冒険者登録
「何で、こんな小さくなってるんだオレは」
見た目は5から6歳になってしまった自身の体をまじまじと見て知導は絡新婦に疑問を投げかける。
「神様の力も関係ありますから」
「神?」
「子供は7つまで神様の預かりものなのはご存じですよね?」
絡新婦の言葉のに頷く。
「完結に言いますと、知導様のお身体は修復不可能。しかし私の願いにはアナタが必要不可欠。なので大妖怪は神に口利きをしたのです。転生させるには神のものとして身体を構築する必要があったので」
「神に構築された身体……俺は人間じゃなくなったのか?」
「それはわかりません。なのでこれから冒険者ギルドに向かいましょう」
「いや、その顔。何か知ってるだろ」
ニコリと微笑み絡新婦は知導を抱き上げ草原の道のない道を迷うことなくスタスタと歩き出した。
「説明しろ絡新婦」
「まずは収入源を得る事、冒険者登録をし、モンスターを狩りお金を得るのを最優先に動くべきかと」
「本当に別の世界なんだな……って、なんでそんなに詳しい?」
「日常的な知識は神様から教えていただいたので」
「俺も欲しいわ。何で教えないんだよ」
「知導様には私がいますので。片時も離れることなく。それに幼子が大人の日常的知識を持っていても不思議がられますし」
「後者はどうでもいいわ!」
「おや、片時も離れないのはよろしいんですね」
「……うるさい」
知導はそっぽを向き絡新婦から目を背ける。そんな子の様子に絡新婦は愛おしそうにその柔らかな髪を撫でた。
――――
街に入ると露店が並び、まるで朝市のような賑わいだった。
これが異世界の街の日常なのだろう。
知導は絡新婦に抱えられながら辺りを見渡す。
「分からない文字だけど読めるな」
「神様の恩恵です。不便ですからね」
「ようこそ冒険者ギルドへ!依頼ですか?」
「いいえ、今日はこの子と一緒に登録死に来ました」
「えっ?」
受付嬢の笑顔が固まる。
しかしそれは数秒で、咳払いをし、彼女は説明を始めた。
「そんな軽装で無防です。まずは講習を受けてからに……」
「その必要はありません」
「いいえ、あります。その子のためにも」
じっと見つめる受付嬢に絡新婦はため息をつく。
「……わかりました。では、AランクかBランクの冒険者と手合わせして勝ったら登録してもらえますか?」
―――
「で、呼ばれたのか俺はっ!」
「暇してましたよね?アエンさん」
「してたけども……こんなヒョロヒョロな奴と戦うのか?折れない?」
「そこは手加減してください」
「んな無茶言うなよリリーちゃん」
気乗りしなさそうに頭をかく大鬼のような男。
「俺はBランク冒険者、鬼人族のアエンだよろしく頼む」
「私は絡新婦、こちらは知導様ですよろしくお願いいたします」
「ん?ジョーちゃんが産んだんじゃねえのか?」
「残念ながら私は男でして」
「なっ?!そいつはすまねえ。てっきり女だと……」
「かまいませんよ。そういう産まれですので」
(そりゃそうだ)
絡新婦。日本各地に伝わる妖怪の一種。美しい女の姿に化け男を誘う妖怪。
その容姿は男の形を成しても女性と間違えるほどの美貌なのだ。
「じゃあ、その坊主とは主従関係なのか?」
「そうですね。遠からずです。さて、そろそろ始めましょうか。あまり待たせると知導様が退屈してしまいます」
(人を出しに使うなっ)
知導は絡新婦を睨むが微笑み返されただけだった。
「じゃ、まあ。気乗りしねえが始めるぞ」
「はい。いつでもどうぞ」
アエンは大きい斧を構える。
対する絡新婦は構えることなく自然体に立っているだけ。
(魔術系なのか?それとも体術……いや、あの体じゃヒョロすぎる)
「始めっ!!」と受付嬢のリリーの合図でアエンは走り出す。
大斧を絡新婦に向かい思いっきり振りかざすも、彼は逃げる素振りを見せず涼しい顔でアエンを見つめる。
「悪く思うなよ!……っ?!」
絡新婦の体に触れるギリギリでアエンの大斧は動きを止める。いや、止められた。
絡新婦はスタスタとアエンの横を通り過ぎるとクイッと人差し指を動かす。
するとアエンは繭のような糸に体を拘束されてしまった。
「迫力は良いのですが動作が大きすぎます。それでは隙だらけですよ」
「お、おう??」
冒険者登録もしていない若造に簡単に敗れ、アエンは生返事をするしかなかった。