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「もう……変に身構えて損した!!」


自習部に戻る最中、俺の隣を歩く由紀は大層ご立腹の様子だった。


「なんで、この時期にあんなこと頼むの?今は受験がなによりも大切じゃない!しかも、こっちはあんな寒いなか震えながらずっと待ってたのに」


「まあまあ、落ち着けって。先輩からしたら重要なことだったんじゃないか?それに先輩はこう言われるもの織り込み済みだったと思うぞ?」


未開先輩だってバカではない。


バカ真面目な由紀にこういう話をすれば、今みたいな返答が来ることも予想していただろう。

だけど、実際に面と向かって言われてしまうとより現実を突きつけられた気がして、あんな顔になっていたんじゃないだろうか。


「じゃあ、なんで言ったのよ。踏みとどまればよかったじゃない」


「そうは言っても先輩には先輩の考えがあったんだろ?」


「考え?」


「だって、未開先輩だぞ?なにも考えずに勢いで打ち明けるタイプじゃないし」


「確かに…」


聞かされたのは、その相手を好きになったことだけ。

他はまだ知らないことが大半で当然その真意まではまだよくわかっていない。

由紀から鋭いことを言われるリスクを抱えてまで打ち明け、協力を要請したのかも。


「私、キツく言いすぎたかも…」


冷静になって、しゅんとする由紀の肩をポンポンと叩いて慰める。


「大丈夫だ。先輩だって、心の中ではわかってるから」


「そうかしら…」


「そうそう!まず、第一に由紀はおかしいこと言ってないんだからそんなに落ち込むな」


「うん……」


そう言って慰めても彼女の顔はどこか曇り空だった。


「それでも心配なら、先輩が合格したらみんなで合格祝いしに行こうぜ?」


「合格祝い?」


「そう、自習部の部員全員でだ。その時にでも謝ればいいさ。今は、受験に集中させてあげよう」


どちらも心の整理が必要な時だ。

ここは一旦時間を空けるのが賢明。

由紀にそう提案すると、暗い顔をしながらも納得したようにコクリと頷くのだった。



「いやぁ〜、今日の内職も大変だったぁ〜〜!!」


宇宙一怠惰な部長ことキタ先輩の課題を手伝っているうちにあっという間に時間は過ぎて学校の閉門の時間が差し迫っていた。


「うぉおおお!!ゆきゆきのおかげで全部終わったヨォ〜〜!!ちゅきちゅきあいちてるぅ〜〜!!」


「はいはい、ありがとうございます」


都合のいい時だけの求愛行動。


最初こそ、ドン引きものだったが慣れとは恐ろしいものでもう何も感じなくなってきている。

それは、自習部員である由紀や相永も同じだった。


「ふぅ〜〜!今日はかなり捗ったわね」


「そうですね、提出期限が迫っていたおかげで轟部長も静かでしたし実に有意義な部活動でした。ずっと、こうならいいのに」


「お〜い!ミコミコ??聞こえてるよぉ??」


小さな暴言さえ聞き逃さない。

これが轟希多である。


「うう〜ん。アタシの愚痴を言うとはミコミコもずいぶんと偉くなったじゃないかぁ??ううん??」


「別に私は偉くなってません。轟部長が勝手に沈んでいっただけです」


「おおおおっ!!?いま言っちゃいけないこと言わなかった!?」


「事実でしょ……」


「おーい、冬峰ぇ!?ばっちり聞こえたぞぉ~~??」


小さく溢した愚痴でさえ聞き逃さない。

これぞ、キタクオリティー。


「よぉ〜し!!2人の意見はよ〜くわかった。そこまで言うんなら、私がどんなに偉大かってのをみっちり語って聞かせないとね!!ほら、帰りにファミレス行くよ」


そう言って、キタ部長は2人を捕獲する。


「私は家に帰りたいのですが…」


「同じく…」


「ダ〜メっ!自分の発言に責任を持たなきゃ。これも立派な社会勉強だよ?」


「イヤですよ……これのどこが社会勉強なんですか。事実を述べただけなのに」


「私の友人曰く事実陳列罪というものがあるらしいわ。法務省のサイトにはそんなの載っていなかったのに」


「私も聞いたことありませんね。いったいどういったものなのでしょうか」


「よぉ〜し!じゃあ、それも含めて話すとしようか。すぐには帰さないから覚悟しといてねぇ〜??」


そう言って2人を連れ出そうとする。

もちろん、2人は抵抗するが先輩の力が強すぎるあまり抵抗にすらなっていない。


「ゆ、幸成っ」


助けを求める2人の視線が俺に注がれる。

いや、別に俺が助けてやる義理なんてないんだが?


だが、このまま連れていかれるのは可哀想でもあったのでひとつだけ助け舟を出してやることに。


「キタ部長。ほら、ファミレスって結構量頼むと値段張るじゃないですか?金欠の2人にはちょっと厳しいかも?」


「え?そうなの?」


俺の言葉に耳を傾けたキタ部長が2人を見直す。

これを好機とばかりに2人は高速で首を縦に振るのだが、そんなものキタ部長には通じなかった。


「そうかぁ~!でも大丈夫。お代なら全部あたしが払ってあげるから」


その瞬間、絶望の顔を浮かべる2人。


もう、諦めろ。

希多これは、俺たちにどうにかできるヤツじゃない。


お代は部長が持ってくれるって言うんだからよかったじゃないか!

好きなだけ食べてこいよ☆彡


と、連れ去られる2人を見てそんなことを考える。


いやいや、そんなこと考えてる場合か。


対岸の火事じゃないんだぞ?

いつその災禍がこの見に降り注ぐかわかったもんじゃない。

俺もあんな目に遭わないように、適度に胡麻をすることを心がけようと教訓にするのだった。



ひとりで帰ることになった俺は、日が沈んで薄暗くなった夜道をひとりで帰る。

学校を出て暫くは栄えた街並みが続くが、それを過ぎてしまうと閑静な住宅街が続くだけ。


もう少しで自宅が見えてくるというところで、スマホがブルリと揺れる。

メッセージが送られてきたらしい。


「誰だろう」


スマホを取り出し確認する。


『いま、時間あるか?』


送られてきたのはそれだけ。

俺は、『はい』と送り返すと来た道を戻るようにあの場所に向かうのだった。



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