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『家賃500Gの欠陥住宅』に住み始めたら、S級英雄たちが勝手に『聖域』認定して国家予算を溶かし始めた件 ~魔王軍が「推し活」の邪魔だと秒殺されていくのですが、私の勘違いでしょうか?~  作者: あとりえむ
【第二章】魔王軍続々襲来!?解釈違いの聖戦(レスバ)に巻き込まれて、いつの間にか伝説の演武を披露していました。

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第18話 深呼吸の報酬は、国を焼くスタンプカード

「……はいて~!」


 ふぅーっ。


 ミミが長く、細く息を吐き出す。

 肺の中の澱んだ熱がすべて外へ逃げていき、代わりに森の湿った涼気が喉を通り抜ける。

 隣に並ぶゼファーとヴォルギルも、まるで毒気が抜けたように肩を落とし、深く息を吐いた。


 チチチ……。

 小鳥のさえずりと、葉擦れの音だけが響く。

 嵐のあとのような、清々しい静寂だった。




 ピクリ。




 ミミの頭上の猫耳が、不自然な「風切り音」を捉えた。

 風もないのに、頭上からヒラヒラと薄い物体が舞い落ちてくる気配。


(ん? なんか甘い匂いがする?)


 鼻をくすぐったのは、濃厚な樹液の香りと、なぜか肌がピリピリするような静電気の刺激。



 ミミが見上げると、三枚の紙がひらりと目の前に落ちてきた。

 それは見たこともない、黄金色に輝く不思議な質感の紙だった。

 表面は爬虫類の革のように滑らかで、指で触れるとほんのりと温かい。


 中央には、真っ赤なインクで大きな「は・な・ま・る」のスタンプが押されている。



「わぁっ! これ、精霊さんからのプレゼントだ!」


 ミミは目を輝かせた。

 頑張って運動したから、森の精霊さんがご褒美をくれたに違いない。

 紙からは、焼きたてのパンのような幸せな熱気が伝わってくる。


「はい、これは二人の分! 一緒に頑張った証だね!」




「こ、これは……師匠からの、免許皆伝書……!?」

「なんと……俺たちごときを、認めてくださるというのか……!」




 二人は感涙し、その黄金の紙を両手で押し頂いた。

 絶対に離さない、という強い意志を込めて、ギチチッと音がするほど強く握りしめる。


「ふふ、大事にしてね! それじゃあ私、汗かいちゃったからお風呂に入ってくるね! 行こう、ロボさん!」


 ガション。

 背後で待機していた段ボールロボが、ミミに合わせて駆動音を鳴らす。

 ミミはロボと一緒に軽やかな足取りで家の中へと消えていった。




 パタン。




 玄関の扉が閉まる音。




 その瞬間、ゼファーとヴォルギルの瞳から、ピンク色の光(洗脳)が急速に薄れていった。


「……あ? 俺は、何を……?」

「馬鹿な、俺は王都を燃やしにきたはず……なぜこんなところで直立不動を……」


 我に返った二人は、顔を見合わせた。

 そして、自分たちのてのひらが「異常に熱い」ことに気づく。


 視線を落とすと、握りしめた黄金の紙が、ドクン、ドクンと脈打っていた。

 精緻な魔導ルーン文字が、赤黒く発光している。


 ――『戦略級殲滅魔法・極光プロミネンス・ノヴァ 起動式』。


「……おい、ゼファー」

「なんだ、ヴォルギル」

「この紙の素材、世界樹ユグドラシルの生皮だよな? しかもこのルーン、少しでも圧力をかけると起爆する信管になってないか?」

「……ああ。そして俺たちは今、感極まってこれを全力で握り潰している」




 二人の顔から血の気が引いた。

 手の中の紙が、臨界点を超えた高周波を放ち始める。

 キィィィィィィン……!


「ちょ、まッ――」

「ふざけんなああああああああッ!!」





 カッッッ!!!!





 音が、消えた。

 森の一角から、天を衝くような巨大な光の柱が昇った。

 爆風はない。ただ、圧倒的な熱量がその場にあった「不純物」を原子レベルで分解し、空の彼方へ浄化していった。





 ――場面は変わり、王都の玉座の間。


 崩れかけた天井から瓦礫が落ちる中、魔王(本体)が玉座に座り、苛立ちに指を叩きつけていた。


 その隅には、地下シェルターから這い出してきた大臣たちが並んでいる。


「遅いぞ英雄ども!! 貴様らが遊び呆けている間に、国が滅ぶところだったのだぞ!!」

「騎士団長は何をしている! 説明しろ!!」



 罵声を浴びる中、重厚な扉が開かれた。




 現れたのは、涼しい顔をしたレオン、ゼル、クリスティーナの三人。

 どこか「一仕事終えた」ような清々しい空気を纏っている。


 レオンは冷ややかな瞳で大臣たちを一瞥すると、静かに言い放った。



「騒ぐな。耳障りだ」



 絶対零度の声に、大臣たちが氷漬けになったように黙り込む。


「『脅威』は排除した。森の方角を見ろ。あの浄化の光が証拠だ」

「なっ……魔王軍の幹部を一撃で……!?」

「そうだ。我々は常に、国家存亡に関わる『最優先防衛対象』の護衛にあたっていた」


 レオンはマントを翻し、玉座の魔王へと視線を向ける。


「さて……残るはお前だけだな、魔王。さっさと終わらせるぞ」




(急がねばならん。ミミちゃんの入浴タイムまであと10分……湯冷めする前に戻らねば)




 氷の貴公子の仮面の下で、限界オタクの魂が焦燥に駆られていた。






────────────────────

【裏トーク:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 5)】


@氷結の獅子

……ふぅ。 見たか。最後の深呼吸。 肺の空気を出し切った瞬間の、あのか弱き肩のライン……。 世界遺産だ。 国連に通報して保護結界を張れ。


@新入り聖騎士

無理! 尊死! もう私、この土になる! 来世はミミちゃんの家の庭の「微生物」になって、彼女の足跡を分解して一生を終えたい……。


@課金は酸素

……ミミちゃん退室(入浴へ)。 これより入浴RTA開始。 ターゲット:湯上がりのフルーツ牛乳(腰手ポーズ)。 猶予:10分。 ――転送シーケンス起動。


@氷結の獅子

……ハァ。面倒だな。 せっかつくの余韻が台無しだが……仕方ない。 おいゼル、クリスティーナ。行くぞ。ちゃっちゃと片付けて戻る


@新入り聖騎士

はーい。 待っててねミミちゃん! マッハで世界救ってくるから!


@課金は酸素

転移ゲート接続。座標:王都・玉座の間。 ――転送テレポート


[System Alert] -----------------------------

Teleportation: COMPLETE Loc: Royal Capital [Throne Room]


@公式カメラマン

着弾確認。 いい「花火」だ。 最高の逆光ですね。深呼吸の余韻に浸るには絶好の照明です。


@氷結の獅子

ああ。こっちも特等席だ。 魔族の悲鳴をBGMに眺める景色は格別だな。


[System Alert] -----------------------------

User: @Demon_General_Bugs joined automatically.


@Demon_General_Bugs

……おい。おい待て

窓の外の光もヤバいが……

なんでお前ら、もう玉座の間にいるんだよ!?

今、扉を蹴破って入ってきたの、お前らだよな!? 俺、魔王様ボスの横にいるんだけど!?


@課金は酸素

……チッ(舌打ち)。


[System Alert] -----------------------------

User: @Demon_General_Bugs was KICKED by Admin (@課金は酸素).

Reason: Disturbing the Milk Inventory Check


@課金は酸素

静かになりました。 バグズさんの絶叫で、『爆乳ホルスタイン牧場』の在庫データベースへのPing値が2ms遅れるところでした。 危ないところです。


@公式カメラマン

ナイス判断です、ゼル殿。 コンマ1秒のラグが「売り切れ」に繋がりますからね。 では私は聖域防衛に集中します。――残り時間、9分30秒。


@氷結の獅子

了解した。 ……さて、通信環境(雑音)も改善したことだ。 仕事(掃除)だ。 ここを更地にして、牧場経由で帰宅する。 特濃フルーツ牛乳が売り切れる前に終わらせるぞ。


@新入り聖騎士

りょうかーい! じゃあ、城が壊れてパパの資産価値が下がる前に「秒」で溶かすわね!


@氷結の獅子

ああ。 「推し活」の前では、魔王など道端の石ころ以下だ。 ――総員、抜刀。 邪魔だ魔王、そこをどけ。牛乳が買えん。

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