ちょうどいい大きさ……)


 金銀財宝が欲しいわけではない。

 ただ、その「手頃なサイズ感」と「囲われている安心感」への渇望が、ミミの足をふらふらと引き寄せる。


 あの中に入ったら、きっと落ち着くに違いない。

 背中を丸めて、みっちりと収まりたい。


 ミミは吸い込まれるように箱の前に立つと、蓋に手を掛けた。

 中身が空なら、ちょっとだけ入ってみよう。

 そう思って、無防備に蓋を開け放つ。



 ――ギチチチチ……。



 蝶番ちょうつがいが悲鳴のような金属音を上げた。

 箱の中から漂ってきたのは、財宝の輝きではなく、鼻が曲がりそうな腐肉の悪臭と、生温かい湿気。


「え……?」


 ミミが覗き込んだ暗闇から、紫色の巨大な舌がぬるりと伸びた。

 宝箱のふりをした魔物、人喰いミミックだ。


 粘液にまみれた舌が、ミミの足首にべっとりと巻き付く。

 肌に張り付く不快な冷たさと、重い力。


「いやぁっ!?」


 ミミは悲鳴を上げたが、足が滑って踏ん張れない。

 箱の内側にびっしりと並んだ鋭利な牙が、涎を垂らして獲物を待ち構えている。


 咀嚼音が聞こえてきそうなほど、死の気配が濃厚に迫っていた。


(た、食べられる……! 噛み砕かれるぅ……!)


 「カチッ、カチッ」と牙を鳴らす音。

 ミミは涙目で必死に床を掻いたが、ズルズルと引きずり込まれていく。

 もうダメだ。暗い箱の中で、ぐちゃぐちゃにされて終わるんだ。


 絶望がミミの思考を塗りつぶしかけた、その瞬間。



 ――ドォォォォォォン!!



 轟音と共に、視界が真っ白に染まった。

 何かが音速を超えて飛来し、ミミックの核を一撃で貫いたのだ。

 断末魔を上げる暇もなく、魔物は内側から爆散し、炭化して崩れ落ちた。


「けほっ、けほっ……」


 爆風に煽られ、ミミはその場にぺたんと尻餅をつく。

 何が起きたのか分からない。

 ただ、黒焦げになった箱の残骸と、足首に残る嫌な感触だけが現実だった。


「ま、また助かった……?」


 ミミは震える手で、粘液で汚れた自分の足をさする。

 誰かは分からないけれど、また守られたのだ。


 ミミは涙を拭うと、誰もいない虚空に向かって「ありがとうございます……」と小さく呟いた。





────────────────────

【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】


SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 3)


@氷結の獅子(騎士団長)

ふざけるなッッッ!!!!(激怒)

あの汚物ミミック!!

ミミちゃんの聖なる足首を舐めやがった!!

殺す。

もう殺したけど。

蘇生班どこだ。生き返らせろ。もう一回殺すから。

今から軍隊派遣してあの遺跡ごと浄化(物理)してくるわ。


@公式カメラマン(暗殺者)

ステイ、団長。ステイ。


@氷結の獅子

止めないでくれ!!

ミミちゃんが泣いてただろ!? 『いやぁっ』って!!

あれは恐怖の叫びだ! 俺の鼓膜には『レオン様助けて、愛してる』と変換されて聞こえたがな!!


@課金は酸素(魔導師)

それは病院に行った方がいいですね。

ですが団長、まずはこの解析動画を見てください。

@公式カメラマン、例のシーンを。


@公式カメラマン

了解。

ハイこれ。ミミちゃんが箱を開ける直前のスロー映像。

注目すべきは playback time 00:12。

彼女のお尻の動き。


@氷結の獅子

……ん?

箱の前で……お尻をふりふりしてる……?

これは、ジャンプする前の予備動作か?


@課金は酸素

正解です。

猫科の生物が、獲物に飛びかかる前や、狭い場所に飛び込む前に行う特有のルーティン、通称『ウィグル(Wiggle)』ですね。

つまり、彼女はミミックに襲われたのではありません。

――『手頃な箱があったから、自ら入居しようとしていた』――のです。


@氷結の獅子

な、なんだってー!!?(AA略)


@公式カメラマン

つまりミミちゃん視点では、あれは捕食されかけたのではなく『内見』。

あるいは『ここをキャンプ地とする』という決意表明。

もしあの中身がミミックじゃなくて普通の空箱だったら、今ごろ箱にみっちり詰まった『箱入りミミちゃん』が見れたはずなんだ……。

俺は……俺は、その『みっちり』を撮影したかった……ッ!(血涙)


@氷結の獅子

そ、そうだったのか……。

可哀想に……あんなにウキウキでお尻を振っていたのに、中身がオッサン(魔物)だったなんて。

これは悪質な不動産詐欺だ。やっぱり遺跡を焼き払うしかない。


@課金は酸素

短絡的すぎます。

要は、彼女が満足する『最高のおボックス』があればいいんでしょう?

私が開発しましょう。

最高級ベルベット張りの内装、空調完備、自動移動機能付きの『対衝撃・魔導段ボール箱』を。

次回の冒険で、さりげなく道端に置いておきます。


[System Alert] -----------------------------

User: @氷結の獅子 has donated 80,000,000 G.

Comment: "開発費(至急頼む)"


@公式カメラマン

仕事が早い。

とりあえず、今日の『お尻ふりふり(入居検討中)』の動画は、高画質補正をかけてアーカイブに保存しました。

サムネイル画像は『奇跡のバックショット』にしておきます。


@氷結の獅子

神。

あとで俺の個人端末にも転送しておいてくれ。

……はぁ、それにしても。

あのミミックの舌に巻き付かれた時の、怯えた表情も……正直、ゾクゾクするほど可愛かったな(小声)。


@課金は酸素

団長、マイク入ってますよ。

とりあえずミミック討伐の特別報酬という名目で、ミミちゃんの口座に『精神的苦痛への慰謝料(5,000万G)』を匿名で投げ銭しておきますね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ