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「いやぁ〜、なんとか終わった。まさか、放課後まで先生の手伝いやらされるとは思ってなかったなぁ」


夕日差し込む廊下を由紀と並んで歩く。

6限数学という地獄の日程を乗り越えた先に待っていたのは先生のお手伝いという名の雑用だった。今日は1日じゅうお利口さんにしていたし、早めに部活に行けると思ったのにこれではいつもと変わらない。


こうなったのも全て学級委員とかいうクソみたいな役職のせいだ。

来年は絶対学級委員なんてやってやるか。

例え、ジャンケンという強敵が目の前に立ち塞がったとしても俺は負けに徹してやる。

今度こそ、漢気というハードルを飛び越えてやるのだ。


「由紀も大変だっただろ?ごめんな、教室の仕事任せちゃって」


数学教師の数道先生に頼まれたのは新しい教材の運び出し。

出来る事なら一度に運べる台車を使えればよかったが、用具室に空いている台車はどこにもなく結局、手に抱えて何回か往復する羽目になった。


学級委員には常時活動として放課後の自教室の点検があるのだが、由紀に重いものは持たせられないと二人で役割分担をしていたのだ。


お互いの仕事がようやく終わり、こうして部活に向かう最中なのだが隣で歩く由紀がどういうわけか心ここに在らずの上の空。俺の呼びかけに何も反応せず、洗脳された人間のようにただぼーっと歩くのみ。


「由紀?どうした?なんか……あった?」


いつもしゃきっとしている彼女にしては珍しい。

彼女の魂が抜け落ちているようなその様はここのところ随分見ていない。

レアとも言えるそんな彼女を心配し、顔を覗く。


「え?な、なに?」


俺が大袈裟にジィーッと覗き込むとようやく気がついたのか、おろおろしながらも反応してみせる由紀。


「いや、だから学級委員の仕事大変だったよな〜って話」


「え、えぇ……そうね。大変だったわ」


こほんとひとつ咳払いすると、今までのことを取り繕うようにわざと落ち着いた様子を見せる。


「大丈夫か?心ここに在らずって感じだったけど」


そんな取り繕う様子に違和感が拭いきれず、俺は彼女に問いかけたのだった。


「べ、別に?なにもないわよ。ただ、ちょっとぼーっとしちゃっただけ」


「そうか?」


「そうよ」


早口でまくし立てる由紀。

明らかにいつもとは様子が違ったが、彼女がそう言う以上俺はそれを信じるしかない。


でも、なんかいつもよりも頬がほんのりと染まっているような……


夕日のせいかな?


カツカツと2人の靴の音がしんと静まり返った校舎に響く。無言で並ぶ由紀を横目に見ながらもそんなことを考えるのだった。




「すいませ〜ん。遅れましたぁ〜」


6限終了の予鈴が鳴ってから1時間以上が経過している。

これは、言い訳のしようがないほどの立派な遅刻。

きっと、体育会系なら身体にアザが出来ていてもおかしくないだろう。と、そんな昭和じみた想像をしながらも俺は部室のドアをガラガラと引いた。


「あ〜やっと来た〜。おっそ〜い!」


俺たちの視線の先にいたのは、短く折り曲げられたミニスカートの制服の下に体操着の長ズボンを履き、ブレザーを脱ぎ捨てワイシャツの上からジャージを羽織る少女の姿。


人目も気にせずあぐらをかいてどかりとパイプ椅子に座っている。背中まで伸びる長い赤髪が邪魔なのか、二つのお団子にしてまとめていた。


「キタ部長、またそんな格好してるんですか?」


暖房がガンガンと効いているため、寒くなくむしろ快適と言えるくらいの室温。

そのおかげか気温に無頓着になってメガネにジャージ姿という古い時代の漫画家を連想させるその姿は、こういう公共施設であまり見せて良い姿ではない。


「もちのもちよ!だって、この格好が一番楽なんだもん!ホントは、このジャージだって脱いでしまいたいけど、そうすると冬峰がちくちくうるさいからなぁ〜」


恥ずかしげもなく股を開くこの少女はとどろき希多キタ

俺たちより学年が1つ上の2年生でこの自習部の部長だ。


「轟先輩、だからそうやって股を開くのはやめてください!」


ジャージを履いていることをいいことに股を広げて遊ぶ希多部長に由紀の声が飛ぶ。


「え〜?別にパンツ見えてるわけじゃないからよくな〜い?」


どこまでも真剣に注意する由紀に楽しくなって揶揄う希多部長。


「見えてる見えてないの問題じゃなくて品の問題です。部長がそんな恥ずかしい姿しないでください」


「え?なら、部長じゃなきゃいいの?」


「え?」


「だって、冬峰の言い分だと部長以外ならしていいみたいじゃん。あ?もしかして、冬峰もあたしが羨ましくなっちゃった!?」


「そ、そんなわけっ……」


「いいんだよ〜、自分に正直になんなって。ここはすべてをさらけ出していいばしょなんだヨ?なんならあたしも一緒にやってあげるから。ほら?せ~のっ!」


「だからぁ……っ」


き、キタ部長…も、もう……そのへんで……という俺の言葉はキタ部長には届かない。

また勃発してしまうのか。あの争いが。

そろそろ由紀の我慢も限界の頃。


はあ……今日は部活すらできないのか……


と、諦めかけたその時だった。


「ちょっと、うるさいですよ?」


教室の片隅からこれまた聞き慣れた声が。


「相永……来てたのか」


「ふんっ……私はあなたと違ってサボったりしません」


そう言って立ち上がると、言い争う2人の間に入っていくこの少女は、相永あいなが美琴みこと

クラスは違うが俺たちと同学年の一年生だ。


ショートカットに四角いメガネがトレードマーク。

勉強に命をかけていて由紀に負けず劣らずの真面目ちゃんでもある。


「この際はっきり言いますがうるさいですよ、轟部長。もう少し口を閉じて慎ましくするってことができないんですか?」


先輩相手でも容赦ない物言い。


無礼と言えばいいのか肝が座っていると言えばいいのかわからないが轟先輩相手にはずっとこんな感じだ。


「え〜?別にそんなにうるさくしてないけどなぁ…」


「こっちからしてみれば十分喧しいです。お願いですから、部活の間ぐらいは口を閉じててください」


「でも、ミコミコもずっとブツブツ言ってるじゃん。あれはいいの?」


「あれは、アウトプットです。勉強法の一つとして確立されています」


眼鏡をクイッとし自信満々にそう答える相永。

対してキタ部長はそんな相永を見てニヤリと悪そうな笑みを浮かべると。


「え〜?なら、あたしもアウトプットやってみていい??MMOD!」


「なんですかそれ」


「え?(M)(M)この(O)っぱいD(D)カップの略だけど」


「んなっ…」


世にも最低なアウトプット。

サッと胸を隠す相永。


し、知らん。俺は見てなんかないからな。

彼女からの視線を感じ素早く視線を逸らした。


まったく、とんだとばっちりだ。

関係ない俺まで火炙りされるとこだった。


「相永さん。もう、この部長そのままにしておかない方がいいんじゃないかしら?」


「同感です。今すぐ弾劾裁判にかけるべきです」


「ほえ?」


「さあ、覚悟してください。轟部長」


「ひひぃ……ゆきゆき〜!た、たすけてぇ……!」


にじり寄る2人から逃げようと助けを求めるキタ部長。


すまん、ここで俺が庇うと矛先が俺の方に向いてしまうんだ。

最近、由紀の機嫌を損ねたばかりだし、相永はさっきの件がある……


くっ……心苦しいがここは、お灸を据えられてくれ。


目を瞑り、下を向くと終わりを悟ったキタ部長の顔が絶望の色へと変化する。


「おおお、おかしい……これは、何かの間違いなんだぁああああ〜〜!」


と最後の悲鳴をあげてから彼女は30分間説教に晒されるのだった。



「うぅ…うっ…ゆきゆきのバカ。おたんこなす……」


「いや、俺にはどうすることもできませんよ」


ようやく2人から解放されたキタ部長はご立腹の様子で唇を尖らせ拗ねていた。

原因は俺が助けに入らなかったことらしいが、言ってしまえば全て彼女が蒔いた種だ。

どうして、そのあと処理を俺がやらなければならないのか。


「うぅ……いいもん。ゆきゆきに捨てられた女代表ってことで生きてやるから」


「それは色々誤解が生まれそうなんでやめてください」


最悪の場合、どこかの団体が立ち上がりそうだ。


「だって!ゆきゆきが助けてくれないからじゃん!あたしの最後の砦でしょ?ヤバくなったら助けてくれるって約束じゃん!」


「あのですねぇ……ものには限度ってもんがあるんですよ。俺だって命を懸けるならそれに見合った報酬を頂かないと」


俺だって命は惜しいんだ。見合った価値でなければすることはできない。

そんな俺の冗談をぽかんとした様子で聞いていたキタ部長だったが、なにかひらめいた素振りを見せると徐に上のパーカーを脱ぎだした。


「ちょっと?キタ先輩??なにしてるんすか……」


「ほ、報酬??それって、ゆきゆきは見合った報酬さえあればどんなことでもしてくれるの?もぉ~そ、そこまで言うならしょうがにゃいなぁ~。……ゆきゆきだけだゾ?」


「はい、ストーップ!!そこまでです。やめてください」


パーカーをひらりと放り投げたキタ部長を全力で止めた。

これ以上はまずい。

越えてはいけないラインだ。


「むふふ?なに?まだ何もしてないけど?」


「俺を巻き込む気満々でしたよね?やめてください」


「ちっ……バレたか。これだから、勘のいいガキは」


「それ言ったら部長だって大差ないでしょ」


息を吸うように俺に薪を焚べるのどうにかしてほしい。

ほら、今だって俺たちの背後で2人が目を光らせているから。

部長を慰める役として由紀たちから遣わされた俺だがこれでは己も攻撃対象になりかねない。


慰め役を巻き込もうとするとは……この女、油断も隙もあったもんじゃない。


「ほらほら、もう大人しく部活やりましょうよ。どうせ、今日も課題溜め込んでいるんでしょ?」


「せいか〜い!!なんでわかったの?」


「そりゃ、わかりますよ。だって、部長の内職してますし」


そう言って俺はカバンからノートを取り出すとキタ部長に手渡した。


「わーい!!やったぁ~!ありがと!!こーれ、マジで大変そうだったんだよね〜!いや〜助かった。ゆきゆきだいすき!はい、これ報酬」


ちゃりーん!

キタ部長から2000円を受け取った。


「あの……報酬受け取っておいてこんなこと言うのもアレですけど、もっと真面目に学校生活送ったらどうですか?こんなに追試課題溜め込んでるのキタ部長くらいでしょ?」


「いやぁ……それほどでも」


「褒めてないです」


きっぱり言い切るとキタ部長は、ノートを抱え込みながらむ〜っと口を膨らませて不満を露わにしてくる。


「同じ穴の狢に言われるのは不服なんですけど」


「たしかにぃ……」


俺も課題溜め込んでるし、そう言われてしまったらそれまでだ。しかし!!


「由紀からも言ってやってくれ!先輩を奮い立たせるんだ」


「無駄でしょ?これは、不治の病よ」


「ぐはっ……」


「あ、相永……お前なら」


「期待するだけ無駄ってやつです」


「お……え……」


おい、俺は奮い立たせろと言ったはずだ。

追い打ちをかけてどうする。


「それに、言ってしまえば幸成も同類ね」


「え……」


「こやつは、学校のなかでも最弱ってやつです」


「ごほっ……」


何故か俺にも矢が突き刺さり気付いたら俺は部室の床で寝転んていた。


「なんだ……寝てたのか」


ここのところ、お利口にしてたからその弊害なのかもしれない。

てか、そういうことにしておきたい。


「あれっ?そう言えばキタ部長は?」


「先に帰りましたよ?血涙を流しながら」


「あぁ…なるほど」


俺が眠ったことにより居た堪れなくなったんだな。


「そう言えば、部長から冬峰さんと三末さん(学年20位さん)宛のメモを受け取ってました」


「おい、お前……いま俺のことなんて呼んだ?」


「メモ?」


「はい、なんでも先代の部長からだとか」


「ふ〜ん」


俺の抗議もサラッとスルーして、由紀はメモ用紙を受け取った。

そして、無言で目を通す。


「何が書いてあったんだ?」


俺がそう尋ねると、由紀はこちらにメモ用紙を渡してくれた。

そこに書いてあったのは、


明日の午後4時。

体育館裏で待つ。


どうやら、果たし状らしい。


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