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放課後の帰り道。
日が沈みあたりが薄暗くなるなか、由紀と幸成は消雪パイプで雪が溶けた歩道を並んで歩く。
この時間になると帰宅ラッシュも過ぎたのかすれ違う車はまばらでとても静かな様相を呈していた。
建物から漏れる灯りや街灯を頼りに自宅を目指す。
「いやぁ……今日は大変な日だったなぁ……」
う〜んと腕を天に掲げ目一杯背伸びをした幸成が白い息を吐きながらそんなことをこぼす。
まるで自らも被害者だと言わんばかりの物言いに由紀は冷静にツッコミを入れた。
「そうは言っても……半分は幸成のせいだけど」
「半分!?いやいやいや、そんなことないって。確かにちょ〜とだけ俺に非があったのは認める。だけど、半分は言い過ぎじゃないか?」
幸成がやったことと言えば、福城先輩を学校に召喚したことぐらい。一見するとそんなに悪いことをしているようには見えないかもしれないが福城先輩の口から直接的に今回の協力内容を聞いた由紀からしてみれば、今日の災難の半分は彼によってもたらされたと言っても過言ではない。
「なにもやってない?ほんとうにそう言い切れる?自分の胸に手を当ててもう一度よく考えてみて」
そう言って由紀はムスッとした顔をつくる。
相永と幸成の勝負を横から見ていて、由紀はずっと不思議に思っていた。いくら相永が幸成のことを快く思っていないとは言え、3年生の祝勝会の協力を断るのかと。
彼女にしてみても3年生には大変お世話になっていたはずだから幸成の頼みであったとしても断るとは考えずらい。由紀は由紀なりに勝負する意義をずっと考えていたが、さきほどの相永の反応で全てが腑に落ちた。
「いやぁ……あれは……そのですねぇ…」
どうやら身に覚えがあったようで監視されながら胸に手を当てていた幸成は自分さえ誤魔化しきれなくなったのかバツが悪そうに由紀から視線をそっと逸らす。
「はあ……ほんと、とんでもないものに巻き込んでくれたわね。最初は祝勝会の協力ってそう言ってたじゃない」
「それは、由紀に計画が悟られないようにするダミーだ。相永はまだしもキタ部長と由紀には知られるわけにはいかなかったからな」
福城によるとこの計画は轟希多と由紀には漏らしてはいけないという緘口令がしかれていた。
理由はすぐ顔に出て誤魔化すことが下手くそだから。
福城の口から直々にそう言われたときは、さすがの由紀も苦い顔をするしかなかった。
「私ってそんなに嘘が下手かしら…」
自分では自覚がない。
むしろ、得意分野だと思っていた。
「上手いか下手かって言われたら、下手だな」
「そう……」
幸成からストレートに言われて若干落ち込む。
しかし、彼の言葉にはまだ続きがあった。
「でも…俺は、それでもいいと思う。だって、お前の場合は最初から下手なんじゃなく下手に《《なった》》だからな」
「下手になった?」
隣を歩く幸成を見上げて首をかしげる。
まんまると見開いたその瞳は暗にどういうことかと彼に尋ねていた。
「そうだ。お前は嘘を吐くことが下手になった。あの頃よりも断然」
どこか嬉しそうな弾んだ声で幸成は続ける。
「覚えてるか??入学当初のお前はさ、誰が話しかけても決まって塩対応で誰ともつるまず、ずっと一人だっただろ?言葉も顔も声も冷たくて言ってしまえば不気味なヤツだった」
「ひどいわね。まあ、確かにそうだったけど」
過去の自分を思い出し自嘲的に言葉を返す。
「それが今ではどうだ?こんなにも表情豊かになって、嘘が下手だと周りに言われるようになった。前の由紀からしてみたら素晴らしい成長だと思う。俺は純粋に嬉しいよ」
「なんかそう言われると私が幸成のペットみたいで素直に喜べないわね」
褒められてはいる。だが、どこか素直に喜べない自分がいた。
「由紀が俺のペット?逆だろ」
「なにが言いたいの?」
「いやぁ……?なんでも?」
わざとらしい口笛を吹く幸成を見て自然とため息が零れる。
「はあ……私たちの間にそんな関係存在しないでしょ?」
「俺らはそうかもしれないけどクラスの連中はみんながみんなそう思ってるとは限らない。夫婦漫才がわかるわけじゃないからな」
「め、夫婦漫才って……」
「一種の比喩表現だよ。具現化するなら一番近しい表現だろ」
「でも、私たち夫婦じゃないでしょ?」
「だから、比喩表現だって。真に受けるなよ」
「い、いちいちそんなこと言われなくともわかってるわ」
呆れた様子で言ってくる幸成にまくしたてるように言い返す。
ムッとした顔で彼を見ると視線が合ったので素早く逸らした。
「まあ、あれだ。あんなマイナス値だったのに今では由紀をリーダーだと思ってる。それってすげぇことだよ。ほんとにあれからよく頑張ったな」
ぽりぽりと頭を掻きながら、そんなことを言う幸成。
あまりこういうことを言葉にするタイプではない彼からの賛辞に心が温かくなった。
(あれから……確かにそうね。私もこうなるとは思ってなかったわ)
今とは全てにおいて真反対だった自分がなぜこうなったのか。
そのターニングポイントになる過去の記憶に由紀は想いを馳せるのだった。




