24
3月中旬。
未開先輩の第一志望合格と卒業式を終えて、残すは合格祝勝会と今日の作戦実行日だけどなった。
「さあ、福城先輩。いよいよ本番ですよ?準備はいいですか?」
「あ、ああ……わかっている………じゃなくて…わかってます!」
「うんうん、相永との特訓の成果ちゃんと出てるみたいで安心しました」
「そ、そうですか?嬉しいです」
そう言って福城先輩(清楚の姿)はにこやかに笑みを浮かべる。
いや……この人が福城先輩だと思うと違和感半端ないなぁ…
正体を知らなければ、絵に描いたような清楚美人なのに素を知っているせいか説明しようのない違和感が生まれている。
まあ、これもうまくいってるということの表れだろうし気にしたら負けか。
「先輩?未開先輩を呼び出すことには成功しましたが、誰が来るのかは伝えていないので会ったらまず自己紹介からお願いしますね」
俺たちは、一度先輩の要求を突っぱねている。
それなのに、今更やっぱり協力しますなんてことは流石に言えなかった。
だから、今回は先輩に会いたがってる人がいるから会ってほしいとしか伝えていないのだ。
「わ、わかった……じ、自己紹介だな。ま、任せろ」
「先輩、また口調戻ってますよ」
「あ、そ、そうですね。私としたことがすみません」
福城先輩にしては珍しく緊張している。
普段何に対しても物怖じせず飛び込んでいくタイプだというのに。
彼女にとって今日という日はそれだけ大切な日なのかもしれない。
「今日は、ちょっと風が強いですね。ロングスカートなので滅多なことは起こらないと思いますけど一応気を付けてくださいね」
「わ、わかりました」
3月下旬ということで春の暖かさを予想して由紀と服装を決めたのだが、今日はいつもより風が強かった。
くそぉ……こういうことも想定してパンツにすればよかったなぁ…
だが、パンツでは清楚を十分引き出すことは不可能。
どちらかを犠牲にしなければならないなかで俺たちは当日の天候に賭けたのだが……
見事に目論見は外れたと……
こうなってしまっては仕方ない。
福城先輩には負担をかけるがそちらにも気を配ってもらうしかないだろう。
「相永と由紀はもうそれぞれの地点で待機してます。何かあったらそのイアホンに連絡入れますね」
「りょ、りょうかい」
福城先輩コクコク頷く。
よし、これで準備は整った。
あとは、未開先輩が来るのを待つだけだが。
「あっ……来ましたね」
ちょうどよく待ち合わせ場所に現れる未開先輩。
今回は前みたいに遅刻せずに時間通りの到着だ。
「じゃあ、俺たちは陰から見守ってますんで頑張ってください」
「わ、わかった。い、いってくる…」
ガチガチに緊張しながらも福城先輩は未開先輩の方へ歩いて行った。
よし、作戦開始だ。
「こちら、メインポイント。ターゲット到着。開始する」
「了解」
「了解」
2人からしっかり応答が返ってきた。
無線機の不具合も大丈夫そうだ。
茂みからこっそり2人の様子を見守っていく。
◯
福城は、心臓をバクバク言わせながら元部活仲間のところへと歩いていた。
不安や緊張が彼女を支配し、押し潰そうとしてくる。
(大丈夫だ……あれだけ練習したんだから大丈夫)
その彼女の支えになっているのは、相永と行った特別レッスン。
文面で清楚を装うのと実際にやることの難易度の差を実感したのもこの時だった。
長年染みついた自分の口調というものは意識していても簡単に治せるわけではない。
彼女は相当の努力をして今日という日を迎えていたのだ。
(付き合ってくれた相永のためにも成功させねぇとな…)
成功を笑顔で報告する。
それが最高の恩返しになると信じて。
「あの……」
「はい……?」
「未開拓斗さんですよね?」
と彼女は彼に話しかけたのだった。
◯
「はい、確かに俺は未開拓斗ですけど…キミは?」
待ち合わせ場所についていた未開はスマホをいじっていた。
誰かに連絡するつもりだったのか、話しかけた福城を眺めながらもなおそのスマホを仕舞おうとしない。
「わ、わたしは………その」
作戦通りならここで福城が自分のニックネームを告げる。
MTYLで2年間愛用してきたあのニックネームを。
(言え……ちゃんと言え……)
そのニックネームを言うだけ。
しかし、言葉が喉を通ろうとしない。
怖がっていた。彼にこのニックネームを伝えてどんな反応が返ってくるのか。
「あの………大丈夫……ですか?」
ずっと、俯いたままの福城を心配そうに覗く未開。
その時だった。
激しい強風が2人を襲ったのは。
「おわっ…!」
「キャッ…」
自分の身体すら持っていかれそうになるほどの強風。
身を屈めその強風に耐える過程で福城は衝動的に両手でスカートを押さえた。
強風は刹那だった。
瞑った目を開けると、そこには髪の毛が風でボサボサになった彼がいる。
その彼は驚嘆するかのごとく口をあけて、福城を見ていた。
「《《福城》》……?こんなところでなにしてるんだ?」
「あっ……」
強風により取れてしまった福城のウィッグ。
しなやかな金髪が晒された。
いくらメイクをして、清楚な様相を呈していたとしても。
その特徴的な髪色から、未開は自分の目の前にいる人が誰かを悟った。
それは、この作戦の失敗を表していたのだった。
◯
「福城せんぱ〜い。メイクで清楚っぽさを出すのはなんとかなりそうですけど、やっぱり髪はどうにもなりませんよ〜」
由紀の友達で今回の作戦におけるメイク担当一林ととが自身のメイク道具を漁りながらそんなことを言った。
「そうなのか?」
「は〜い。だって、先輩の髪色特徴的だし、全然清楚って感じじゃないですよ〜。黒色に染めたらどうですか〜?」
「いや……でもな……染めるのは…」
彼女は自分の髪をとても気に入っていた。
たとえ、作戦で黒に染める必要があったとしてもできればこのままがいいと。
「染める以外の方法はねぇか?」
「う〜ん、それだとウィッグしか残ってませんけど、これぴったりハマるタイプじゃないとふとした時に落ちてきたりしますからね〜?」
「わかった。気ぃつける」
確かにそう聞いていた。
それなのに。
(くそっ……なんで、アタシは……)
スカートに気を取られていたこともあった。
しかし、何よりも未開を目の前にして頭が真っ白になってしまった。
おそらく、これに尽きる。
「三末から、会いたい人がいるって聞いてたが福城だったとはな。久しぶりだな。元気か?」
もう、彼にとって目の前にいるのは福城笑菜。
チャット相手ではないのだ。
(わりい……みんな、アタシはもう……)
この雰囲気からやり直すほどの気持ちがもう彼女には残されていなかった。
あまりにも呆気なく、作戦は失敗という形で幕を下ろしたのだった。




